東海大・駅伝戦記 第68回

 全日本大学駅伝は、東海大が16年ぶり2度目の優勝を飾った。

 青学大とアンカー勝負になり、名取燎太(3年)が4キロ過ぎに逆転し、そのまま逃げ切った。2位の青学大に1分44秒差をつける完勝だった。

 大会MVPを獲得するなど、今大会の主役の演じた名取をはじめ、塩澤稀夕、西田壮志の3年生トリオが各区間ですばらしい走りを見せ、優勝に貢献した。今や3人はチームの中軸となり、黄金世代に刺激を与えられる存在になった。まさに黄金世代ならぬ”黄金トリオ”の誕生である。



全日本大学駅伝制覇に貢献した(写真左から)塩澤稀夕、名取燎太、西田壮志の3人

 3区の塩澤が西川雄一朗(4年)から襷を受けた時は6位。トップを走る東京国際大との差は23秒だった。

 3区は激戦区で、2位をいく駒澤大は神戸駿介(3年)、4位の国学院大は藤木宏太(2年)、5位の青学大は神林勇太(3年)、そして11位と出遅れた東洋大はエースの相澤晃(4年)だった。

 塩澤は、出雲駅伝で相澤と同じ3区を走り、並走していくなかでその強さを肌で感じただけに、「いずれ前にくるだろう」と想定していたが、その時はすぐに訪れた。スタートして4キロ手前、うしろから猛烈なスピードで追い上げてくる風のような音を聞いた。

「うしろから相澤さんが来た時、抜かれてもしっかりついていくと頭では理解できていたんです。でも、一瞬で抜かれて、力の差がありすぎて何もできなかった。悔しさはもちろんありますけど、あらためて次元が違うと感じました。来年、もっともっと強くならないといけないなって思いましたね」

 それでも塩澤は、相澤に抜かれたあと、7キロ過ぎから出力を上げ、まず神林を置き去りにした。10キロ手前で城西大と4、5位争いをするところまで順位を上げると、最終的に3位まで押し上げた。塩澤は先輩である館澤亨次(4年)が昨年打ち立てた区間記録(34分09秒)を破る33分57秒(区間3位)の走りで、トップの東洋大と39秒差で西田につないだ。

「まずまずの順位で西田に(襷を)渡せました。自分の役割は果たせたと思いますし、レース全般を自分のペースで押していけたのは大きな自信になりました。今年は出雲、全日本としっかり結果を残せていますし、箱根も走りたいと思っているので、長い距離も外さないで走れるようにやっていきたい」

 出雲駅伝は区間6位ながら、区間新をマークするなど、好調ぶりを結果で示した。故障もなく、走るたびに自信をつけている印象を受ける。両角監督も「安心して任せられる選手になりましたね。長い距離への対応ができれば、当然、箱根のメンバーにも入ってくるでしょう」と信頼を寄せる。集団走が得意でスピードもあり、安定感は抜群だ。箱根では3区、もしくは7区、あるいは1区という可能性も十分にある。

 塩澤から襷を受けた4区の西田は、いきなり突っ込んでいった。

「トップの東洋大が目の前に見えていたので、追える範囲かなと。それで突っ込んでいったんですが、走る前に西出(仁明)コーチに『おまえは突っ込んでも粘れる』と言われて、その言葉を信じて積極的にいきました」

 すぐに2位の城西大を抜き、トップの東洋大を追った。東洋大の今西駿介(4年)は箱根6区を担う山下りが得意な選手。山上りの西田とは異なるが、特殊区間同士の戦いで負けるわけにはいかない。ここまで西田は山の練習をせず、平地でスピードとスタミナをつける練習に取り組んできており、戦える力は備えていた。

「昨年よりもスピードがついてきたので、平地にも自信があります。力がついてきたのは、普段の練習にプラスアルファして量を増やしたのもありますが、練習に取り組む意識を変えたことも大きいかなと。ウチはメンバー争いが激しいので、一緒に練習するだけでは上にいけない。それで練習前に気を張るというか、気合いを入れて練習することを心がけています。何も考えずにやるよりも、意識して練習するほうが実になると思うので……」

 速くなるためには、高い意識で練習するのを習慣化していくことが重要になる。もちろん練習だけでなく、西田は昨年参加した実業団の夏合宿で服部勇馬(トヨタ自動車)から影響を受け、準備とケアに多くの時間を割くようになった。先輩や両角監督に好かれる明るいムードメーカーだが、速く走るために細部の努力を惜しまない。

 東洋大の今西を追い、5.1キロ付近では両角監督から「西田、26秒差だ。詰めてるぞ!」と声をかけられた。だが、9キロ地点でも25秒差と、その差はなかなかつまらなかった。

「下りの先輩(今西)は相当いいペースで走っていたので、難しかった。甘くなかったですね」

 それでも西田は区間賞を獲得する走りで、逆転優勝への布石を打った。それはまるで、今年1月の箱根駅伝を見ているようだった。5区のスタート時、2分48分あった差を1分14秒差に縮めて、逆転優勝の立役者のひとりとなった。そして今回の全日本では、39秒差から26秒差に縮めた。

「ラストに両角先生から『市村を楽させてやれ』って喝を入れてもらったんです。できるだけいい位置で市村につなごうと思っていたし、そこでもう一回、切り替えて走ることができたので、昨年よりはいい走りができたかなと思います」

 昨年は大会直前に足を痛めて出走し、区間3位になったが、その代償は大きく、戦線離脱を余儀なくされた。今回はこのまま箱根に向けて、いい調整ができるだろう。

「力がついた分、それがどう山につながるか楽しみですね。箱根は、自分が山(5区)にいると安心できるとみんなに言われましたし、期待されていると思うので、裏切らないようにしっかり結果を出したいと思います」

