【連載】チームを変えるコーチの言葉~大村巌(4) 2019年限りでロッテの一軍打撃コーチを退任した大村巌が、20年からD…

【連載】チームを変えるコーチの言葉~大村巌(4)

 2019年限りでロッテの一軍打撃コーチを退任した大村巌が、20年からDeNAの二軍打撃コーチに就任する。指導者としてはこれで3度目の移籍になるが、DeNAは5年ぶりの復帰となる。

当時二軍で指導した筒香嘉智がメジャーに挑戦するだけに、早くも大村には「第二の筒香を育てて」と期待の声もかかる。では大村自身、これまでファームの若手にどう接してきたのか。まずは新人選手の育成方針を尋ねつつ、ロッテでのコーチングを振り返ってもらった。



来シーズンからDeNAの二軍打撃コーチを務める大村巌(写真右)

「新人の場合、今はキャンプの前に新人と担当コーチとの面談があるんです。たとえば、バッティング担当なら一軍と二軍のコーチ全員が集まって、そのうちひとりが選手と向き合います。いきなり、キャンプインの2月1日に『おまえ、じゃあ、この練習しろ』なんて言えないですから。そこで面談で『どんなバッターになりたいか』といったことを聞く。リサーチですね」

 面談で新人選手の特徴や願望などがわかったからといって、即指導に入るわけではない。いま持っている技術に触らず、1カ月から2カ月かけて選手を見る。即戦力と見込まれた選手は別にして、二軍始動の新人はとにかく見る。そこには選手の自主性を伸ばす意味合いもあるという。

「ただ、自主性と教育とのバランスが難しいですね。自主性を伸ばすことを目指すんですけど、新人の場合にはある程度、『これをしなさい』と言っておかないとわからない。わからない選手には『道はこっちだ』って教えてあげないといけないですから。それはもう完全に、無条件で教えることになる。コーチングじゃなくてティーチングです」

 選手をサポートし、目標到達へのヒントを与えて「導く」のがコーチングならば、目標到達に向けて最低限必要な答えを「教える」のがティーチング。大村としては、できるだけ答えを教えたくないのだが、ここ数年はティーチングの必要性を痛感してきた。

「新人も才能があってプロに入ってきている。だから我々としては何とか最大限に特徴を引き出したい。だけど、引き出し方が組織の方針と違ったりもするんです。たとえば、”やんちゃ”な選手。『ちょっと目をつぶって、自由奔放にやらせたほうが引き出せる』と我々は思うわけです。でも、組織には『こいつ何だ、態度が悪い』と見られる時がある。そう見られたら、この世界からは消えてしまう。だから、規律正しく管理されたなかで難しいかなと感じた選手には、とくにティーチングが必要だなと」

 一方で新人の場合、それこそ選手自身に聞いた願望、求めるものと、チームとして必要なことが違う時がある。

「アマチュアではずっと4番で、バントなんかやったことない選手が入ってくる。でも、その選手がプロでは1番とか7番を打つことがあるわけです。そうしたら『やっぱりバント練習もやろう。プロの世界では必要だから』って教えることになる。『ゲームで必要になるときがあるからやってくれ』と。その上で、『フリーに打つ時のために、おまえのバッティングをつくっていこう』って言いますね」

 大半の新人選手にはコーチングとティーチングの両方が不可欠であって、丁寧な説明とともにモチベーションを保つための言葉も大事になる。そう考える大村は、コーチとしての自分に対する周りの目も意識する。新人の目はもとより、今回のように自身が新しいチームに迎えられたときも同様だ。

「一歩、グラウンドに入った時、自分がどう見られているか。話しやすそうなのか、ちゃんと話を聞いてくれそうなのか。あるいは、ほしいアドバイスはこの人に聞いたらもらえるのか……とか。これはいつも気になります。要は、話しやすい印象を与えているかなんですけど、いざ話す時には、僕の経験などを伝えながら、逆に『今、何が流行ってんだ?』って聞く時もあります。わからないですからね。なるべく選手と近い言葉を使ったりしています」

 そんな大村にとって、コーチとして手応えを感じるのはどういう時なのか。当然、若い選手の成長が目に見えた時と思われるが、それは結果が出ることが第一なのだろうか。

「もちろん、試合で打ってくれるのはうれしいですよ。とくに僕自身、二軍から一軍担当に変わった今年は、たとえば、香月(一也)が初めてホームランを打った時や、三家(和真)がプロ入り初ヒット、初ホームランを打った時とか……。そういうシーンを目の前で見ていると、暑いなか、浦和(ファームのグラウンド)で頑張ってきた選手が、僕に怒られたりしながらやっていた選手がこうして打つんだな、ってうれしくなります」

 二軍から一軍に上がってくること自体うれしいのだから、それで結果が出れば喜びは倍増するわけだ。ところで、二軍の若い選手を怒る、ということはティーチングの一環なのだろうか。

「怒る、という言葉は適切じゃなかったですね。コーチングで”違う”ってよく言いますけど、僕の場合は”諭す”ですね。少し前に、怒るも叱るもその指導者の感情じゃないか、と思い始めてきて……選手に対して、『なぜそれがいけなかったのか』『なぜそのことをしたのか』というところを聞いて、じゃあ、それに対してどう思っているのか、今後どうしていけばいいのか、それによって周りへの影響はどうだったのか、ものすごく細かく、冷静に諭してあげます」

 怒りの感情で「何してんだ!」って叫んでも、それは大きい声や怒鳴り声、恐怖によって一時的に改善されるだけ。10年、20年、ずっと改善してほしいと思う大村は怒らない。これまで、怠慢で犯したミスに対して1、2回、ポーズで怒鳴ったことはあったが、若ければ若いほど「ビクッとするだけ」とわかってから一切やめた。

「日本ハムの時、まだ現役だった金子誠から言われました。『大村さん、怒ったことあるんですか?』って聞かれたので、『ないな』って答えました。ガーッて腹が立つかもしれないけど、相手に『腹立ってます』って伝えたところで、どうにもならないから。そりゃ、試合でね、インコースにバーンと際どいところにきたらガーッて怒ったことありますけど、指導のなかではないですね。自分が疲れてきますから。それよりも、ちゃんと、本当によくなってほしい」

 よくなってほしいがために、結果を出した選手はすぐに褒めることにしている。それも思い切り褒めちぎる。

「若手はそこでゴールじゃないんで、引き締めなきゃいけないんですけど、僕はそこは締めないんです。ものすごく喜んで『ああ、すばらしいね』って。翌日も『ああ、すばらしいね』と(笑)。選手によっては『いいか、ここからスタートだぞ』って言う時もありますよ。でも、だいたいは褒めちゃいますね」

つづく

(=敬称略)