今から2カ月前のことだ。 8月24日、セルクル・ブルージュはホームでワースラント・ベフェレンを1-0で倒し、開幕からの…

 今から2カ月前のことだ。

 8月24日、セルクル・ブルージュはホームでワースラント・ベフェレンを1-0で倒し、開幕からの連敗をようやく「4」でストップさせた。

 セルクル・ブルージュのセンターバックを務める植田直通にとって、「1-0」のスコアによる勝利は格別なものだったと言う。なぜならば、それまでチームは4試合で11失点も喫していたからだ。



昨季王者ゲンク相手に植田直道は善戦した

「僕のなかでは前半はまったく(守備が)ハマってなかったので、味方に『こうやりたい』というのを伝えたら、後半はそれがうまくハマった。セカンドボールもきっちり拾えていたし、相手のカウンターも抑えることができた。後半は自分たちが思うようなサッカーができていたのかなと思います」(ワースラント・ベフェレン戦後の植田)

 しかし、次のゲント戦では再び守備が乱れ、セルクル・ブルージュは2-3で負けてしまう。すると、植田は3試合続けて出場機会を失ってしまった。10月5日、第10節のズルテ・ワレヘム戦で先発復帰を果たしたが、またも守備が崩壊して0-6と惨敗。チームを率いていたフランス人指導者のファビアン・メルカダル監督は、ついに更迭となってしまった。

 開幕10試合で1勝9敗--。どん底のセルクル・ブルージュを救うべく、新たな監督が招聘された。ユーロ2016でハンガリー代表をベスト16に導いた、ドイツ人指揮官のベルント・シュトルクだ。

 シュトルクは2018年9月、リーグ戦6連敗中だったムスクロンの監督に招聘され、「レギュラーシーズン後半戦ではベルギー最強かもしれない」と称されるほど、一気にチームを蘇らせた。最終的には10位でフィニッシュ。そんな過去の実績があるだけに、セルクル・ブルージュでのシュトルクの手腕にも注目が集まった。

 しかし、いくら名将であっても、すぐさまチームに魔法をかけることは難しいのかもしれない。シュトルク体制の初戦となった10月20日のシャルルロワ戦は0-3。そして10月26日のゲンク戦でも、開始8分で失点を喫してしまう。

 だが、その後は徐々にセルクル・ブルージュが盛り返してくる。ゲンクは3日前にチャンピオンズリーグのリバプール戦があったため、その疲労の蓄積があったかもしれない。それでもセルクル・ブルージュは再三ゲンクのゴール前に迫り、あと一歩というところまで来た。

 ゲンクの「若き守護神」ガエタン・クーケのミラクルセーブがなければ、セルクル・ブルージュは勝ち点1を獲得できたかもしれない。しかしながら、ゴールの遠かったセルクル・ブルージュは惜しくも0-1で敗れた。

 昨季のベルギーリーグ王者に対して、予想以上に善戦した。しかし、第12節を終えて1勝11敗のダントツ最下位という事実も残った。

「勝者の精神」が宿る鹿島アントラーズからやってきた植田にすれば、このような経験はほとんどなかっただろう。

「そういう部分では、自分の人生において楽しいかなというのもありますが……でも、なんでしょうね」

 そう語ったあと、一拍置いてから言葉を続けた。

「こういうチームを、どういうふうに立て直していくのか--。そういうことを考えることが僕には必要だと思う。ここからチームを立て直していければ、必ず僕の成長につながる。神様が試練を与えてくれた。

『こんなに勝つのが難しかったっけ』『こんなに点を獲るのが難しかったんだ』。そういう思いはこれまでなかったこと。これからチームは、少しずつよくなってくると思います」

 この日のゲンクの2トップは、昨季の得点王ムブワナ・アリ・サマタと、201cmの長身を武器とするポール・オヌアチュだった。

 彼らとの空中戦について、「僕も考え方がかなり変わった」と植田は語る。

「日本では、普通に飛んでも勝てるような相手がたくさんいました。ですが、今日は2メートルを超える相手でしたし、ベルギーには速くて強い選手がかなりいる。そうした選手を相手にどうやって勝負するか……というのを去年から考えて実践している。

 その技術に関して、かなりうまくなったという実感がある。自由に競らせないために、相手とのポジション争いはこだわってやっている。そこはかなり技術がついたと思います」

 オヌアチュのような大柄FWの止め方について、植田はさらに一歩踏み込んで話をしてくれた。

「ああいう大きな選手は、止まって自分のゾーンを確保したい選手が多い。だからその前に、僕は相手の体勢を崩すように仕掛け、そのバランスが崩れたところで行く方法が有効だと思う。

 力だけでボールを奪うんじゃない。そういったちょっとした技術も織り交ぜながら海外選手とやっていかないと、これから先は難しくなってくる。そういった技術も身につけたいと思います」

 常勝軍団アントラーズからセルクル・ブルージュに移籍して2シーズン目、植田直通は着実にディフェンダーとしての能力を高めている。