蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.73 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカ…

蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.73

 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎--。この企画では、経験豊富な達人3人が語り合います。今季序盤のビッグクラブのパフォーマンスを考察するシリーズ。今回はプレミアリーグの2チームを取り上げます。



CL連覇と悲願のプレミア制覇を目指すリバプール

--今季の欧州チャンピオンズリーグ(CL)の優勝候補6チームについてお三方に掘り下げてもらっています。今回はプレミア勢の2チーム、リバプールとマンチェスター・シティについて話していただきたいと思います。

<序盤は出来過ぎのリバプール。
攻め倒すサッカーでプレミア、CLの2冠を狙えるか>

倉敷 リバプールはディフェンディングチャンピオンとしてCL優勝候補に挙げられますが、今季も勢いは続いていますね。

中山 文句なしの強さ。現在最も完成度の高いチームです。

倉敷 国内リーグではユナイテッドに連勝を8で止められても、2位マンチェスター・シティとの差は6ポイント。すばらしいロケットスタートを見せたレッズですが、磐石とは感じていません。むしろ序盤からこれだけギアを上げて大丈夫なのか、という心配をしています。よく効くブレーキは持っていないクラブであり、監督に見えるからです。

中山 僕も同じことを考えていました。たしかに強いし、隙がない。でも、長いシーズンを考えた場合、この調子を最後まで持続するのはかなりハードルが高いタスクだと思っています。とくにめまぐるしく状況が変化する近代サッカーでは、ひとつのチームが勝ち続けることが以前よりも確実に難しい。ユルゲン・クロップ監督とリバプールがその高いハードルを乗り越えることができるのかどうかが、最大の注目ポイントでしょう。

小澤 しかも、今夏はほとんど補強をせずにシーズンを迎えました。昨季とほぼ同じメンバーで戦い続けることになります。

倉敷 プレミアとCLの2冠を狙い続けるシチュエーションが続くと虻蜂取らずになりかねませんね。今季のリバプールはいよいよ国内リーグ優勝を求められていて、そこに絶対的なプライオリティがあります。

小澤 とくに昨季はわずか1敗しかしていないのに、シティにタイトルを奪われてしまいましたからね。

倉敷 最大のライバルであるシティと目下6ポイント差。でも相手のクオリティを考えれば少しもセーフティリードではありません。いつクラブのOBたちが「CLは捨ててもいい」と言い出すことやら。しかし、クロップは絶対に欧州のタイトルをあきらめてしまうタイプの監督ではありません。狙えるタイトルはすべて全力を尽くして狙いにいく闘将です。

 今季のリバプールを見ていると、負けないけれど、楽勝のゲームばかりではなく、フィルジル・ファン・ダイクの負担が増しているように思えます。CL第2節のザルツブルク戦などは、彼が精神的に最も消耗したゲームではないでしょうか。世界最高評価の選手がバタバタと3失点するなんて、プライドが許さなかったことでしょう。リバプールのサイドバックは、トレント・アレクサンダー・アーノルドにしてもアンドリュー・ロバートソンにしても、極端に攻撃的なプレーをするので、中盤センターのファビーニョが相手の攻撃を潰せないと、一気にファン・ダイクのところにしわ寄せが来てしまいます。

中山 その試合でファン・ダイクとコンビを組んだのはジョー・ゴメスでしたしね。3点リードしたことで油断が生まれたのかもしれませんが、アンフィールドで追いつかれてしまったのは失態と言われても仕方ないですね。もっとも、普通のチームならそのままドローで終わるか逆転負けを喫してしまうものですが、最後に勝ってしまうあたりはさすがです。

 それと、プレミアでは鉄板3トップの配置を変化させるなど、クロップ監督がマンネリを防止しようと色々試していますが、小澤さんがおっしゃったように、いかんせんメンバーが昨季とほぼ一緒なので限界はあります。そこも含めて、この好調をいつまで持続できるかが注目ですね。

倉敷 オプションがそれほどないですからね。中盤の駒を見ても、困ったときのジェイムズ・ミルナーという策に落ち着いてしまいます。ジョーダン・ヘンダーソンにしても、ここ数年を見ているとフルタイムでプレーするのは難しい。結局、打つ手がそれほど多くないという状況は昨季と変わっていません。

 守って勝つサッカーを身につけていない以上、常に攻撃し続けないとザルツブルク戦のようなしんどい試合が繰り返されるリスクを感じます。レベルの高いゴールキーパーとセンターバックを擁していながら、それでも守り切るサッカーには移行しない。それがリバプールであり、クロップのサッカーといえばそうなのかもしれません。

