2019年のスーパーGTシリーズ最終戦が11月2日、3日にツインリンクもてぎで行なわれ、今季の年間チャンピオンが決定した。GT500クラスの王者に輝いたのは、WAKO’S 4CR LC500(ナンバー6)の大嶋和也/山下健…

 2019年のスーパーGTシリーズ最終戦が11月2日、3日にツインリンクもてぎで行なわれ、今季の年間チャンピオンが決定した。GT500クラスの王者に輝いたのは、WAKO’S 4CR LC500(ナンバー6)の大嶋和也/山下健太組。さまざまな困難を乗り越えて、初の栄冠を掴んだ。



左から大嶋和也、脇阪寿一監督、山下健太

 WAKO’S 4CR LC500を駆るチーム・ルマンが最後にタイトルを獲得したのは、全日本GT選手権時代の2002年。当時ドライバーを務めていた脇阪寿一を2016年から監督として迎え入れ、新体制で王座奪還を目指してきた。

 脇阪監督が就任した1年目はコンスタントにポイントを獲得していくも、あと一歩及ばずドライバーズランキング2位。そこでの反省点を踏まえて2017年も快進撃を見せたが、最終戦のフォーメーションラップでアクシデントを起こしてしまい、後方への脱落を余儀なくされた。

 2018年にはエース大嶋の新パートナーとして、国内外で定評があったフェリックス・ローゼンクヴィストを獲得。開幕前のテストでチームはトップタイムを連発するなど絶好調で、チャンピオン候補としておおいに注目を集めた。

 しかし、そんなチーム・ルマンを大きな悲しみが襲う。長年チーフエンジニアとして活躍し、脇阪監督も絶大な信頼を置いていた山田健二エンジニアがシーズン開幕直後に急逝したのだ。

 チームの大黒柱を突然失った影響は、あまりにも大きかった。第2戦・富士以降はチャンピオン経験のある田中耕太郎エンジニアが後を引き継いだものの、悪い流れを立て直すことができず、ドライバーズランキング10位という結果に終わった。

 そして2019年――。失意の昨シーズンを経て、脇阪監督は体制の一新を決断する。

 まず、前年のスーパーフォーミュラで山本尚貴を年間王者に導いた阿部和也エンジニアがTEAM MUGEN(ホンダ)から加入。阿部は2002年にチーム・ルマンが年間王座を獲得した時のメカニックで、その才能と献身ぶりは脇阪監督も当時から認めていた。

 また、ドライバーは大嶋の新パートナーにGT500クラス2年目の山下健太を獲得。王座奪還へのピースを着実に埋めていった。

 開幕前、脇阪監督はチームに対し、新たな要求を宣言する。

「自分のためにやるのではなく、みんなのために働いてほしい」

 たとえば、ミスの許されないタイヤ交換を前に緊張しているメカニックがいたら、他のメンバーがフォローする。ガレージ内の設備や道具も、自分のためだけでなく、他のメンバーも使いやすいようにする。そのような気配りを、チームスタッフ全員に徹底させた。

 他人のことを第一に考えて行動する。そうすれば、最終的に自分に対してそれが”成果”として返ってくる――。

 脇阪監督の考えがレース結果に結びつくようになったのは、第3戦・鈴鹿からだ。今季初表彰台を獲得すると、第4戦・タイと第5戦・富士では2連勝。行動が成果として返ってきたことで、スタッフ全員に自信が芽生え始めた。

 そして最終戦・もてぎでは、ドライバーがそのメカニックのがんばりに応えた。

 第1スティントではタイヤのウォームアップがうまくいかずに順位を落とすも、大嶋が必死に挽回して3番手で山下にバトンタッチ。だが、ランキング2位から逆転王座を狙うナンバー37のKeePer TOM’S LC500(平川亮/ニック・キャシディ)がトップに浮上したため、山下は前を走るナンバー36のau TOM’S LC500(中嶋一貴/関口雄飛)を抜かなければ年間王者に手が届かない状況に追い込まれた。

 その瞬間、山下のスイッチが入った。見違えるようなアグレッシブな走りを披露し、38周目にはわずかなスペースに飛び込んで36号車をオーバーテイク。相手も抜き返しを狙ってきたが、山下は一歩も引かない姿勢でポジションを守り抜いた。

 6号車は2位をキープし続け、そのままチェッカードフラッグ。結果、ランキング2位の平川亮/ニック・キャシディ組を2ポイント差で上回り、チームに17年ぶりとなる栄冠をもたらした。

「スーパーGTに参戦して11年目のシーズンで、やっとチャンピオンを獲ることができました。結果を残せないシーズンもありましたが、みんなが僕を信じてくれて、ずっとチーム・ルマンのエースとして走らせてくれたことに感謝しています。

 岡山で開幕した時は正直、チャンピオン争いができるとは思っていませんでした。でも、みんなががんばってくれて、鈴鹿あたりから『勝てそうだな』と感じることができ、タイと富士で勝つことができた」(大嶋)

「気持ちだけは絶対に負けないようにしようと思っていました。(36号車とのバトルは)少し強引だったかなと思いましたが、最終戦でチャンピオンのかかったレースなので、引くことはできなかったです。

 阿部さんも毎回、いいクルマを用意してくれました。今年は天候など(判断が)難しいシーズンでしたが、それぞれの場面で常に正しい選択ができたと思います。(チームの)皆さんの判断が完璧だった。本当にチームに感謝です」(山下)

 監督就任4年目でタイトルを獲得した脇阪監督はシーズンを振り返り、最後にこう語った。

「これまでみんなを一度も褒めたことがありませんでしたが、今回は初めてみんなを褒めてやろうと思います。そして……天国の(山田)健二さんにもいい報告ができました」

 最終戦でチーム・ルマンは、何度も悔しい思いをしてきた。だがついに、全員が笑顔になってツインリンクもてぎを後にできる日が、ようやく訪れた。