“山の神”になるべく、これから2カ月間は山上り中心の練習に切り替えていく。

 スタート前、アンカーの名取は落ち着いていた。

「松尾さんが走り始めた時は、3位の青学大と1分3秒の差があったので、先頭で、しかもそれなりに差があるなかで襷をもらうのかなと思っていたんです。でも、途中で両角先生から『もしかしたら二番手で襷をもらうことになるかもしれない』って連絡がきて。でも2秒差だったので、最初は突っ込みすぎず、一定のペースでいけば……という感じでした」

 先行した青学大の飯田貴之(2年)は、学年はひとつ下だが、前回の箱根駅伝では8区を任され、区間2位の走りを見せた実力者だ。だが、名取は怯(ひる)まなかった。

「自分より経験があるけど、ひとつ学年が下なので、負けるわけにはいかなかった」

 最初は飯田のうしろをついていく走りで、アクセルを踏むことはなかったが、4キロ地点で並ぶと、名取は一気にギアを上げた。

「うしろをついていったんですけど、ペースがなかなか上がらなかったんです。このままついていって、ラスト勝負というよりも、自分のペースで押していったらどこかで離れてくれるだろうと思って、前にいきました」

 早い仕掛けだと思ったが、名取には自信があった。それは、昨年の夏から西出コーチが「名取にしかできないハードな練習」と言うほど、厳しい練習をコツコツと積み重ね、今年は結果を出してきたという自負があったからにほかならない。

 実際、レースで結果を出すたびに表情が明るくなり、言葉の端々からも自信が感じられるようになった。その1年の積み重ねが、地力となって表れた。

「10キロまでは余裕を持って走れました。うしろは見なかったので、どのくらい離れているかわからなかったのですが、12キロ地点でチームメイトが42秒というパネルを出してくれたんです。それで『もう大丈夫かな』って思いました」

 名取はその後もさらに差をつけ、ゴールラインを駆け抜けた。佐久長聖高校(長野)3年の時、全国高校駅伝の1区を走り区間賞を獲って以来、約3年ぶりに駅伝の舞台に復帰し、最高の結果を出した。

「今まで長かったです。でも、今日は楽しかった。やっと戻って来られたという感じですね」

 そう言って、名取はニヤリと笑った。

 両角監督は、ようやく眠りから覚めた逸材に目を細めた。

「名取は強かったですね。最初から突っ込みすぎず、落ち着いていました。大学では初めての駅伝ですし、タイムはよくて58分台かなって思っていたんですが、あの8区の難しいコースを57分46秒で走るとは思っていませんでした。札幌ハーフでの62分44秒といい、非常に成長しました。名取が苦しんでいたのをみんな見てきたし、彼に華を持たせてやりたいという思いが強かったんだと思うんです。それが実現できてよかったですし、チームの戦力としても大きい。”両角再生工場”完成ですね」

 そう言って、両角監督は満足そうな表情を見せた。

 この日の名取の走りは、東海大を優勝に導いたということだけにとどまらない。他大学に「名取強し」のイメージを与え、箱根のオーダーにしっかりと名を刻んだことになる。両角監督は、名取の箱根での起用について構想があるという。

「箱根は、前回の湯澤(舜)のように2区を考えています」

 東海大にとって2区は、連覇を果たすうえでクリアしなければならない重要区間だ。今年1月の箱根で2区を任された湯澤は、ミスすることなく次につなげる役割に徹した。”守りの駅伝”が見事にはまったわけだが、湯澤の走りが流れをつくったと言っても過言ではなかった。

 名取は湯澤とは少しタイプが異なるが、攻守のバランスに優れ、今回の全日本で箱根2区を走れることを証明した。ほかにも阪口竜平(4年)らがいるので確定ではないが、名取を2区に置ければ阪口をほかの区間に使えるので、かなり現実的な構想だといえる。

 個人的にも名取は2区にフィットすると思っており、夏前から箱根の話をしていた。これまでは「夏合宿が終わって力がついたら……」「駅伝でしっかり走って結果が出たら……」と笑顔でかわされてきたが、今回のレース後は「箱根までの2カ月、しっかり練習して、調子がよければ2区で勝負できればいいかなと思います」と前向きな発言が飛び出た。気持ちは2区で整えていたはずだが、今回の走りで名取のなかに”覚悟”のようなものが芽生えたように見えた。

 全日本大学駅伝で見せた3年生の”黄金トリオ”の走りは、16年ぶりの優勝に大きく貢献した。この勝利は、3人に力があることはもちろん、主力不在でも勝てるということをチーム内外に証明した。今回、結果を出したことで、これまで”黄金世代”一色だったチームカラーに変化が生じていくだろう。

 とはいえ、箱根連覇を達成するためには、黄金世代の主力の力が必要だ。

 西田は「全日本のメンバーに館澤さん、關(颯人)さん、鬼塚(翔太)さん、阪口さんがどう絡んでくるのか。4年生が戻ってくれば、前回の記録を更新しての優勝が見えてくると思います」と語る。4年生の主力がいるからこそ、下級生たちがノビノビと走れることを西田は感じているのだ。

 レース後、西田が考えるMVPについて聞くと、笑みを浮かべながらこう答えた。

「まずは名取、塩澤……そして自分かなぁ(笑)。3年生は今、ノッてるんで。この波が箱根駅伝でも続けばいいかなって思います」

 今は勢いある3年生がチームを引っ張り、力のある4年生が後方支援をする。春には思ってもいなかったチームスタイルが完成した。箱根に向けて”黄金トリオ”が果たす役割と存在感は、さらに大きくなっていくだろう。