“運命のゴング”が間近に迫っている。 11月7日にさいたまスーパーアリーナで開催される、ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)バンタム級の決勝で、WBA、IBF同級王者の井上尚弥(大橋ジム)がWBA…

“運命のゴング”が間近に迫っている。

 11月7日にさいたまスーパーアリーナで開催される、ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)バンタム級の決勝で、WBA、IBF同級王者の井上尚弥(大橋ジム)がWBAスーパー王者のノニト・ドネア(フィリピン)と統一戦を行なう。



ドネア戦に向けて調整を行なう井上

 WBSSでは圧倒的な形で勝ち続けてきた井上だが、過去に5階級制覇を成し遂げたドネアは、言わずと知れた軽量級の”レジェンド”。36歳になった今でも一線級の選手に近い力を保ち、「井上絶対有利」という声が多い中でも、後輩王者の攻略に自信を覗かせている。

 ボクシングファン垂涎のこの一戦を、アメリカの記者たちはどう見ているのか。大方の予想どおり、井上が強さを誇示するのか。それとも、ドネアに番狂わせのチャンスはあるのか。

 現地時間11月2日、ラスベガスで行なわれたサウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)対セルゲイ・コバレフ(ロシア)戦の前後に、アメリカに本拠を置く6人の記者に3つの質問をぶつけてみた。このウェブ討論に参加してくれたパネリストの言葉から、軽量級の新旧スーパースター対決を展望してみよう。

【パネリスト】

●ダグラス・フィッシャー:『リングマガジン』の編集長。ロサンゼルス在住で、ビッグファイトではリングサイドの常連。

●ランス・プグマイヤー:『The Athletic』のシニアライター。綿密な取材による詳細な記事が売り。

●ディラン・ヘルナンデス:『ロサンゼルス・タイムズ』のコラムニスト。語学に堪能で、英語、スペイン語、日本語を流暢に話す。

●ゲイブ・オッペンハイム:NY拠点のフリーライター。2017年5月の村田諒太(帝拳ジム)対アッサン・エンダム(フランス)戦に続き、今回の井上対ドネア戦は来日して取材する。

●ショーン・ナム:『USA TODAY』などで活躍する韓国系アメリカ人ライター。精力的な取材で構築したネットワークによるインサイダー情報に定評がある。

●ライアン・サンガリア:『リングマガジン』のライター。フィリピン系アメリカ人で、アジアのボクシングに精通する。

Q1 井上はドネアとの試合をどう戦うべきか。

フィッシャー ドネアは型にはまらない”フリースタイル”で戦い、タイミングを見計らってカウンターを狙ってくる選手。そんな相手の戦い方に惑わされないために、井上は基本に忠実にジャブを突いていくべきだ。階級の上げ下げを繰り返してきたドネアの体を弱らせるために、早い段階からボディを叩いておくのもいい。

 ジャブ、ボディ打ちを交えながら出入りし、ガードを下げず、ドネアの射程圏内に立たないことがカギになる。 誇り高く、打たれ強く、精神面でのコンディションも整ったドネアは危険な相手だから、慎重に崩していくのが得策。KOを狙いすぎず、自分のボクシングに徹することが重要になるだろう。

プグマイヤー 井上のパワーが試合を支配するだろう。どれだけラウンドが必要かはわからないが、ドネアが最後までそのパワーをやりすごせるとは思えない。より若く、パワフルな井上が主導権を握り続けるに違いない。

ヘルナンデス 井上は「パウンド・フォー・パウンド(全階級を通じての最強選手)」でもトップレベルの選手。ドネアにチャンスがあるとは考えていない。井上にはパワーがあり、優れたジャブを持っていて、戦い方を知っている選手。すべてを兼ね備えているすばらしいファイターだ。油断さえなければ、特別なことをやる必要もない。一方的にドネアを打ちのめし、見ているほうが居心地の悪さを感じるくらいのファイトになるかもしれない。

オッペンハイム 井上は自分らしく戦えばいい。ドネアにプレッシャーをかけ、相手のパンチはパーリングで叩き落とし、タイミングを計りながらボディ、顔面にパンチを打ち込んでいく。1回、2回に倒しきれなかったとしても、コンビネーションで序盤にダメージを与えられるはずだ。井上のパワーと的確さをやりすごした選手には、まだお目にかかっていないからね。

ナム 井上はジャブをうまく使い、ドネアを守勢に回らせることが重要だ。その際には右のガードをしっかり上げ、ドネアが得意とする左フックに気をつけることも忘れてはいけない。井上が出入りしながら強烈な右を決め、ドネアに反撃を許さない姿が想像できる。パワーではなく、スピードが今戦での最大の武器になるだろう。

