アレクサンドラ・トゥルソワ(ロシア)にとって、今季これまで出場したチャレンジャーシリーズのネペラメモリアルや、フリーのみで競われたジャパンオープンとは違い、本格的なシーズンインとなるグランプリ(GP)シリーズは、これまでとは違うプレッシャ…

 アレクサンドラ・トゥルソワ(ロシア)にとって、今季これまで出場したチャレンジャーシリーズのネペラメモリアルや、フリーのみで競われたジャパンオープンとは違い、本格的なシーズンインとなるグランプリ(GP)シリーズは、これまでとは違うプレッシャーがかかっても不思議でない。しかし彼女は、そうしたことを微塵も感じさせず、スケートカナダでその力が本物であることを見せつけた。



スケートカナダのフリーと合計で、世界最高得点を出したトゥルソワ

 そのすごさのひとつは、ここまで1試合ごとに進化する姿を見せていることだ。シニア初戦となったネペラメモリアルのフリーでは、冒頭から4回転ルッツ、4回転トーループ+3回転トーループ、4回転トーループと3本の4回転を並べ、それぞれGOE(出来ばえ点)加点をもらった。後半の3回転ルッツ+3回転ループは、3回転+2回転になるミスで減点されながらも、世界歴代最高の163.78点を獲得。合計でも世界最高の238.69点にしてきた。

 さらに2戦目のジャパンオープンでは、最初に4回転サルコウを入れてから、4回転ルッツ、4回転トーループ+3回転トーループと並べ、もう1本の4回転トーループは後半に持ってきて、1オイラー+3回転サルコウを付ける3連続ジャンプにした。最後のジャンプも3回転フリップから3回転ルッツに変えた。

 この時は、3連続ジャンプと3回転ルッツ+3回転ループのセカンドが回転不足を取られて減点され、前半の4回転の加点が低かったこともあって160.53点にとどまった。だが、技術基礎点は97.51点とあと少しで大台に乗るという得点となった。

 トゥルソワは、スケートカナダのフリーではジャパンオープンと同じ構成で挑んだ。最初の4回転サルコウは転倒したものの、ジャパンオープンでは減点された4回転トーループからの3連続ジャンプと、3回転ルッツ+3回転ループはともにミスなく跳んで1.76点と1.43点の加点を獲得。4回転トーループ+3回転トーループの加点も3.12点と大幅に伸ばし、技術点は100.20点に。さらに演技構成点も2点近く上昇したことで、転倒による減点1がありながらも、166.62点まで得点を伸ばしたのだ。

 驚いたのは、その精神力の強さだ。記者会見で話している時はまだ少し恥ずかしそうに話す15歳の口調や表情だが、滑り出すと別人だ。最初の4回転サルコウで転倒しながらも、次の4回転ルッツと、次の4回転トーループ+3回転トーループも高い加点をもらった。

 4回転サルコウの完成度はまだ低いようだが、それを失敗しても4回転ルッツでしっかり立て直せる自信を持っているのだろう。その意味ではまだ底を見せていない状態とも言える。

 そんなトゥルソワと、エキシビションの練習で一緒に4回転トーループを跳んでいた羽生結弦は、彼女の特性をこう見ている。

「トゥルソワ選手はどちらかというと力で跳べるタイプの選手なので、たぶん、体幹もすごく強いだろうし、体のバネはすごくあるのかなという感じは受けました。あとは回転に入るスピードが非常に速いなと思っています。それを自分に生かせるかといったら、ちょっと自分のタイプではないかもしれない。ただそういう強さも、これから高難易度のジャンプをやっていくにあたっては、安定感を上げるためにも必要だとは思う。そういうところをちょっと見ながら一緒に跳んでいました」

 羽生がこう話すように、トゥルソワのエキシビションの演技中の3回転ルッツを跳ぶ直前の開脚ジャンプの高さや、フライングスピンに入る時の動作の雄大さは、全身がバネの塊という印象を受ける。

 フリーで4回転3種類を4本の構成が、現在のトゥルソワのマックスの構成と思われるが、スケートカナダのフリーの最初の4回転サルコウが転倒ではなく、成功したと仮定すると、ジャパンオープンと同じ加点がついた場合6.37点がプラスされ、技術点は男子のトップ選手並みの106.57点まで上がる。結果、フリーの得点は173.99点というとんでもない点数になる。

 まだトリプルアクセルを習得していないため、ショートプログラム(SP)は現状最大で75点台というところだろうが、それでも合計は248~249点になる計算だ。今後、レベルを取りこぼしているスピンやステップを磨いていけば、さらに得点を伸ばすことも可能になる。そうなると、今季中に合計で250点台の高得点を出してくる可能性も十分ある。トゥルソワの注目度は、この先さらに上がってきそうだ。