日本の大活躍で盛り上がるラグビーW杯とともに、”もうひとつのワールドカップ”「車いすラグビーワールドチャレンジ2019」が東京体育館で開催された。世界ランキングトップ10のうち、8カ国(オーストラリア、日本、アメリカ、イギリス、カナダ、フランス、ニュージーランド、ブラジル)が参加。予選リーグを全勝で勝ち上がった世界ランク2位の日本は、準決勝で同1位のオーストラリアに56-57の1点差で敗れたが、3位決定戦でイギリスに勝利し、銅メダルを獲得した。



まだ高校生ながら、世界の舞台で堂々と戦った橋本勝也

 優勝を目標に掲げていた日本の前に立ちはだかったのは、最大のライバル・オーストラリア。今年9月のアジアオセアニア選手権(AOC)でも敗れた相手だ。強固なディフェンス、スピード、コート上の4人の流れるような連携と高い集中力。王者の貫禄が、そこにはあった。

 敗れはしたが、日本も対等な戦いを見せた。切れ味鋭いランやロングパスで得点を重ねるハイポインター(障がいが軽い選手)だけでなく、守備で貢献することが多いローポインター(障がいが重い選手)も前線でトライできるのが今の日本だ。だが、同点で迎えた最終ピリオドの序盤、激しいボールの奪い合いから日本がファウルをとられて連続トライを許してしまう。結局、この1点が最後まで響いた。わずかなミスを犯してしまった日本、そしてそのチャンスを逃さず確実に突いてきたオーストラリア。その差がスコアに表れた。

「本当に悔しいです」

 キャプテンの池透暢(ゆきのぶ/クラス3.0)は、そう言葉を絞り出した。「東京パラリンピックでの直接対決を想定した大一番。最大限の努力をしてきたつもりだけど、準備が足りなかったということ。今、日本はパラで金メダルが獲れる『かも』しれないチーム。だけど、それを『獲れる』チームに変えていかなければいけない」

 届かなかったオーストラリアの背中。何人かの選手が、赤く目を腫らしてコートから引き揚げてきた。高校2年の橋本勝也(クラス3.0)もそのひとり。実はこの試合、橋本に出場機会はなく、ベンチで試合を見届けた。その悔しさと、敗戦への無念さが溢れ出ていた。

「先輩たちは、体力的につらかったと思う。自分が少しでも出てカバーできていれば、勝てる可能性があったのに……。それでも出場できなかったのは自分に実力がないからです」と、涙ながらに率直な想いを吐露する姿が印象に残る。

 日本代表のケビン・オアーHC(ヘッドコーチ)は大会後、「今大会は若い選手たちのプレータイムをある程度確保する目的もあった。経験を積むことが大事。ただ、今の主力メンバーと育成メンバーにギャップがあるので、そこを埋めていかなくてはならない」と、課題を語っている。

 だが、初戦のブラジル戦で橋本を起用し、チーム最多の18得点を挙げてその期待に応えた彼に対して、「若くて才能がある。ワクワクする」と評価する。そして「ただ、彼に過剰なプレッシャーはかけたくないんだよ」と話すように、厳しくも温かく、成長を見守っているところだ。

 橋本は2002年5月に福島県で生まれた。先天的に手と足に障がいがあり、幼いころから車いすに乗って生活をしてきた。スポーツの経験はなかったが、14歳で車いすラグビーに出会い、「TOHOKU STORMERS」に所属。中学3年で日本選手権に出場し、そこでオアーHCに才能を見出された。そして昨年、高校1年で日本代表強化合宿に招集され、6月のカナダカップで初代表を経験。その年の世界選手権にも出場した。

 変化の時を迎えたのは、今年9月に韓国で行なわれたAOC。現地で受けたクラシフィケーション(クラス分け)で、橋本は最も障がいが軽いクラス3.5から、ひとつ重いクラス3.0に変更になった。コート上の4人の選手のクラス合計が「8点以内」とルールで定められている車いすラグビーにおいては、この「0.5」の差は非常に大きく、橋本のクラス変更について、池は「チームにとってはメリットしかない」と話すほど。

 日本代表メンバーの同じクラス3.0には、この池をはじめ、池崎大輔、島川慎一といった世界に誇るハイポインターがそろっている。そのなかで橋本は経験を積み、強度の高い試合での実績を残して、代表生き残りをかけて戦っていくことになる。

「東京パラでは今の自分より進化した姿を見せたい。今回、試合に出た時は『橋本コール』をもらえてすごく嬉しかった。観客に笑顔を届けられるプレーヤーになりたいです」と橋本。自国開催の大会で勝利も敗戦も経験したことは、彼の今後の成長の大きな糧となるだろう。

 クラス0.5の長谷川勇基(27歳)も、今後の活躍が期待される成長株のひとり。障がいクラスが最も重いローポインターだが、スピードとパスワークに長けており、AOCで初めてスタメンを経験。今大会も予選から決勝まで全5試合に出場した。インバウンダー(スローインする選手)もこなすことができ、オアーHCは「その後のプレーの切り替えもできる選手」と評価する。また、クラス2.0の中町俊耶(25歳)も今年、プレーに安定感が増し、代表に定着。数少ない左利きで、ハイポインターのプレッシャーに対しても精度を落とさず、シングルハンドで距離のあるパスを出せるのが強み。ブラジル戦では後半にトライも決め、またベンチでも大声をあげてチームを盛り上げ、勝利に貢献した。

 ベテラン勢と比べて経験が浅い分、ボールハンドリングなどのスキルや、最初から最後まで一貫性を持ったプレーをするという面ではまだ成長の余地があるが、前述のように若手選手の成長によって実現した多彩なラインナップは日本チームの大きな武器になる。東京パラリンピックまであと10カ月。目標である金メダル獲得に向けて、さらに「ONE TEAM」に磨きをかけていく。