チャンピオンズリーグ(CL)第4節は、第3節と同一カードをホームとアウェーを入れ替えての対戦となる。第3節で接戦、好勝負を演じた一戦には自ずと目を凝らしたくなる。 代表的な試合は、H組のアヤックスとチェルシーだった。第3節は終了間際、…

 チャンピオンズリーグ(CL)第4節は、第3節と同一カードをホームとアウェーを入れ替えての対戦となる。第3節で接戦、好勝負を演じた一戦には自ずと目を凝らしたくなる。

 代表的な試合は、H組のアヤックスとチェルシーだった。第3節は終了間際、交代出場のミシー・バチュアイ(ベルギー代表)が奪った決勝ゴールで、アウェーのチェルシーが0-1で勝利した。しかし、アヤックスのゴールがVARで取り消しになるなど、差はわずかで、グループリーグにしてはハイレベルのスペクタクルな接戦だった。

 両者の噛み合わせの妙というべき関係は、それから2週間が経過しても失われていなかった。むしろ加速していた。チェルシーのホームで行なわれたこのリターンマッチ。最終スコアの4-4という結果からも推察できるが、中身はスコアから受ける印象以上に面白かった。滅多にお目にかかれない、名勝負の域に達しようかという娯楽性満点の好試合となった。



2点をリードしながら、センターバック2人が同時に退場処分となったアヤックス

 まず前半2分にアヤックスがチェルシーのオウンゴールで先制すれば、4分にチェルシーがPKを得て入れ返す。試合は開始当初から荒れていた。

 撃ち合いの様相を呈したが、攻撃が機能していたのはアヤックスだった。前半20分、昨季も大活躍したハキム・ジエク(モロッコ代表)のクロスボールを、今季セビージャから獲得した左ウイング、クインシー・プロメス(オランダ代表)が頭で合わせ、1-2とする。さらにアヤックスは35分にジエクが直接FKをねじ込み(記録はGKケパ・アリサバラガ/スペイン代表のオウンゴール)、1-3とする。

 後半に入っても流れは変わらず。10分にはチームの柱、ドニー・ファン・デ・ベーク(オランダ代表)がマイナスの折り返しを蹴り込み1-4。勝負あったかに見えた。

 昨季、CLの舞台で、久方ぶりに快進撃を披露したアヤックス。準決勝でトットナム・ホットスパーに逆転弾を撃ち込まれ、決勝進出こそ逃したが、世界のサッカー界に溢れんばかりの好印象を残すことになった。

 その時のメンバーから中心選手のマタイス・デリフト(オランダ代表)とフレンキー・デ・ヨング(オランダ代表)の2人を、それぞれユベントスとバルセロナに引き抜かれた今季はどうなのか。オランダの伝統チームの域にあえなく逆戻りしてしまうのかと心配された、

 しかし、損失はその2人だけで済んだ格好だ。前述のプロメスに加え、リサンドロ・マルティネス(アルゼンチン代表)、エドソン・アルバレス(メキシコ代表)と有力選手を獲得。チェルシーと戦ったホーム戦では惜敗したが、もうひとつのライバルチームであるバレンシアにはアウェーで0-3の勝利を収めており、第3節を終えた段階で、H組の首位に立っていた。

 チェルシーも一時期の勢いは失われたとはいえ実力派だ。ブラジル出身のイタリア代表、ジョルジーニョ、イングランドサッカー界期待の若手、メイソン・マウントなど、勢いのある好選手で固められている。だが、このチームの一番の注目は、なんといっても、監督歴2年目のフランク・ランパードになる。ダービー・カウンティの監督を経て、今季からチェルシーの監督に就任した、CL出場105回を誇る元名MFだ。

 チェルシーの監督と言えばジョゼ・モウリーニョのイメージが強いせいか、手堅い、どちらかと言えば守備的チームを連想するが、ランパードは決してそうではない。正統派の今日的サッカーを展開する。

 だからこそ、アヤックスに対していきなり4失点を喫してしまったという見方もできるが、4点目を奪われるとサッカーは一変。ホーム戦の意地も手伝いハイプレスから反撃を開始した。

 後半18分、セサル・アスピリクエタ(スペイン代表)が押し込み2-4、そして後半26分にはPKをゲットし、3-4とする。だが、このプレーには大きな判定が紐づいていた。アヤックスは、タックルに及んだダレイ・ブリントと、シュートを手に当てたジョエル・フェルトマンが、同時に2枚目のイエローで退場処分に課せられたのだ。

 一度にセンターバック(CB)2枚を失い9人になったアヤックスに対し、チェルシーは容赦なく攻め立て、その3分後(後半29分)、試合を4ー4とする同点弾をイングランド期待の若手リース・ジェームズが叩き込んだ。

 チェルシーの勢いは止まらない。後半33分、アスピリクエタがこの日2点目となるゴールを押し込んだ。5-4。逆転なったかに見えたその瞬間、VARが入って判定はノーゴールとなった。

 ここまででも十分に面白かった。大荒れの展開に酔いしれたものだが、この試合最大の見どころ、感激せずにはいられなかった場面は、この後に控えていた。

 9人と言っても、フィールドプレーヤーは8人だ。10対8。圧倒的劣勢の状況下に陥れば、普通ならゴール前を固めようとする。しかも残りは十数分。逃げ切りを図ろうとするものだ。

 ところが、だ。アヤックスは前に出た。最終ラインを下げず、高い位置からプレスをかけた。ボールを奪っては細かくパスをつなぎ、シュートも3本放っている。86分にエドソン・アルバレス(CBの!)がゴール正面から打ち込んだシュートは、チェルシーGKケパのビッグセーブがなかったら決勝ゴールにつながっていた。

 もちろんアヤックスもその間、チェルシーに攻められていた。バチュアイ、ハドソン・オドイに決定的なシュートを浴びていた。だが、攻撃は最大の守備と言わんばかりに、怯まず果敢に前に出た。時間稼ぎさえしなかった。ラグビー的な敢闘精神で対抗した。日本サッカー界に足りないものを見せつけてくれたという言い方もできる。

 アヤックスにとっては1ー4から4ー4にされた試合だが、試合後、ショックが大きかったのはどちらかと想像すれば、チェルシーではなかったのか。

 アヤックスと言えば、攻撃的サッカーを伝統とするクラブとして知られるが、エリク・テン・ハーグ監督率いる現在のアヤックスは、歴代のチームの中でも出色だ。

 比較したくなるのは、同日、ホームでスラビア・プラハと対戦し、きわめて退屈な0-0を演じてしまったバルサだ。アヤックスから移籍したフレンキー・デ・ヨングは上等なプレーを見せていたが、アヤックスから引き抜くべき人材は彼以外にもいたはずと言いたくなる。

 エリク・テン・ハーグ。クライフのDNAを受け継ぐバルサの監督には、エルネスト・バルベルデより、こちらの方が遥かにふさわしい。思わずそう言いたくなるアヤックスの、サッカーの理想が凝縮されたチェルシー戦ラスト十数分間の戦いぶりだった。