スケートカナダ競技前日、午前9時25分からの最初の公式練習で、羽生結弦はショートプログラム(SP)の曲かけで、すばらしいジャンプを決めた。 それまでの、3人の曲かけが行なわれている時とはまったく違う力みのないジャンプ。最初の4回転サル…

 スケートカナダ競技前日、午前9時25分からの最初の公式練習で、羽生結弦はショートプログラム(SP)の曲かけで、すばらしいジャンプを決めた。

 それまでの、3人の曲かけが行なわれている時とはまったく違う力みのないジャンプ。最初の4回転サルコウを軽い感じできれいに決めると、次のトリプルアクセルから4回転トーループ+3回転トーループまできっちりと決めた。それでいて、動きにはキレもある。平昌五輪SPのジャンプを彷彿させる冷静さで、軽やかに跳んでいた。

 その5時間ほどあと、羽生は「リズムも気持ちよく跳べていましたし、すごく安心できる材料にはなると思う。あとはこれをうまく利用して再現し、いいタイミングで跳べるように滑り込んでいきたいなと思います」と話した。記者に囲まれて話をする表情や口調は、これまでにない落ち着きを見せていた。



スケートカナダの公式練習で冷静に調整をする羽生結弦

「オータムクラシックのあとは、本当に試合のための練習を、ずっと繰り返してきました。調整の仕方とかも、ちょっとずつ、なんというか、一発にかけるという感じではなくて、一つひとつ噛みしめるような調整ができました。自分の中ではいい調整をしてこられたのかなと思います」

 もちろんノーミスの滑りをしたい意識が強くあるのは、オータムクラシックから「変わっていない」と言う。ただあの時のように、「ただがむしゃらに、ひたすらにノーミスをしたいという感じではない」とも言う。

「一つひとつのステップを踏みながら。まずは最初の4回転サルコウであったり、そのあとのスケーティングであったり、トリプルアクセルの入りであったりと……。段階を踏んで、きれいなジャンプを跳べたらいいなという風に思ったうえでの、ノーミスを目指したい気持ちです」

 そんな気持ちになれたのは1週間ほど前。グランプリ(GP)シリーズ初戦のスケートアメリカの、ネイサン・チェン(アメリカ)の演技を見てからだった。彼がミスをしていたこともあるが、「まだ全開ではないと感じた」と言う。

 また、「自分はやっぱり彼のようなタイプではないし、もちろん彼にはない武器も持っている。だからこそやっぱり、自分の演技をしなければいけないと改めて感じた。これまでは現実のチェンではなく、自分が幻想化した彼と戦っていたのではないか」とも語った。

 そう考えることで、4回転ルッツを入れなくてはと焦ったり、ジャンプ構成のレベルを上げなくてはいけないという気持ちも少し和らいだ。「それでちょっと落ち着けているのかなと思います」と、羽生は穏やかな笑みを浮かべた。

 公式練習で羽生は、4回転ループに苦戦する姿も見せていた。見た感じでは氷も少し軟らかそうで、エッジ系のジャンプは難しそうなコンディションだった。それでも今回は、トー系のジャンプでもある4回転ルッツには挑戦しないと明言した。

「そこは徐々に、徐々につかんでくると思うので……。エッジ系のジャンプはとくにですけど、氷の状態との相性がある。そこはしっかり氷にいろいろ聞いてみながら、エッジとどういう風にコネクトするのがいちばんいいか、方法を探しながら、時間をかけてやっていきたいと思います」

 羽生は、そのあとの午後の2回目の公式練習では、4回転ループには慎重に対処していた。助走をしない3回転ループでエッジを確認したあとで跳んだ4回転は、軸が右側に流れて転倒。それを少し修正して臨んだ曲かけでは、微妙に左側に流れるジャンプで着氷を乱し、手を着いた。

 だが、そのあとは跳ぶ位置をずらしたり、一度ヒザを曲げてエッジの位置を確認してからそのまま助走もなく4回転を跳ぶなど、じっくりジャンプの感覚を作り上げようとしていた。冷静にこの大会に臨んでいるからこそ、SPの曲かけではすばらしいジャンプを見せていた。

 過去3戦で2位3回のスケートカナダで、初勝利を挙げたい気持ちは強いはずだ。それでも、自らを過剰に高ぶらせることなく、落ち着いて臨もうとする羽生。今回のSP、さらにフリーへの期待も大きなものになってきた。