取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎高校最強チーム、福岡第一の強さを支えているのが留学生プレーヤーの存在だ。言葉通り『日本人離れ』したサイズとフィジカルを持つ彼らは、歴代のチームで大黒柱となり、数々のタイトル獲得に貢献してきた。ただ、彼…

取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

高校最強チーム、福岡第一の強さを支えているのが留学生プレーヤーの存在だ。言葉通り『日本人離れ』したサイズとフィジカルを持つ彼らは、歴代のチームで大黒柱となり、数々のタイトル獲得に貢献してきた。ただ、彼らはバスケットボールをするためだけに海を渡って福岡第一にやって来たわけではない。バスケに打ち込みながら勉強も両立させ、自分の人生を作っていく志がある。昨年の高校2冠に大きく貢献し、3年生となった今年も勝ち続けるクベマジョセフ・スティーブの一日に密着。留学生プレーヤーではなく『一人の高校生』としての姿を追った。

「今も頑張って勉強していますが、漢字が難しい!」

福岡第一に国際科ができたのは約30年前。最初は英語圏をメインにして、日本人の生徒と交流することで互いに言葉と文化を学んでいた。そこから英語圏に限らず幅広い国から留学生を受け入れることになり、今も1学年に10人ほどの留学生がいる。バスケ部はと言えば、高校のルールとしてベンチ登録できる留学生は2人だけ。スティーブはコンゴ民主共和国の出身で、2つ上の先輩であるバムアンゲイ・ジョナサンに続いてコンゴ民主共和国から福岡第一にやって来た2人目の留学生となる。

コートで一際目を引く203cmの長身は、学校の教室だとさらに大きく感じる。それでも、コート上での自信たっぷりの姿とは違い、控えめで落ち着いた雰囲気だ。取材に訪れた日、日本語の授業で学んでいたのは敬語の使い方だった。「見る」が「ご覧になる」、「食べる」が「召し上がる」に変わるのはさぞ難しいだろう。スティーブは福岡第一に入学するまでフランス語とリンガラ語を使っており、日本語は全く分からなかった。

「授業は楽しいですが、すごく難しいです。僕は恥ずかしがりで、最初はしゃべれなくて恥ずかしかったです。しゃべれないし聞き取れないし、国に帰りたいと思ったこともありますが、慣れれば楽しくなりました。今も頑張って勉強していますが、漢字が難しいし、古典も大変です」

そう話すスティーブの日本語は、昨年末のウインターカップで取材した時よりも格段に上達している。案内役を買って出てくれた同じ3年の小川麻斗は「1年生の時は僕たちが言ったことを全然理解できませんでしたが、今は理解できるのはもちろん、スティーブからコミュニケーションを取ってくるようになりました」と教えてくれた。そこには想像もできないほどの努力があるに違いない。

「一番のストレス発散は試合で勝つことです」

昼食は学食で、朝と夜の食事は寮で。普段はどんぶり飯を2杯か3杯は食べるそうだが、取材で照れたのか、『ミックス』(牛カツとトンカツ)が出された昼食のご飯は大盛り1杯のみ。「学食も寮も食事はおいしいです。牛肉が好きですが、トンカツも好き」と話すスティーブ。入学した時は細長かった身体は、食事とトレーニングでマッチョになった(ちなみに「スティーブの3倍は食べる」という大食漢が3年の齋藤友紀だそうだ)。

コンゴ民主共和国では芋を粉にして練った『フフ』が主食で、手で食べる。箸は使ったことがなかったし、食習慣も全く異なるが「慣れるのに時間はかかりませんでした。大変なのは言葉だけ」とスティーブは笑う。

留学生とはいえ、普段の学校生活は一般の部員と変わらない。寮生活で、毎朝6時に起床。朝練があってミーティング後に授業が始まり、15時半からバスケ部の練習。18時に練習を終えて寮に戻って食事をし、また体育館に戻ってシューティングなど個人練習をする。どこにも負けない練習量をこなす福岡第一だけに、一日の練習を終えて寮に戻るとさすがのスティーブも疲れ果てており、そこから勉強はなかなかできないそうだ。

4人兄妹の3番目で、国外で暮らしているのはスティーブだけ。ビデオ通話で家族と話すことはできるが、入学から今まで国には一度も帰っていない。わずかなプライベートの時間は、テレビを見て楽しむ。世界でも大人気の『ドラゴンボール』はコンゴ民主共和国にいた時からのお気に入り。今は『HiGH&LOW』と『クローズゼロ』にハマっているそうだ。「でも、一番のストレス発散は試合で勝つことです。去年は練習も楽しかったし優勝もできました。今年も楽しいので、優勝したいです」

将来の夢は「プロバスケットボール選手とモデル」

スティーブは留学生として福岡第一に来た理由を「まずは勉強、言葉と文化を学びたかったです。その次がバスケです」と語る。「日本にはすごく興味がありました。生活が良いのが気に入っていたし、食事もおいしくて仕事も多いです。日本語を勉強して、日本で働きたいです」

最初は恥ずかしがり屋だったというスティーブだが、そのキャラクターについて河村勇輝はこう教えてくれた。「学校ではそんなにしゃべるタイプではないのですが、体育館で練習が終わった後には結構はしゃぎます。チームメートをイジる時に、たまにですけど悪い言葉も使うようになりました。日本語で冗談も言えるし、それが面白いです」

「悪いところもいっぱいあって」と河村はいたずらっぽい目で続ける。「自分がトレーニングはかなりできるので、できない子たちを追い込むキツいトレーニングをさせたり、キツいメニューになると僕に当たってきたり、そういうところがあります」

そのスティーブの将来の夢は、「日本でプロバスケットボール選手とモデルになること。ビジネスもやりたいですが、何をやるかはこれから決めます」とのこと。ファッションモデルとは意外だが、小川によれば「私服がすごくオシャレです。左右対称じゃない服を着てたり、ネックレスしてたり(笑)」とのこと。

日本における父親代わりの井手口孝監督は「ああいう外国の子たちに日本の心を持ってほしい」と語る。「日本人の礼儀正しさや我慢強さは世界のトップで、素晴らしい民族だと私は思っています。彼らがアスリートになるとすると、生まれ持った運動能力に日本人のハートが合わさったら、こんなに強いことはないですよ。だから私は、日本人以上にとは言いませんが、日本の子たちと同じぐらい厳しく教えようと思います」

そんな高校生活もあと半年。スティーブにとっては高校バスケの総決算となるウインターカップが近づきつつあるが、その前に彼には大きな目標をクリアしなければならない。大会前、12月の日本語検定をクリアするために留学生たちは猛勉強中。ウインターカップの取材対応で、今回よりまたさらに上達したスティーブの日本語が聞けることを楽しみにしたい(と、プレッシャーをかけるよスティーブ!)。