昨年、現役復帰を果たした髙橋大輔(33歳)だが、今年12月の全日本選手権でのシングル引退を明言。11月の西日本選手権(滋賀県立アイスアリーナ)は、”最後を飾る前哨戦”になるはずだった。当然、多くのチケットが売れていた。

 しかし髙橋は直前の練習で左足首を痛めてしまい、欠場を余儀なくされることになった。

 髙橋に代わって、誰が大会の主役となったのか--。

 主役候補筆頭が、19歳の山本草太だった。



西日本選手権で2位だった山本草太

 山本は2014-15シーズン、ジュニアグランプリファイナルで宇野昌磨に次ぐ2位。同シーズンの世界ジュニア選手権では、現世界王者のネイサン・チェン(アメリカ)を上回って、3位表彰台に立った。2015-16シーズンには、全日本ジュニア選手権で優勝した。日本のフィギュアスケートを担うべき逸材だった。

 ところが世界ジュニア選手権を前に、右足首を骨折する不運に遭う。それからは苦難の連続。復帰後も再び骨折し、羽を失ったかのように見えた。

 ただ、天才は消えなかった。2017-18シーズン、再び戦列に復帰。再起した直後は、ジャンプはすべて1回転から練習を始め、粘り強くスケートを取り戻してきた。

 不屈な姿は、一つのきっかけを与えている。

-現役復帰のスイッチとなった瞬間は?

 髙橋に聞いた時に、彼はこう答えた。

「(山田)耕新、(山本)草太の演技でした。耕新は社会人になって一度(競技を)離れても、仕事をしながらスケートを続けていて。草太は手術をして戻すのも大変なのに、気持ちが伝わる演技だった。勝たなくてもいいというか、(それぞれが)目標に向かって精いっぱいやっても大丈夫じゃないか、と励まされたんです」

 山本の演技が、髙橋の心を動かしたとも言える。誠実にスケートに向き合い、失ったものを取り戻してきた。今シーズンはフィンランディア杯のショートで、宇野を超えて1位になるなど悪くないスタートだ。

 そして西日本選手権、山本はショートで75.05点と首位に立っている。トリプルアクセルを失敗したものの、4回転サルコウ+2回転トーループ、4回転トーループはどうにかまとめた。

「試合を前にジャンプの調子は落ちていたんですが、決める意識を持って挑んで。アクセルはうまく浮き上がれず、決めたかったですね。(最近は)4回転の練習に集中しすぎているので、アクセルの練習も増やしていきたい」

 山本は演技後にそう洩らした。天才と言われた選手は、現状に甘んじていなかった。

 しかし翌日のフリーは演技後、ゆがんだ表情がすべてを物語っていた。

 冒頭の4回転サルコウで転倒すると、次の4回転トーループ+2回転トーループも着氷が乱れてしまった。4回転トーループは成功したものの、トリプルアクセルでやはり転んでしまう。138.79点とスコアは伸びず、フリーは3位に沈む。その結果、ショート6位だった友野一希(21歳)に逆転で優勝を奪われることになった。

-NHK杯に向けては?

 フリー後、取材エリアで訊かれた山本草太は、答えに詰まった。終えたばかりの演技に対し、納得がいかず、そこまで頭が回らない。顔に噴き出した汗が光っていた。

「ジャンプを全部決められるように」

 山本は簡潔に言ったが、記者も追いすがった。

-具体的にどんな目標で?

 山本は右腕の袖で額の汗をぬぐいながら、答えを絞り出した。

「まあ、ジャンプですかね。他の(演技)は思い切りできたと思うんですが。ジャンプがあれだけ失敗しちゃったんで」

 今シーズン、山本はジャンプの練習量を増やしたという。しかし、ブランクを取り戻すのは簡単ではない。4回転の練習に気力体力を向けると、滑る体力の増強や、ほかの技術の整備に時間がなくなる。一朝一夕に、世界レベルには追いつかない。

「今は(ジャンプを)跳べるイメージがないです。自分はアクセルが下手で。みんな当たり前のように飛んでいるけど、難しいジャンプ。気持ちだけではどうしようもない。技術が足りず、4回転を3本入れて決められるほどには(実力が)到達していない、と実感しています」

 山本は苦しげに言った。

 一方で優勝した友野は、フリーでショートのミスを巻き返す演技をやってのけた。4回転サルコウ+2回転トーループの連続ジャンプを決めるなど、大きなミスをしなかった。友野は2018年に世界選手権で5位、全日本は2年連続4位、昨シーズンはグランプリシリーズ3位など高いレベルで滑り続けてきた地力を示した。

 しかし山本も戦い続けることで、足掛かりをつかめるはずだ。

 髙橋がこんなメッセージを送っていた。

「全日本は、普通に考えて(自分の)表彰台は難しい。たとえば(山本)草太はケガから復帰してジャンプが安定してきた。もともと滑りのテクニックが高く、必ず(上位に)食い込んでくる」

 10代の山本が完全復活を遂げられるか--。それは、今後の日本男子フィギュア界の躍進をも左右するかもしれない。