東海大・駅伝戦記 第65回 10月14日に行なわれた出雲駅伝で、東海大は4位に終わった。内容的にはそれほど悪くはなく、全日本大学駅伝でどれだけ巻き返すことができるのか楽しみだ。 昨年は6区までトップだったが、7区で青学大のエース・森田歩…

東海大・駅伝戦記 第65回

 10月14日に行なわれた出雲駅伝で、東海大は4位に終わった。内容的にはそれほど悪くはなく、全日本大学駅伝でどれだけ巻き返すことができるのか楽しみだ。

 昨年は6区までトップだったが、7区で青学大のエース・森田歩希(ほまれ/当時4年)に逆転され、優勝を逃した。「ウチはうしろが弱い」と、両角速(もろずみ・はやし)監督は渋い表情だったが、前半から中盤まではスピードタイプと中間タイプの選手を織り交ぜて配置し、十分に戦えていた。



昨年の全日本大学駅伝で好走した東海大・郡司陽大

 今年も1区から6区まで選手層が厚く、十分に戦える配置をすることができるだろう。勝負を決めたのは、後半の7区(17.6キロ)、8区(19.7キロ)のロング区間になるだろう。そこに誰を置くのか、そこが大きなポイントになる。

 ライバルは出雲駅伝を制した国学院大、2位の駒澤大、3位の東洋大、5位の青学大といったところか。なかでも、浦野雄平、土方英和(ひじかた・ひでかず)のダブルエース(ともに4年生)を擁して勢いがある国学院大、完全復活した駒澤大は気になるところだ。

 では、東海大が全日本大学駅伝を制するためには、どのようなメンバーが考えられるだろうか。コース適性と選手の個性、状態を見ながら区間配置を考えていきたい。

 1区だが、出雲駅伝では昨年と同じく西川雄一朗(4年)が出走した。今回の全日本大学駅伝も、1区には手堅く西川を置く可能性が高い。西川は出雲駅伝の時よりもコンディションが上がっているし、キャプテン不在というチーム状況も、責任感もあり副キャプテンでもある西川にとっては大きなモチベーションになっている。仮にトップで襷(たすき)をつなぐことができなくても、昨年同様、先頭から10秒差以内なら、十分に巻き返しができる。そのミッションなら余裕を持って走れるだろうし、西川の力なら十分に果たせるはずだ。

 2区は塩澤稀夕(きせき/3年)だろう。1年時に同区間を走っており、また実家の近くを走るコースのため、塩澤にとっては走り慣れた場所だ。コースとしては、スタート直後に起伏があるが、基本的に平坦な道が続く。そのため各大学ともスピードのある選手をエントリーしてくる可能性が高いが、塩澤は区間トップを狙えるだけの実力を秘めている。昨年の關颯人(せき・はやと/4年)のように、ここでトップを獲れるといい流れができてくる。

 3区は小松陽平(4年)が濃厚だ。現在絶好調で、3年連続区間賞をとった館澤亨次(たてざわ・りょうじ/4年)の穴を埋められるのは、小松しかいない。出雲での記録会(5000m)では、出雲駅伝メンバー落ちの悔しさをぶつけ、13分59秒49の好タイムで全日本出走を決定づけた。3区は、前半にアップダウンが続くコースだが、今年1月の箱根駅伝8区で区間記録を出したように、起伏のあるコースも気にせず走ることができる。小松のできが、序盤の展開を決めると思われる。

 4区は昨年同様、西田壮志(たけし/3年)を配置してくるのではないだろうか。昨年はアキレス腱痛を抱えながらも区間3位という走りを見せた。平坦部が少なく、起伏の多い難コースだが、箱根駅伝5区で好走した実績のある西田なら問題ないはずだ。

 5区は市村朋樹(2年)だろう。市村は出雲駅伝で自信をつけ、勢いがある。前半は上下に振れるコースだが、中盤から後半は平坦な道が続くので、スピードのある市村なら力を発揮できるだろうし、区間3位内で走ることも十分に可能だ。本来であれば、昨年、この区間を走った鬼塚翔太(4年)あたりが入ってくるところだろうが、はたして……。

 6区は郡司陽大(あきひろ/4年)が有力だ。本人はアンカーに色気を見せているが、昨年も6区を任され、区間2位という走りを見せた。ラストの競り合いで青学大の吉田圭太(当時2年)に負けまいと懸命の走りを見せ、多くの人の胸を打った。郡司が区間賞、あるいは昨年のような走りをしてくれれば、後半のロング2区間に弾みがつく。

 7区は松尾淳之介(4年)の可能性が高い。夏合宿での練習消化率は100%で、故障もなかった。札幌マラソン(ハーフ)では9キロ地点で名取燎太(3年)に抜かれるまで先頭を走り、集団を引っ張った。途中、腹痛が起きて5位に終わったが、それがなければ松尾が勝っていたかもしれない展開だった。昨年は駅伝に絡めず、悔しい思いをした。最終学年になり「今年こそは」の思いが強く、コンディションも良好だ。レースでは、必ずいい走りを見せてくれるだろう。

 8区は、その札幌マラソンで優勝した名取だ。直前の選手コンディションによって西田や松尾という選択肢もあり得るが、今年の名取はロングで両角監督から絶対的な信頼を寄せられている。10月6日の札幌マラソン(ハーフ)でも62分44秒で優勝するなど、”ガラスの足”は”鋼の足”になった。東洋大の相澤晃(4年)、国学院大の土方らとの争いになる可能性が高いが、名取が各大学のエース相手にどのくらい戦えるのか。そして、その先の箱根の重要区間を担えるかどうかを見極めるレースになるだろうが、今の名取からは快走する姿しか想像できない。

 予想したメンバーを見ると、黄金時代の主力が不在……言わば”飛車角抜き”だ。キャプテンの館澤が故障でメンバーから外れ、膝を痛めている關も回避するだろう。鬼塚はアキレス腱痛で、阪口竜平(4年)は腰の故障もあって出雲駅伝では力を発揮できなかった。鬼塚と阪口については、走れない状態ではないと思うが、おそらく両角監督は彼らの起用を見送るのではないか。出雲駅伝と同じようなミスはできないし、なにより箱根駅伝に向けて万全を期すためだ。

 たしかに今回、主力が走れないのは相当痛い。他大学は、東海大を要警戒から注意程度にとどめるかもしれない。だが、今の東海大は黄金世代と呼ばれる4年生の主力に頼りすぎず、塩澤、名取、市村など、それぞれが違う役割を果たせる力をつけた選手が出てきた。個性が異なるヒーローが集結する、まるで”アベンジャーズ”のような強力なチームになりつつあるのだ。それが、今の東海大の強みでもある。

 このメンバーで全日本大学駅伝を制する。あるいは最後まで優勝争いができれば、箱根への期待は大きく膨らむ。経験を積んだ2、3年の選手たちに、館澤、阪口、鬼塚、關らの主力が戻ってくれば、箱根では隙のない強力なオーダーを組むことが可能になるからだ。

 全日本大学駅伝は、個々がミスなく走ることができれば、自ずと結果はついてくるだろう。だが、逆にひとつでもミスが出ると優勝は厳しくなる。そのくらい、上位の有力校の力は拮抗している。

 そのなかで優勝すれば、目標だった「学生駅伝3冠」はすでに叶わなくなったが、箱根駅伝との2冠が見えてくる。そのためにも、全日本大学駅伝を失うわけにはいかない。