東海大・駅伝戦記 第66回 出雲駅伝は4位という結果に終わった東海大。だからこそ、次の全日本大学駅伝でタイトルを勝ち取り、その勢いのまま箱根駅伝につなげていきたいところだ。 全日本大学駅伝は、全8区間(106.8キロ)で行なわれる。昨年…

東海大・駅伝戦記 第66回

 出雲駅伝は4位という結果に終わった東海大。だからこそ、次の全日本大学駅伝でタイトルを勝ち取り、その勢いのまま箱根駅伝につなげていきたいところだ。

 全日本大学駅伝は、全8区間(106.8キロ)で行なわれる。昨年、1区から7区までの区間距離が変更になり、とくに7区は従来の11.9キロから17.6キロと伸びた。その結果、7区と8区(19.7キロ)がロング区間になった。

 昨年、東海大は2区から6区までトップを維持していたが、7区で青学大のエース・森田歩希(ほまれ/当時4年)に逆転され、2位に終わった。そのレース展開から、あらためてロング区間である7区、8区の重要性が明確になった。レース後、東海大の両角速(もろずみ・はやし)監督は「うちはロングに弱い」と苦い表情を浮かべたが、今年はその区間に人材が揃い、期待が持てそうだ。



札幌マラソン(ハーフ)で大会記録を更新する62分44秒で優勝した名取燎太

 そのひとりが名取燎太(3年)である。

 名取は、長野・佐久長聖高校から大きな期待を背負って入学した選手だった。しかし、入学前の3月に疲労骨折が判明し、復帰するまでに4カ月を要した。7月にホクレン・ディスタンスチャレンジ網走大会でレースに復帰し、夏合宿から本格的に走れる状態になった。だが、その後はレースに照準を合わせようと焦って調整し、故障するという悪循環を繰り返した。

 そんな名取にとって転機になったのは、昨年の夏だ。両角監督から提案があり、チームから離れて別メニューで練習することになった。

「先生から提案をいただいたのですが、故障していたので、最初は『一緒にやってみるか』という感じでした。メニューはとくに決まっていなくて、『今日はこれをやるぞ』という感じで、両角先生と一緒に走ったこともありました」

 最初の頃のメニューは、30キロぐらいの距離をゆっくり走るというものだった。ただ、足に負担がかからないように、一度に30キロではなく、12キロ、10キロ、8キロなど、3回に分けて走った。

 今年の2月下旬、それまでジョグしかしていなかったが、3月の学生ハーフに向けてポイント練習をスタートさせた。

「それまでは1キロ4分を切らないぐらいのペースだったんですけど、ポイント練習で3分20秒から30秒ぐらいで走ったんです。ペースを上げていくなかでハーフを走るイメージがわいてきて、動き的には1キロ3分ペースでいけるという手応えを感じました」

 学生ハーフは、63分31秒で自己ベストを更新した。花粉症で苦しそうだったが、ホッとした表情をしていたのが印象的だった。

「学生ハーフはまあまあよかったですね。それまで、あまりにもうまく走ることができなかったのですが、学生ハーフで結果が出たので、練習を積めば走れるようになると自信を持つことができました」

 学生ハーフ以降、名取は徐々に調子を上げていった。

 4月の焼津みなとマラソン(ペアマラソンの部)では、さらに自己ベストを更新する63分04秒で優勝。5月の関東インカレのハーフでは猛暑のなか、5位入賞を果たし、学生個人選手権の5000mでは3位に入った。さらに7月のホクレン・ディスタンスチャレンジ深川大会では1万mを走ってD組で4位。故障することなく夏合宿に突入した。

 その夏合宿でもほぼ予定どおりのメニューをこなし、月間走行距離は990キロを超えた。

「今までそんなに走ったことはないですけど、ケガさえしなければこのくらいやれるんだ、という手応えを感じました」

 当然、両角監督からも「今年は塩澤、名取がいい」と頻繁に名前が出るようになった。

 出雲駅伝のメンバーから外れた名取は、10月6日に札幌マラソン(ハーフ)に出場した。一昨年、湊谷春紀と湯澤舜(ともに当時3年)が出場し、湊谷が優勝、湯澤は2位に入った。その後、湊谷は全日本大学駅伝で5区を走り、区間2位の快走を見せた。

