フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズの3戦が終わった段階で、真っ先にGPファイナル(12月5日~8日/イタリア・トリノ)進出を決めたのは、第1戦のスケートアメリカに続いて、第3戦のフランス杯を297.16点で制したネイサン・チェ…

 フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズの3戦が終わった段階で、真っ先にGPファイナル(12月5日~8日/イタリア・トリノ)進出を決めたのは、第1戦のスケートアメリカに続いて、第3戦のフランス杯を297.16点で制したネイサン・チェン(アメリカ)だった。

 第2戦のスケートカナダでは、羽生結弦が322.59点で優勝。羽生とチェンに続く得点を出しているのは、フランス杯で2位だったアレクサンドル・サマリン(ロシア)の265.10点で、現時点でGPファイナルの優勝争いは、羽生とチェンの一騎打ちとなるのが濃厚だ。

 スケートカナダの羽生の演技は圧巻だった。シーズン初戦のオータムクラシックのあとは、フリーで4回転ルッツを組み込む可能性も示唆していたが、スケートカナダでは4回転はループとサルコウ、トーループの3種類で行くことを決め、迷いのない状態で臨んだ。



次戦はNHK杯に出場する羽生結弦

 自らの武器のひとつである「難しいつなぎ」を入れてしっかりジャンプを決め、GOE(出来ばえ点)加点を獲得する滑りを完成させることで勝負する、という気迫を見せた。

 ショートプログラム(SP)では、最初の4回転サルコウと次のトリプルアクセルを完成度の高いジャンプにし、4回転トーループ+3回転トーループは「少しグラついた」と不満を口にしたようにGOE加点は伸びなかったが、演技構成点はすべて9点台に乗せる評価を得て109.60点を獲得。

 そして、フリーでは最初の4回転ループは耐える着氷になってGOEはわずかな減点となったが、そのほかはノーミスの滑り。とくに基礎点が1.1倍になる後半3本のジャンプは、4回転トーループ+1オイラー+3回転フリップのほか、トリプルアクセルからの連続ジャンプを並べて、高得点の構成をしっかり決めた。

「前半に入れることもたぶんできたとは思います。ただ、それだと4回転トーループ+トリプルアクセルのシークエンス(連続ジャンプの80%の基礎点)をやっていた時もそうだったけど、ポイントにならないんだったらやる必要はないと思う」

 こう語った羽生は、スピンとステップもすべてレベル4にする滑りで、212.99点を獲得した。合計は昨季の世界選手権でチェンが出した世界最高得点(323.42点)に0.83点及ばなかったが、羽生が「まだジャンプだけでも3~4点伸ばせる」と話していたように、SPの4回転トーループ+3回転トーループの完成度を高めて、フリーの4回転ループをしっかり着氷すれば、世界最高得点の更新は十分可能だ。

 今季は、ここ2年ケガで出場できなかったGPファイナルへの意欲も高く、完璧な滑りをして325点超えを果たし、チェンと勝負したい思惑だろう。

 そんな羽生に対して、GPシリーズ前半で2戦を消化したチェンは、まだまだ全開という状態ではない。SPは2試合とも102点台を獲得。スケートアメリカでは冒頭を4回転ルッツにし、4回転トーループ+3回転トーループを入れていたが、最初のルッツはGOE加点0.82点と完成度は低かった。

 だが次のフランス杯では、4回転トーループ+3回転トーループと、4回転フリップにしてきた。トリプルアクセルのミスで2.29点の減点となったが、その目減り分を2本のジャンプの加点と、アメリカではミスをした終盤のふたつのスピンを修正して補っていた。

 フリーは、スケートアメリカでは3回転ルッツ+3回転トーループ、4回転フリップとプレッシャーのかからない入りで、次の4回転トーループ+1オイラー+3回転フリップは、フリップが2回転になるミス。さらに後半の4回転トーループが2回転になるミスもあり、196.38点となっていた。

 フランス杯では、冒頭の4回転ルッツで着氷を乱して単発になると、次の3回転ルッツに2回転トーループを付けてリカバリー。そのあとの4回転トーループからの3連続ジャンプはしっかり決めたが、後半の4回転サルコウと4回転トーループは着氷を乱して減点され、194.68点にとどまっていた。

 現時点での比較では、羽生の得点がほかの選手を圧倒している状況だ。ただし、チェンのジャンプの完成度がそこまでは高くなく、安全運転をしている状況だろう。

 チェンの強みは4回転の種類の多さにある。2試合でSP、フリー共に4回転ルッツと4回転フリップを入れ替えて試している。さらにフリーは、昨季の世界選手権では4回転がルッツ、フリップ、トーループ2本で、トリプルアクセル1本と3回転2本だったが、今季は2試合ともトリプルアクセルを2本入れる構成にしたうえで、4回転サルコウも入れている。

 チェンは、その時に調子のいい4回転を臨機応変に演技に入れてくる。また、これまでやや苦手にしていたトリプルアクセルを習得してきているだけに、今季は4回転を4種類5本、トリプルアクセル2本という構成で仕上げてくる可能性も高い。それをどこで組み込んでくるかが注目点だが、スケジュールに余裕を持って臨めるGPファイナルで実現することも考えられる。

 羽生の武器は、ジャンプ前の入りや、着氷したあとも含めた完成度の高いジャンプでGOE加点を獲得し、演技構成点を高得点にできることだ。羽生はNHK杯(11月22日~24日/札幌)のあと、中1週でファイナルに臨むことになる。どこまで体力を回復できるか、コンディション調整もカギになってくるだろう。