中山 今季は、いろいろな意味でクロップ監督にとって勝負のシーズンですね。現在のペップ・グアルディオアラ監督(マンチェスター・シティ)を見ていて思うのは、昨季まであれだけの強さを維持しながら、もう今季は序盤から勤続疲労と言えるような綻びを見せてしまっていることです。強者のサイクルが確実に短くなっているなか、クロップ監督はメンバーをほとんど変えないというアンチ現代な手法でそれを乗り越えようとしています。もしこのスタイルを貫いてプレミアタイトルかCL優勝を成し遂げたら、それはかなりエポックメーキングな出来事になるでしょう。

倉敷 気になるのが3トップですね。モハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネのセットは3シーズン目に突入です。近年の魅力的な3トップといえば、バルセロナ、レアル・マドリー、ナポリなどに存在したわけですが、すぐにサイクルの終わりが来て、誰かが飽きてしまったり、誰かがチームを離れてしまったりで同じ3トップが長く続いたという印象がありません。優秀な選手のセットほど飽きるのも早いものです。

小澤 周囲の飽きは絶対にありますが、それ以上にピッチ上での存在が絶対的になりすぎるとチームとしての依存度が高くなり、11人のひとりとして担うべきタスクの選手間のバランスが歪になる傾向にあります。すでにサラーに対しての守備面でのハードワークやタスクは軽減されていますが、今度はそれが加速する可能性がありますし、その時に彼の分を担う選手の負担がより大きくなっていった時に3トップ、チームがどう変化するのかは注意して見守っていきたいところです。

倉敷 リバプールはまだ頂上に向かって登っている最中なのか、じつはもう頂上から下りはじめているのか。そこはまだなんとも言えませんが、たとえば連敗したときすぐに立て直せるのかという興味はありますね。

中山 今季はまだCL初戦のナポリ戦しか負けていませんからね。というか、昨季のプレミアでも1敗だけですから、なかなか連敗を経験することがない。そういう点でも、連敗後のリアクションには興味は沸きますね。もっとも、プレミアのスケジュールを見てもリバプールが連敗しそうな予感がしません(笑)。

倉敷 昨季のCLではプレミア勢が強さを発揮しましたが、今季は昨季ほどではないのかな、と感じています。たとえば昨季のCLファイナリストであるスパーズ(トッテナム)はプレミアでかなり苦しんでいます。

小澤 そうですね。すぐに解任、交代があるとは思いませんが、このまま結果が出続けないで、内容が悪化した場合、マウリシオ・ポチェッティーノ監督がもつかどうかもわかりません。今季のプレミアリーグについては、リバプールとシティの二強と、その他のチームの差が広がっていますよね。

中山 たしかにチェルシーもアーセナルも優勝は難しいでしょうし、マンチェスター・ユナイテッドについてはもはや蚊帳の外といった感じになってしまいました。「トップ6」と呼ばれたのはもう過去になりつつあって、現在は明らかに「ビッグ2」です。

倉敷 CLでもこの2チームは優勝争いに絡んでくるでしょうね。国内での優勝争いも現状ではこの2チームにしかチャンスはなさそうです。

中山 とてもじゃないけど、ユナイテッドは絡めない。

<サッカーの進化は期待できるシティ。
それでもやっぱりトーナメントは苦手>

倉敷 では国内リーグではリバプールにとって唯一の対抗馬となるマンチェスター・シティについてです。今季もいわゆるアタッキングサードといわれる攻撃の最後のところに課題を残している状況は変わらないですね。

小澤 そもそもそういうサッカーを志向しています。攻撃においては、相手がスペースを消した状態でセットしている時に崩すのは一番難易度が高いですから。かといって、ペップ(・グアルディオラ監督)の色からしても世界的なストライカーを補強して、個の力で、パワーや高さでその問題を解決するということはないでしょう。そこは自分が考えている戦術を選手に与えて、それを実行してくれるアタッカーで勝負すると思います。

倉敷 ペップの監督としてのサイクルについて触れておくと、バルサ時代やバイエルン時代と比べればそろそろシティにも飽きてくるころではないでしょうか。

小澤 ペップ自身も飽きてくるころだと思いますし、さすがのペップでも毎年新たな刺激や異なる引き出しを用意することは難しいと思います。

中山 たしかに。バルサで4年、バイエルンで3年。シティでは2016-17シーズンからなので、今季が4年目です。バルサ最後のシーズンは国内リーグもCLも逃して、最後は疲れたと言って白旗を上げてチームを去りました。その視点で今季のシティを見てみると、ペップの挑戦と葛藤みたいなものが見えてくるかもしれないですね。

