2019シーズンの全日本スーパーフォーミュラ選手権が終了した。チャンピオンに輝いたのは、ニュージーランド出身のニック・キャシディ(VANTELIN TEAM TOM’S)。最終戦の第7戦・鈴鹿は今年も1ポイントを争う緊迫し…

 2019シーズンの全日本スーパーフォーミュラ選手権が終了した。チャンピオンに輝いたのは、ニュージーランド出身のニック・キャシディ(VANTELIN TEAM TOM’S)。最終戦の第7戦・鈴鹿は今年も1ポイントを争う緊迫した状況のなか、キャシディが2位表彰台を獲得して初の栄光を手にした。



参戦3年目にして初の年間王者に輝いたニック・キャシディ

 キャシディはスーパーフォーミュラ参戦3年目の25歳。昨年は近藤真彦監督が率いるKONDO RACINGで着実にポイントを積み重ね、ランキングトップで最終戦・鈴鹿を迎えていた。

 ところが、当時TEAM MUGENに在籍していたランキング3位の山本尚貴にポールポジションを奪われてしまい、決勝は彼を追いかけていく展開となる。トップで逃げる山本に対し、キャシディは最後まであきらめることなく、最終ラップの最終コーナーまで追いかけ続けた。

 しかし、0.654秒届かず2位でフィニッシュ。わずか1ポイント差で年間王者の座を山本に明け渡す結果となってしまった。

 レース後のキャシディは、視線の焦点が定まらないほど動揺を隠せない様子だった。「まったくミスはなかったし、全力を尽くした。でも、届かなかった……」。悲しさにも似た悔しい表情を見せていたのが印象的だった。

 その苦い経験が、今季のキャシディの原動力となった。

 名門チームであるVANTELIN TEAM TOM’Sに移籍すると、いきなり開幕戦・鈴鹿で優勝。その後もコンスタントにポイントを稼いでいき、第4戦・富士と第5戦・もてぎでは3位表彰台を獲得し、ついにランキングトップに浮上する。

 ただ、それでもキャシディは満足していなかった。「最終戦で絶対に山本が追い上げてくる。だから、もっとポイントが必要だ」。キャシディは第6戦・岡山を「重要な1戦」と位置づけ、並々ならぬ想いで乗り込んだ。

 しかし、その気合いが空回りしてしまう。レース中に接触を喫し、スピンしてしまったのだ。山本は7位で2ポイントを積み重ね、対するキャシディは10位でノーポイント。ドライバーズランキングも山本に1ポイント逆転されてしまった。

 最終戦の舞台・鈴鹿サーキットは山本が大得意としているコース。流れは少しずつ山本のほうに傾きつつあるのか……。だが、キャシディは自身の力で不穏な雰囲気を変えていった。

 10月26日の公式予選Q3。ホンダ/M-TECエンジン勢が上位を占めるなか、キャシディはトヨタ/TRD勢で唯一Q3に残る。そして、コースぎりぎりを攻めるタイムアタックで6番グリッドを獲得。5番グリッドの山本のとなりに並ぶことができた。

「自分がこれまで鈴鹿で走ってきたなかで、本当にパーフェクトな1周を刻むことができた。山本のとなりのグリッドにつけられた。今の僕たちが持っているパッケージを考えると、ポールポジションに値する出来だ」

 キャシディの勢いは、決勝レースでも衰えることはなかった。ソフトタイヤでスタートするやいなや、次々と前方のマシンを抜いていき、8周目には2番手に浮上した。

 一方、ポールポジションからの逆転勝利で年間王者の座を狙うランキング3位のアレックス・パロウ(TCS NAKAJIMA RACING)は、タイヤ交換直後にマシントラブルが発生して順位を大きく落とす。また、ランキングトップの山本は早めにタイヤ交換を済ませる作戦を選んでキャシディを追いかけたが、思うようにペースを上げられず苦戦していた。

 安定した走りを続けるキャシディは、タイヤ交換後も2番手のポジションをキープ。そのままチェッカードフラッグを受け、初のスーパーフォーミュラ年間王者となった。外国人ドライバーがチャンピオンとなるのは、2011年のアンドレ・ロッテラー以来。キャシディは全日本F3、スーパーGT(GT500クラス)に続き、国内レース三冠目を達成した。

 1年前に悔しい思いをした鈴鹿で、キャシディはついに栄冠を勝ち取った。ゴール後はマシンのなかで号泣したという。

「正直、なんて言っていいかわからない。ゴールした後のウイニングランは、ずっとコックピットのなかで泣いていた。こんなことは今までなくて、最後に泣いたのはいつだっただろう……と思うくらい、普段は泣くことがないから。だけど、今日はずっと涙が止まらなかった」

 昨年獲得できなかった王座を奪還するため、今季のキャシディは常に完璧を求めた。それゆえにチームと衝突する場面も多々あったが、それもすべてはこの栄冠を勝ち取るためだ。

「トムスは本当に完璧なチームだと思っている。だけど、僕はチームに対してさらにプレッシャーをかけた。細かいところを完璧にして、ベストを尽くすアプローチが大事だと考えていたから。でも、今回はパーフェクトなレースだったと思う。チームもすべてを出し尽くして、がんばってくれた」

 今週末には、スーパーGT最終戦・もてぎが開催される。キャシディはそこでも年間王者になる可能性を残している。昨年の山本に次ぐ史上5人目の「国内トップレース二冠達成」なるか。キャシディの戦いは、まだ終わっていない。