目の前で、アレクサンドラ・トゥルソワ(ロシア)にフリー歴代世界最高の166.62点を出された。しかし、紀平梨花は動揺する心をうまく抑えてスケートカナダのフリー演技に臨めた。スケートカナダで2位になった紀平梨花「練習とか本番の会場に入ってか…

 目の前で、アレクサンドラ・トゥルソワ(ロシア)にフリー歴代世界最高の166.62点を出された。しかし、紀平梨花は動揺する心をうまく抑えてスケートカナダのフリー演技に臨めた。



スケートカナダで2位になった紀平梨花

「練習とか本番の会場に入ってからも、あまり何位になりたいとは考えないようにしているけど、演技の時は直前に他の選手が出した点数を見て、『この点数だったら超えられるかな』と考えて、気合いが入るということはありました。

 ただ、今回は超えられるかどうかわからないような、あきらめそうな点数だった。でも、あきらめかけた時に『自分の演技を絶対にミスなくしたい』という気持ちに切り替えて、しっかりいい演技ができたのはよかったと思います。

 どんな高い点数を出されても、自分がショートプログラム(SP)でミスをしてフリーで挽回できないような状況でも、自分の完璧な演技を目指していつもどおり演技に集中してやることが、これからも必要だと感じました」

 今回、紀平は9月のオータムクラシック前に捻った左足首が完治せず、「ルッツは2回転を跳んだだけでも痛みが出る」と、3回転ルッツを封印していた。初日のSPでは最初のトリプルアクセルをきっちり決めると、ルッツから変えた最後の3回転ループもしっかり跳んでGOE(出来ばえ点)加点を稼ぐノーミスの滑り。オータムクラシックより3点以上高い81.35点を獲得して1位で滑り出した。

 同じ濱田美栄コーチの指導を受け、トリプルアクセルを決めてノーミスの滑りをしたユ・ヨン(韓国)に3点以上の差をつけ、3位のトゥルソワとは6.95点差だった。

「トリプルアクセルの確率はけっこうよかったけど、6分間練習が終わってからまた少し感覚が違ったり、イメージがばっちり決まっている感じではなくなった。でも滑る直前にすごく集中して確認したので、何とか持っていけたのだと思います。

 今回はオータムクラシックやジャパンオープンより緊張したし、ルッツではなく3回転ループなので、点数がどれだけ出るかわからなかったけど、思っていたよりいい点数だったのですごくうれしいです」

 こう話した紀平は、フリーへ向けては「完璧にしないと今日の順位もわからないくらいにレベルの高い試合だと思うので、とにかく完璧にするのみだと思っています」と気持ちを引き締めていた。

 翌日のフリーでは、トゥルソワが予想どおりのすごさを見せた。最初の4回転サルコウは転倒したが、その後の4回転ルッツと2本の4回転トーループを含むジャンプはすべてきっちり跳び、自身がネペラメモリアルで出していた世界最高得点を更新する166.62点。合計も世界最高の241.02点にしたのだ。

 それでも紀平は、「あの点を見てどうなるかと思ったが、しっかりできたので精神的な成長はあると思う」と濱田コーチが話すように、動じない演技をした。

 最初のトリプルアクセルは、着氷でステップアウトとなるミスをした。

「踏み切りのタイミングを外してしまったので、自分でもやってしまったなと思った。回転はしっかりしていたけど、修正がちょっと遅れたというか、修正が利かないくらい軸が少しズレてしまった」

 だが、次のトリプルアクセルはしっかり2回転トーループを付けて連続ジャンプにすると、他の要素はノーミスで滑り切って148.98点を獲得。合計は230.33点。昨季のGP(グランプリ)ファイナルに次ぐ2度目の230点台に乗せた。

「すごい得点を出されたあとの演技は今までにない経験だったので、その中でもまとめられたことはよかったけど、もっともっと完璧を目指したいです。3回転ルッツがない構成でアクセルのミスがあっても、230点を超えられたのはすごい成長だなと思ったんですけど、ミスはミスかなとも思った。

 ノーミスをずっと続けていけるようにしなければいけない課題が見つかった。次の試合へ向けて『頑張るぞ』という強い気持ちになったので、すごくよかったです」

 今季のフリープログラムは4回転サルコウに挑戦することを想定し、最初に3回転サルコウを入れてから、そのあとにトリプルアクセルを入れる構成にしている。

 だが今回は、最初にトリプルアクセルを2本入れる昨季の構成に戻した。「練習では8割はサルコウを跳ぶ構成で練習をしていたので、逆に一発目のトリプルアクセルのタイミングがつかめなくて。ここに来てからも、跳ぶ前のバッククロスの回数とかを考えて、オドオドしながらやっていたところもあった」と紀平は言う。

「今回は4回転サルコウを入れられなかった時点で、こうなる可能性はあると考えていたので、それを再確認した試合でした。北京五輪まで時間は少ないので、今シーズンのうちに4回転サルコウを完成させたいという思いはあるけど、ケガもあってまだあまり練習ができていない。

 ただ、3回転サルコウは回転にも余裕があるし、たくさん跳んでいた時は4回転のレベルもだいぶよくなっていました。ケガを治して4回転の練習をするとともに、今季の構成で3回転サルコウをタイミングよく跳ぶ練習をして入れば、けっこういい感じで4回転も習得できるかなとも思う。しっかりマスターできるように、冷静になりながら、着実にやっていかなければいけないと思います」

 紀平は昨季のGPファイナルのフリーでは、4回転ジャンプを入れていないトリプルアクセル2本と3回転ルッツを2本の構成で、160点に乗せられる可能性を見せていた。また、トゥルソワは今後さらに安定感を増していく可能性は高いが、彼女がトリプルアクセルを跳べていない現時点ではSPは74点台。紀平のSPの最高得点は83.97点なので、10点近いアドバンテージを得られる。

 だからこそ、フリーで160点台を出すことができれば、トゥルソワにプレッシャーをかけることもできる。

 今後、4回転サルコウをプログラムに組み込むことはもちろん必要だが、まずは早くケガを治し、3回転ルッツをしっかり跳べるようにすることが先決だろう。3回転ルッツを入れたプログラムでノーミスの完璧な演技を達成することが、トゥルソワに勝つための最初のステップになるだろう。