サンガリア 井上の長所のひとつは、ボディ打ちがうまいこと。過去にドネアに勝利を収めた選手の多くは、ボディを効果的に攻めていたため、そこが攻防のポイントになるだろう。また、ドネアが得意とする左フック対策も重要。2016年にドネアに勝利したジェシー・マグダレノ(アメリカ)と同じように、左フックが出せないように距離をとれば、井上は戦いやすくなる。ドネアが危険なのは最初の3ラウンドほどで、長引けば長引くほど井上が優位になると思う。

Q2 逆に、ドネアが井上に勝つためにやるべきことは?

フィッシャー ドネアは「勝つためにはKOが必要」と意識しすぎてはいけない。井上相手にKOを狙いすぎれば、(WBSSの準決勝で)左フックに左フックを合わされてあっさり倒された、エマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ)の二の舞になってしまう。

 ドネアの最大の武器も左フックだが、打つ時に顔面が空きがちなので注意が必要だ。一発を狙うよりも、左右に動き回ること。井上はすばらしい選手だが、動く相手にプレッシャーをかける能力は最高クラスとは言えない。それを考慮した上で、経験を生かし、丁寧に距離を取り、パンチを打ち込む隙を伺うべきだ。

プグマイヤー ドネアにチャンスがあるとすれば、アウトボクシングを徹底できた時だろう。もちろんドネアには、今でも試合の流れを変えられるパワーがある。しかし、井上のとてつもない才能を考えれば、ドネアが長いラウンドにわたって完璧にアウトボクシングをしながら、強烈なパンチも当てることは簡単ではないからね。

ヘルナンデス ドネアの最大の武器は、今も昔も左フック。井上が警戒しなければいけないのはそれだけだろう。正直なところ、現在のドネアの左フックが当たったとしても、井上にダメージを与えられるかはわからない。いずれにしてもドネアの勝機は極めて薄く、酷い負け方をしないことを願うばかりだ。

オッペンハイム ドネアのほうが背が高く、リーチも長い。番狂わせを起こすためには、 井上の周囲をサークルしながらジャブを有効に使い、懐に入らせないようにする必要がある。ジャブを放ち、動く、という作業を繰り返す。非常に体力を使う作業だが、破壊力抜群の井上のコンビネーションを避けるためには必須だ。

 井上はパンチを避けるために真っ直ぐ下がることがあるから、そこでフェイントをかけ、左フックか右ストレートを狙うのもいいだろう。勝利のカギとなるのは、井上を真っ直ぐに下がらせ、適切な防御をさせないこと。その策に成功し、いいパンチをどこかで入れることができれば、井上も簡単には飛び込めなくなるのではないか。

ナム ドネアが、武器である左フックを当てなければいけないことは、誰でも知っている。ただ、より優れた反射神経を持つ井上に対し、実際にやり遂げるのは極めて難しい作業だろう。

サンガリア 左フックが得意なのは誰もが知っていることだが、右パンチも有効に使っている試合では、ドネアは対処がより難しい選手になる。2012年に対戦した西岡利晃(帝拳ジム)も左フックを警戒し、最後は右で倒されてしまった。今戦でも右ストレートを戦術にうまく組み入れ、井上に警戒させることができたら、ドネアにチャンスが出てくる。

Q3 試合はどのような形で決着する?

フィッシャー 決してイージーなファイトではないが、井上がゲームプラン通りに戦えば、ドネアから徐々に自信を奪い、崩していけるはずだ。判定勝負もあり得るが、ドネアのセコンドがストップする可能性がもっとも高いと見ている。8ラウンド以降に井上がTKO勝ちするだろう。

プグマイヤー 井上の6回KO勝ち。

ヘルナンデス 井上の4回KO勝ち。第1ラウンドで倒そうと思えばできるかもしれないが、焦る理由はなく、序盤は慎重に戦うだろう。いずれにせよ決着は時間の問題だ。

オッペンハイム 井上の6回KO勝ち。

ナム 井上の7回TKO勝ち。

サンガリア 6、7回くらいで井上がKOする可能性が高いと思う。ただ、”クレイジー”と思われるかもしれないが、私はドネアが勝っても驚かない。井上はバンタム級で破竹の快進撃を続けてきた。ドネアとも過去に(練習で)手を合わせた経験もあるが、油断があるとすればわからなくなる。現在のバンタム級で井上に勝てる選手がいるとすれば、ドネア以外にいないだろうしね。