パー4の13番。渋野日向子が打ったセカンドショットはグリーンオンしたものの、同組の2人、勝みなみと稲見萌寧より、ピンまで遠い位置だった。最初にファーストパットを打つのが、自分であるという事実を確認するや、渋野は小走りでグリーンに向かった。…

 パー4の13番。渋野日向子が打ったセカンドショットはグリーンオンしたものの、同組の2人、勝みなみと稲見萌寧より、ピンまで遠い位置だった。最初にファーストパットを打つのが、自分であるという事実を確認するや、渋野は小走りでグリーンに向かった。日没が迫っていたからだ。

 残りホールをできるだけ多く消化させたい--との気持ちが背景にあったことは、言うまでもないだろう。



2日目、15ホールを終えて5つスコアを伸ばした渋野日向子

 賞金総額2億円。優勝賞金3600万円をかけて争われる秋のビッグトーナメント、NOBUTA GROUP マスターズGCレディース(マスターズGC/兵庫県)。その2日目は、雨天のために最初の3組(アウト、インスタート合わせて計6組)がスタートしたところで、およそ2時間半中断。アウトスタートの後ろから3組目を回る渋野の組は、小雨が残るなか、12時45分にスタートした。

 初日を終えて1オーバー、49位タイの渋野は、出だしの1番(パー5)でいきなりハプニングに遭遇する。ドライバーで打ったティーショットがやや左へ。コースロープ外にいたギャラリーに直撃した。

「ちょっとフックしたんですけど、当たりはまずまずで、まさかギャラリーの方に当たるとは思っていませんでした……」(渋野)

 ところが、待ち受けていたのは、「どうやったら、人に当たったボールがフェアウェーに出てくるのか……」と、渋野も吃驚(きっきょう)のラッキーだった。

 そうして、フェアウェーから放ったセカンドをうまく刻んで、絶妙なサードショットはきっちりとピンに絡んだ。結果はバーディーと、好発進となった。

 以降、渋野はパーを続けたが、9番パー4でこの日ふたつの目のバーディーを奪取。前半を終えたところで、通算1アンダー、23位タイまで上昇した。

 首位を行くのは、同伴競技者で渋野のひと学年下の、稲見。前半を終え、通算8アンダーまで伸ばしていた。もうひとりの同伴者で、渋野と同学年の勝も、この時点でスコアを3つ伸ばして、通算3アンダーとしていた。

 3人は、コースロープ外まで聞こえてくる”女子トーク”に花を咲かせつつ、軽快なテンポでホールを消化していった。その間、渋野のギアはさらに上がって、10番(パー4)、12番(パー5)とバーディー。後半に強い彼女が”猛チャージ”を見せるか、という雰囲気に包まれた。

 迎えた13番。

「急いては事を仕損じる」あるいは、「好事魔多し」とはよく言ったもので、セカンドを打ち終え、小走りにグリーンに向かった渋野を待ち受けていたのは、3パットという”悲劇”だった。ファーストパットを強く打ちすぎて、返しのパットを逃すという、まこと”渋野らしい”外し方だった。

 だが、もうひとつ”渋野らしさ”を挙げるなら、バウンスバック(※)だ。
※ボギーか、それより悪いスコアとしたホールの直後のホールで、バーディーか、それよりいいスコアを獲得すること。

 続く14番、152ヤードのパー3で、渋野はピン横1mにピタリとつける。難なくバーディーを奪って、通算3アンダーに戻した。

 時刻は17時を回って、夕闇が迫ってきた。続く15番は、2オンを狙えるロングホールだった。

 ところが、渋野はティーショットを左のラフに入れてしまう。刻むのか否か。渋野は「残り193ヤード」を、グリーン右サイドのカラーまで運んだ。

 ホワーン!

 日没サスペンデッドを告げるホーンが鳴ったのは、渋野がグリーンに到達した瞬間だった。

「日没サスペンデッドは(プロになって)初めての経験です。ロングパットだったので、グリーンが綺麗な明日(3日目)、打ったほうがよかったのかもしれませんが、とにかく(そのホールを)終わらせたかったので……」

 薄暗いグリーン上、渋野はイーグルパットを翌日に持ち越さず、そのまま打った。2m、ショートした。それでも、続くバーディーパットを見事に沈めて、通算4アンダー、暫定ながら順位は6位タイまで急浮上して2日目の競技を終えた。

 暫定首位は、稲見で通算10アンダー。渋野と賞金女王争いを繰り広げる申ジエは、通算7アンダー(2位タイ)。

「前半、もったいないパットを何個か外した分、後半入ってくれた。明日は、バーディーを何個取れるかですね。(スコアの)伸ばし合いになると思います。私も(その争いに)遅れずについていきたいです」

 15番のプレーを終えてクラブハウスに戻るや、即パットの練習に向かった渋野。おかげで、彼女を待つ報道陣の前に姿を現したのが、ラウンド後、かなりの時間が経過してからだった。インタビューが終わるや、周囲の大人たちに、しきりに頭を下げる姿が印象的だった。

 その後、彼女は再びパッティンググリーンに向かった。