倉敷 ペップのサッカーは要求が細かいから、選手も疲れてしまうのでしょうね。

中山 今季の補強面でいうと、中盤の真ん中にロドリという望みどおりのミッドフィルダーを手に入れました。

小澤 バルサでブスケッツを抜擢したように、ペップが欲しかったピースですよね。

中山 ただ、ここにきてセンターバックふたりがケガをして離脱してしまっているので、まだベストメンバーを編成して戦った試合が少ないというのが不運なところですね。

倉敷 ペップのチームは、センターバックの選手のケガが多いですね。それと、サイドバックにかなり細かいことを要求するので、なかなかジョアン・カンセロが覚えきれていない(笑)。

小澤 そもそも、なぜカンセロを獲得したのか疑問です。ペップの高度で細かい要求を最も飲み込めなさそうな攻撃的なサイドバックですし、そもそも彼の本職はウイングですから。

倉敷 かといって、リヤド・マフレズにはユーティリティ性がありません。ここまではラヒーム・スターリングが好調なのが救いです。あとは若手のフィル・フォーデンが成長しているというポジティブな要素もありましたね。

中山 結局、やろうとするサッカー自体は進化していくとは思いますけど、だからといってタイトルが獲得できるとは限らない。とくにCLは決勝トーナメントに入ってからハードルが急激に高くなりますからね。シティの場合、どうしても決勝トーナメントに入ってから守備面の脆さを露呈する傾向があります。ペップが監督でいる限り、そこは変わらないでしょうね。

小澤 ペップは自分に厳しい人なので、毎シーズン、あるいは毎試合、何か違う手を打っていくので、それを選手が消化しきれずに試合に入ってしまうことがある。負けた試合など、とくにそんな風に見えます。

倉敷 サッカー頭脳が高くない選手は、ペップの下では活躍しにくいようですね。

小澤 ペップは、以前からスペインのメディアに「メッシがいないチームだとCLで優勝できない監督だ」と言われています。やはりCLの戦いは、計算できるチームを作れていても、ここ一番という時のインテンシティが高い試合では、その計算できる部分がコントロール不能になってしまい、カウンターを受けたときに脆さとなってしまいますからね。昨季のスパーズ戦もそうだし、その前のリバプール戦もそうでした。

倉敷 教えるサッカー、教えられるサッカーには限界があるということですね。シティが勝っても不思議ではないけれど、優勝するイメージも持ちにくい。ペップは超一流の監督だから興味もあるし、期待もできますが、リバプールが持っているような圧倒的な攻撃力がない分、勝ち切れず引き分けてしまう危険性がもうひとつ本命に推しきれない理由です。

中山 たしかにリーグ戦を勝つことと、CLを勝つことは、その方法論も少し違っていますからね。以前、ペップがCLよりプレミアを勝つほうが難しくて価値が高いといった発言をしていましたが、その発言自体がトーナメントに対する苦手意識のある証拠なのかもしれません。小澤さんがおっしゃったように、とくにインテンシティが高いチームには確実に苦戦する傾向があります。

小澤 そういうタイプのチームに激しいプレッシングを受けると、センターバックのミスなどで失点してしまい、ズルズルと相手のペースに飲まれてしまいます。

中山 日頃トレーニングでペップから細かい指示を受けて、それを守ろうという意識が強くなりすぎてしまい、試合中に戦況を見極めて選手が自分で判断する余白みたいなものが少なくなっているのかもしれません。

小澤 バルサでもそうでしたけど、おそらくペップにはダニ・アウベスのようなタイプの選手が合っていると思います。「最終的にプレーするのは選手」みたいな考えを持つ選手がいたほうが、ペップのチームは強くなると思います。言うことを聞かないわけではなく、理解したうえで最終的にピッチ上では自分の判断、責任でプレーできる選手のことです。ペップ・バルサでもアウベスの大胆な攻撃参加やチームとして求められていないクロスは、相手にとって予想できないもので脅威になっていました。監督が求めていることだけを実行してくれる選手では相手の予想の範囲ですから。

中山 いろいろな部分で、ペップは長期政権には向かないタイプの監督ですね。明らかにクロップ監督とはタイプが違う。それだけに、2人の対決が面白いわけですけど。

倉敷 クロップ対ペップ。プレミアのタイトル争いもそうですが、今季のCLもまた両監督に注目が集まりそうですね。