試合前のウォーミングアップが終わり、久保建英はボールをかかとで強く突いた。横にいた選手と何やら話しながら、ロッカールー…

 試合前のウォーミングアップが終わり、久保建英はボールをかかとで強く突いた。横にいた選手と何やら話しながら、ロッカールームへ向かう。勢いよく撒かれた水が飛沫となって光に反射し、背中に受ける日差しを淡いものにしていた。

 前節、レアル・マドリードに勝利したチームは、同じ先発メンバーだった。久保は控え組でのスタート。一度は先発の座を奪い取ったが、ここ2試合は途中出場に甘んじている。日本代表からスペインに戻ってきて、ひとつの試練を迎えているようだった。

 久保は失ったポジションを取り戻せるのか?



レガネス戦で後半14分から途中出場した久保建英(マジョルカ)

 10月26日、ブタルケスタジアム。マドリードの郊外にあるレガネスの本拠地に、久保が所属するマジョルカは乗り込んでいた。レアル・マドリードに金星を挙げた余勢をかって、残留を直接的に争う相手との差をつけたかった。15位のマジョルカと20位で最下位のレガネスとの生き残りをかけた戦いだ。

 しかし、久保不在のマジョルカは前半、パスミスが続出。ボールを受け、マークをはがすことが誰もできないため、相手の守備を崩せない。際どいミドルシュートは1本あったが、ゴール前に近づけなかった。そして、左サイドの守備が脆弱さを露呈した。22分、コンビネーションで崩され、クロスボールを、ファーポストから入ったマルティン・ブレイスワイトに押し込まれる。

 後半になっても、マジョルカは反撃の流れを生み出せなかった。そこで後半14分、ようやくベンチが動く。ダニ・ロドリゲスと交代で、久保をそのまま右サイドアタッカーの位置に入れた。

 久保にとっては、FC東京や日本代表でも担当してきたポジションと仕事に近い。逆足(サイドとは逆の利き足でプレー)で多くのプレーに関与。ボールを晒しながらドリブルで抜け出し、コンビネーションを使い、なによりフィニッシュを視野に入れることができる。久保は投入された早々、何度もボールを呼び込もうとしていた。

 ところが、いいポジションをとっていても、パスは入ってこなかった。久保が見えていないのか、出す技術がないのか。裏を狙って走っても、サイドに張っても、インサイドでギャップに入っても、久保は孤立していた。

 それでも、どうにか回ってきたボールを、久保は自ら運び、ドリブルで挑む。1人目をするりとかわすだけのスピードとスキルは持っている。しかし、2人目でことごとく捕まった。敵にプレーをすでに研究されているのか、チャレンジ&カバーの態勢が作られていた。

 コンビネーションでの攻撃が乏しいだけに、久保に打つ手は乏しかった。たとえば、インサイドにポジションをとったときに球足の速い縦パスをつけてもらえたら、ワンツーやフリックパスでいくらでも守備を崩せるだろう。しかし、そこにパスが入らない。周りの信頼をそこまで得られていないのだ。

 ただ、仕事ができていなかったわけではない。クロスからのシュートを導く起点にもなった。守備では勤勉にコースを遮断。しつこいマークで、自由を与えていない。

 特筆すべきは、空中戦での優位だろう。Jリーグデビュー時は小柄な印象だったが、この試合では素早いポジション取りと高いジャンプで、ほとんど負けていなかった。右サイドからのクロスに対しては、果敢にヘディングシュートに持ち込む場面もあった(大きく枠を外れたが)。

「メッシの偉大なところは、すべての面で成長できることだ」

 かつて、ダニエウ・アウベスはリオネル・メッシの才能の深淵について語っていたことがあった。

「ドリブルだけならうまい選手はいる。でも、メッシはプレーのすべてを向上させていた。FKも、ヘディングも、ね。サッカーに関しては、何ひとつさぼらずに、あらゆる技術を上達させていった」

 久保はこの1年で、劇的にプレーの強度が増している。球際で負けなくなったし、一瞬のスピードも上がった。メンタル、フィジカルを両面鍛え上げたことによって、自慢の技術を出せるようになったのだ。

 そして、今も成長を続けている。

 久保は1対2で勝負を挑む不利を十分に理解しているだろう。この日は完全に空回りだった。にもかかわらず、そのカードを何度も切っている。スペインという国では、一度でも抜けきってしまい、得点の仕事をすることができれば、問答無用で存在証明となり、自然とパスが集まるからだ。

 先日はスペイン大手スポーツ紙の『マルカ』のインタビューで、「18歳にはあまりに大きなプレッシャーなのでは?」という質問を受け、久保本人はふてぶてしくも、こう答えている。

「こういうプレッシャーはいいことだよ、もっと自分に高い要求するためにね」

 久保のキャラクターは、自らがゴールを決めるところから逆算し、その高い技術を見せることにある。それを信じて貫くしかない。

 結局、マジョルカは攻めきれず、0-1で敗れた。今季、アウエーゲームは全敗。チームとして岐路に立たされている。

 10月31日の次戦、久保はオサスナ戦でもベンチスタートが予想されている。