「バーディーを何個取れるかですね。(スコアの)伸ばし合いになると思います。私も(その争いに)遅れずについていきたいです」 2日目を終えた前日、3日目の展望と自身の目標について、渋野日向子はそう語った。  しかし、渋野にはこの日、日没サスペン…

「バーディーを何個取れるかですね。(スコアの)伸ばし合いになると思います。私も(その争いに)遅れずについていきたいです」

 2日目を終えた前日、3日目の展望と自身の目標について、渋野日向子はそう語った。 

 しかし、渋野にはこの日、日没サスペンデッドで消化できなかった第2ラウンドの、ラスト3ホールが残っていた。

 スタートしたのは、午前7時。渋野は、早朝にもかかわらず詰めかけたギャラリーの熱意に応えるかのように、18番でバーディーを奪い、通算5アンダー、6位タイで第3ラウンドを迎えることになった。



第3ラウンドでは、同組のテレサ・ルーに煽られた渋野日向子

 賞金総額2億円。優勝賞金3600万円をかけて争われる秋のビッグトーナメント、NOBUTA GROUP マスターズGCレディース(マスターズGC/兵庫県)。

 第3ラウンドは、渋野の読みどおりには進まなかった。”伸ばし合う”というより、ひとりだけがぐんぐん伸ばしていく展開となった。

 主役は、渋野と同じ組で回ったテレサ・ルー。次週、米女子ツアーのスウィンギングスカートLPGA台湾選手権(10月31日~11月3日)に出場する渋野は、テレサ・ルーとその話もしたという。

「台湾の話は、前半にしました。タピオカ、いろいろ(な種類が)ありすぎてわからないけれど、美味しいよーって」

 そんな他愛のない話をしつつ、台湾の実力者は、今が”旬”の若き逸材を前にして本領を発揮。渋野は、それに煽られながらのラウンドとなった。

 渋野とは1打差の通算6アンダー、3位タイでスタートしたテレサ・ルーは、前半だけで4つスコアを伸ばすと、後半もその勢いは止まらない。11番(パー4)では、第2打をピンの根元にドスンと落とすナイスショットで、渋野を圧倒する。バーディーを奪って、11アンダーとした。

 対する渋野は、10番まで終えて2バーディー、2ボギー。スタート時と同じ5アンダーのままだった。

 それでも、続く12番のパー5。渋野も負けじと見せ場を作り、食い下がった。

 第3打、テレサ・ルーが先に、バックスピンの効いたピンに絡む華麗なショットを披露すれば、渋野も応戦。バックスピンの効いたショットでピンハイ1mにつけ、バーディーを奪う。

 渋野は、13番(パー4)もチャンスにつけた。しかし、ピン左奥から打った4mのバーディーパットはカップに大きく蹴れられてしまう。

 6アンダーの渋野と12アンダーのテレサ・ルー。迎えた14番(パー3)では、テレサ・ルーがバーディーパットを先に沈め、渋野にプレッシャーをかける。これを外せば万事休すかと思われたバーディーパットを、渋野も必死に入れ返す。

 2人の争いがこの日、最も熱を帯びた瞬間だった。コースにも、どんよりとしていた朝方の空が嘘のように晴れ上がり、10月下旬とは思えぬ強い陽光が注いでいた。

 続く15番は、渋野が前日、競技終了前にグリーン右のカラーに乗せる2オンに成功し、バーディーを奪ったロングホール。ハイネックの丸首シャツに身を包んでいる渋野に対して、半袖のほうが思う存分プレーできるのではないかと、つい余計なお節介を焼きたくなるほど、判官贔屓が騒いでいた。

 そんななか、テレサ・ルーが2オンに成功。対して、渋野の第2打はグリーンに届かず、ピン手前のラフに吸い込まれる。結果、テレサ・ルーは楽々とバーディーを奪うも、渋野は第3打のアプローチを寄せ切れずにパー。2人の差は7打差と、決定的なものに広がった。

 その後、渋野は17番(パー3)でも1オンを逃し、左足上がりのアプローチが寄らずボギー。一方、ティーショットを1ピンの距離につけたテレサ・ルーはバーディー。コース上には「勝負あり」といったムードが包まれた。

「今日は、アプローチで全部落としてしまいました。17番は練習してきたアプローチだったんですが……。笑いながらラウンドできる内容ではありませんでした」

 ラウンド後、そう言って肩を落とす渋野。最終的に通算14アンダーとし、2位の稲見萌寧に3打差をつけて首位に立った同伴競技者のテレサ・ルーに対しては、半分呆れ気味にこう語った。

「バーディーが当たり前すぎるって感じの内容で、ベタピンばっかりですもんねぇ~。長いパットも入るし、『(私の分まで)吸い取られているな~』と思いました」

 だが、渋野のシーズン最大のライバルは、テレサ・ルーではない。優勝は遠のいたとしても、落胆している場合ではない。目標とする賞金女王の座を争う、申ジエとの戦いがある。

「私的には(最終的に)ふた桁アンダーまで持っていきたいと思っています。そうなった時、結果(2人の差)がどうなるか……」

 最終日、3日目を終えて通算8アンダー、4位タイの申ジエと、通算6アンダー、9位タイの渋野との戦いも見ものとなる。

「64」のビッグスコアを叩き出し、渋野に引導を渡すことになったテレサ・ルーは、渋野とのラウンドについてこう振り返った。

「(渋野のゴルフは)近くで見ていて楽しい。サバサバしているプレースタイルがすごくいい。私も勉強になります」

 最終日、そのサバサバとしたプレーで、渋野はどこまで這い上がっていけるか。吸い取られたエネルギーを回復させることはできるのか。順番的には、渋野の”チャージの日”が来るような気がする。