スケートカナダ競技初日の男子ショートプログラム(SP)。10番滑走の羽生結弦の最初の4回転サルコウは、前日の公式練習の時より少し力が入っているように見えた。だが、それをきれいに決め、GOE(出来ばえ点)4.43点をもらう滑り出し。その…

 スケートカナダ競技初日の男子ショートプログラム(SP)。10番滑走の羽生結弦の最初の4回転サルコウは、前日の公式練習の時より少し力が入っているように見えた。だが、それをきれいに決め、GOE(出来ばえ点)4.43点をもらう滑り出し。そのあとのトリプルアクセルも、ジャッジ9人中8人がGOE満点の5点を出す完璧なジャンプにした。



スケートカナダで首位発進の羽生結弦

 昨シーズンのロステレコム杯以来の、SP冒頭の4回転サルコウの成功。羽生はその理由をこう話す。

「今回は練習方法を変えてきました。世界選手権からオータムクラシックにかけて。世界選手権までの練習もそうだったんですけど、最初のジャンプを失敗したら、もう一回最初からやり直して、『ノーミスが出来ればいいや』という感じで取り組みました。とにかく、ノーミスだけを念頭に置いてやっていました。

 それが正しかったとも言えますけど、ただ、それだと一発目のジャンプへの集中の仕方が、ちょっとずつ曖昧になっていたかなという感覚もあった。それで、練習ではともかく、氷に乗ったら1~2分で曲かけをするんですけど、その時はもう『絶対に最初のサルコウだけは決めよう』という意識を持って練習をしました。それが今日の結果につながったと思います」

 この日の羽生は、4回転サルコウに不安があったという。実際、午前中の公式練習ではきれいなジャンプを繰り返していたが、演技前の6分間練習では、尻の位置が少し下がってしまう着氷に。それもあって、演技直前にリンクに上がった時も、前の選手の得点が出るまでの時間に、珍しくトーループとサルコウの4回転を2本跳んでいた。

「サルコウに関しては自信がなかったというのと、同じ失敗を絶対に繰り返したくないというのもあった。後半にちょっと疲れが出るだろうなと思ったし、案の定、実際に疲れは出てしまったけど、それでもよかったと思います。トリプルアクセルに関しては、本当にバチッとはまったなと思ったし、オータムクラシックよりもきれいにしようとして、余韻を残しながらできたと思います。ただ、トーループに関してもそうでしたけど、サルコウに関してはとくに6分間練習の最後の1本だったり、演技直前の1本がすごくよかったから、もっとクリアにスムーズに跳べるかなと思います」

 4回転トーループも6分間練習ではよくなかったが、公式練習ではよかったこともあり、「後半になって疲れてくれば跳べるかなと思い、それを信じてやった」と言う。だが実際には、「力で跳ぶしかなかった」と苦笑する。



スケートカナダSPでミスなく高得点を記録した羽生結弦

 結局、最初の4回転では少しだけ着氷が乱れて、3回転トーループを付ける形に。GOE加点は1.90点あったが、ジャッジ9人の評価は0点から3点までと分かれた。その後のスピンはスピードも表情もある滑りでレベル4を取ったが、ステップシークエンスはレベル3。得点はシーズンベストの109.60点となり、2位のカムデン・プリクネン(アメリカ)に20.55点を付ける首位発進となった。

 だが、羽生は興奮するような雰囲気は見せなかった。

「得点はともかく、自分の感触としてはレベルを落としてしまう部分があったり、採点にも影響があるクリアじゃないジャンプもしてしまっている。そこが自分としてはすごく悔やまれる点なので、うまく明日につなげていきたいなと思います」

 数字的には減点は一切ない、ノーミスの滑りと言える。だが羽生は「4回転ループや4回転ルッツが入っている構成でこの出来だったら、ノーミスとちょっとは言えると思うんですけど、やっぱりこれではまだ、ノーミスとは言えないんじゃないかと思います」と、厳しい評価をする。

 ただ、自分の気持ちが空回りしてミスを重ねたオータムクラシックから見れば、「これが本当のシーズンイン」と思えるグランプリシリーズ初戦、初優勝を成し遂げたいという思いも強いこの大会で、ミスなく滑り出せたことは大きな自信になったはずだ。

 演技終了後、羽生は複雑な表情をしながらも、ホッとするような表情も見せた。さまざまな思いが交錯するなか、まずは冷静に、落ち着いて大会に臨んでいる羽生。この結果は次への一歩を踏み出せるものになったと言える。