 レース前、名取は「湊谷さん(の優勝タイム)が64分55秒だったので、64分台でいければ上出来かなと思っています」と語っていた。

 レースは序盤、松尾淳之介(4年)が引っ張った。だが中盤以降、名取が前に出て、そのままトップを快走し、62分44秒という好タイムで優勝した。

「最初、松尾さんがハイペースでいって、いけるかなって思っていたんですけど、5キロぐらいで楽になりました。9キロ過ぎに前に出て、12キロ過ぎで河川敷に入ったんですけど、このままペースを落としすぎなければ大会記録(63分14秒)も狙えるかなと。最後、(真駒内)公園内に入っての上りがきつかったけど、思った以上のタイムが出てよかったです」

 これで学生ハーフから自己ベストを更新し続けている。

「すごいですよね。練習の成果です(笑)。先生からもらったメニューに加え、ちょいちょい距離を増やして走ることで足がつくれたし、故障しない体ができてきました。今日のレースは、序盤はハイペースでしたが、それに対応できるだけの練習をしてきたのでしっかり走れました。これからがめちゃ楽しみです」

 名取の好調の要因は、第一に本人が言うように練習の成果だろう。また、走れるからといってレースを増やすのではなく、本数を制限して足の不安を減らした。それに接地の改良も大きかった。以前はつま先から入っていたが、「それではブレーキがかかる」と両角監督に指摘され、接地をフラットにするようにした。それを意識して走るようになると、足の故障がなくなった。

「今ではスピードを上げてもつま先から入らなくなったし、疲れてきても自分でそのことを意識して走れるようになりました」

 そうした成果が札幌マラソンの結果に出たと、名取は言う。

 後半の上りが厳しいコースで62分台での優勝。しかも、15年ぶりの大会記録更新で賞金20万円も手にした。レース後はニコニコが止まらない名取だったが、フィニッシュしてインタビューされるまで賞金が出ることを知らなかったという。名取が笑顔を浮かべる横で、レース当日の朝に札幌入りした両角監督も「やったなぁ!」と、その走りを高く評価した。

「タイムもよかったですし、後半、勝負に出て積極的な走りをして勝った。全日本では使おうと思っていますし、箱根でも往路か、復路の後半で起用したいと思っています」

 名取は全日本大学駅伝で8区にエントリーされた。

「大学駅伝は初めてなので楽しみですね。まぁ、どちらかといえば7区がいいですが、与えられたところで勝負するだけですし、出られたらレース展開にもよりますが、区間賞を狙っていきたい。そこでしっかりと結果を出して、箱根につなげていければいいかなと思っています」

 今年の出雲駅伝はアンカー勝負になった。上位大学間の実力差が拮抗し、全日本大学駅伝も7区、8区の勝負になりそうな気配だ。それだけに、名取にかかる期待は大きい。そして、ここで結果を出せば、次は箱根になる。

 夏合宿中、両角監督は湊谷の主戦場だった9区、10区をロード組である松尾、郡司陽大(あきひろ/4年)、小松陽平(4年)、西田壮志(たけし/3年)、鈴木雄太(3年)、そして名取のなかから考えていた。ただ、西田は山上りの5区なので必然的に外れる。

 その一方で、「名取は2区候補としても面白い」と、エース区間の配置も考えていることも吐露した。今年1月の箱根駅伝優勝は、2区・湯澤が粘りを見せて順位を維持。往路で東海大は守りの駅伝に徹し、復路は攻めの駅伝に転じて逆転優勝を果たした。2区は攻めるよりも堅実に……という前回の戦略でいけば、2区に名取が配置される可能性は十分にあり得る。実際、名取は両角監督に「用意しておくように」と伝えられている。

「まだ2区を走るという自信まではいってないです。先生からは(用意しておくように)言われていますけど、いきなり『いけ!』と言われても対応できないので、気持ちだけはつくっておこうかなと思っています。ただ、個人的には箱根は1区を走りたいですね。集団で走ったほうが落ち着くし、走りやすい。自分は黙々と走るように見られがちなんですけど、集団で走るほうが好きです。その前に、初めての駅伝となる全日本でどれだけ走れるかですね」

 最終的に名取が箱根のどこを走るかは、まずは全日本の走りを見てからになる。堅実な走りを見せるのか、それとも2区を任せられるような突出した走りを見せるのか。いずれにしても、全日本大学駅伝を制するためには、名取の走りがキーになることは間違いない。