これほど拮抗した争いは、少なくとも過去20年で類を見ない。 リーガ・エスパニョーラは第12節終了時点で、1位のバルセロナから7位のヘタフェまでが、勝ち点差3でひしめき合っている。つまり、わずか1試合で順位ががらりと入れ替わる展開だ。さらに…

 これほど拮抗した争いは、少なくとも過去20年で類を見ない。

 リーガ・エスパニョーラは第12節終了時点で、1位のバルセロナから7位のヘタフェまでが、勝ち点差3でひしめき合っている。つまり、わずか1試合で順位ががらりと入れ替わる展開だ。さらに言えば、ヘタフェと13位のバレンシアの勝ち点差も2に過ぎない。

 混戦の理由は、バルセロナ、レアル・マドリードというビッグ2のもたつきにあるだろう。1試合未消化とは言え、今の両雄には盤石さがない。1試合は派手に打ち負かしても、次の試合は力なく勝ち点を落とす。たとえば直近の試合でも、バルサはレバンテに逆転負けを喫し、レアル・マドリードはベティスにスコアレスドローで終わったばかりだ。



レバンテに逆転負けを喫し、浮かない表情のリオネル・メッシ(バルセロナ)

 ビッグ2を追うアトレティコ・マドリードも好調とは言えない。内容の悪い試合を落とさないしぶとさは見せるものの、しかしチームは一時代を終えた感があり、以前の勢いはない。

 この3チーム以外が優勝したのは、2003-04シーズンのバレンシアが最後である。はたして、今季は下剋上を果たすクラブは出るのか?

 その筆頭候補は、バスクの古豪レアル・ソシエダだろう。現時点でバルサ、レアル・マドリードと同勝ち点で3位。目覚ましいスタートを切っている。

 主力選手の半数近くが下部組織である「スビエタ」の出身者。その比率は欧州全体でも突出している。同じ教えを受けた者たちだけに、一丸となれるのが強みだ。17歳のアタッカー、アンデル・バレネチェアのようなルーキーも育っている。

 22歳で主将を務めるミケル・オヤルサバルは、14歳から「スビエタ」で薫陶を受けてきた。昨シーズンはチーム最多得点を叩き出し、すでにスペイン代表でも主力のひとりとなっている。左利きのファンタジスタだが、バスク人らしく偉丈夫で規律正しく、守備センスも光る。第12節のグラナダ戦では、ディフェンスで相手ボールを奪い、ポルトゥのゴールをアシストした。

 今シーズン好調な理由は、スビエタ組に加え、補強が成功した点もある。レアル・マドリードから期限付き移籍のMFマルティン・ウーデゴール、アーセナルから獲得した元スペイン代表左SBナチョ・モンレアル、ジローナで得点力の高さを見せていたポルトゥ。3人の加入で、チームとしてのスタイルが明確になった。

「個人的にはポルトゥに注目している。チームにダイナミズムを与えている」

 レアル・ソシエダで20年近く要職を務めてきたミケル・エチャリは、ポルトゥの”馬力”を称賛した。走って戦える。その屈強なプレーが、若くうまい選手が多いなかで攻守の強度を与えているという。

 イマノル・アルグアシル監督の采配も冴える。ベンチにベルギー代表アドナン・ヤヌザイ、スウェーデン代表アレクサンダー・イサクを置き、ジョーカーにしている。選手層が厚くなったことで、波が少なくなったのだ。

 そのレアル・ソシエダに敗れて3位から6位に順位を下げたグラナダも、開幕から健闘している。2部からの昇格組だけに、序盤戦のサプライズ。その殊勲は、ディエゴ・マルティネス監督によるものか。

 38歳になるマルティネス監督は、セビージャのスカウト部門で指導者としての道をスタート。ユース監督、セビージャC(サードチーム)を率いたあと、アトレティコ・セビージャ(セカンドチーム)を降格から救い、翌シーズンは2部へ昇格させたことで、その手腕が評判になった。そして2018-19シーズンは2部グラナダを指揮し、2位で1部昇格。若手監督では、最も注目されるひとりだろう。

 地元では、「スペインのレスター・シティに!」という声も上がっており、結果はフロックではない。ただ、戦力的には限りがある。当面は残留が目標だ。

 もうひとつ躍進が期待されるチームが、ビジャレアルだろう。人口5万人の小さな町のクラブだが、下部組織が充実。今シーズン、頭角を現し、「今後スペイン代表の左利きセンターバックは安泰」とも言われるパウ・トーレスも下部組織出身だ。

 要所に好選手をそろえ、戦力は高い。GKセルヒオ・アセンホ、CBラウール・アルビオル、マリオ・ガスパール、左SBアルベルト・モレノ、MFブルーノは、いずれもスペイン代表歴を持つ。トップにもカメルーン代表トコ・エカンビ、コロンビア代表カルロス・バッカを擁し、現在リーガ最多得点を記録。新たにスペイン代表に選出されたジェラール・モレーノもいる。

 そして、チームを操るのはサンティ・カソルラだ。スペイン代表で数々の栄光に浴してきた天才的MFで、34歳の現在もその技は衰えていない。アーセナルではケガに見舞われ、リハビリに多くの時間を費やしたが、不屈の姿勢で挑み、見事に復活を遂げた。

 現在は8位(首位と勝ち点4差)のビジャレアルだが、チャンピオンズリーグ出場は射程圏内だ。

 彼らはバルセロナ、レアル・マドリードの牙城を崩せるのか。

「2強の実力は違う次元にあるよ」

 かつてレアル・マドリードでプレーし、現在はグラナダに所属する34歳のロベルト・ソルダードは語る。それは現実的な見方だろう。単純に予算を比較すれは20倍近い差があるのだ。

 しかし、そのビッグ2は盤石ではない。群雄割拠のシーズンとなりそうだ。