蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.72 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカ…

蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.72

 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎--。この企画では、経験豊富な達人3人が語り合います。今回は、今季序盤のビッグクラブのパフォーマンスについて、3回に渡ってお送りします。まずはスペインの2大クラブからです。



ケガ人が多く、不安定な戦いが続いているレアル・マドリー

--今季の欧州チャンピオンズリーグ(CL)はグループステージ2節を終えたところですが、今回はお三方に優勝候補と目されるレアル・マドリー、バルセロナ、リバプール、マンチェスター・シティ、ユベントス、パリ・サンジェルマンについて、チーム状況などを踏まえて分析していただきたいと思います。まずは、スペインの2大ビッグクラブ、レアル・マドリーとバルセロナからお願いします。

<ジダン監督が強調する「インテンシティ」。
レアル・マドリーは守備を整えて調子を出したい>

倉敷 では、レアル・マドリーから。パリ・サンジェルマン、ガラタサライ、ブルージュと同組で勝ち抜けはそう難しくないと見ていましたが、いきなり初戦のパリ戦をアウェーとはいえ0-3というスコアで落としてしまいました。小澤さんは今季のマドリーをどのように見ていますか?

小澤 まずは、夏の移籍マーケットで最初の問題を抱えてしまいました。ジネディーヌ・ジダン監督がほしかったポール・ポグバ(マンチェスター・ユナイテッド)の補強に失敗したうえ、ガレス・ベイル、ハメス・ロドリゲスといった、余剰戦力と見られていた大物の売却先を見つけられなかった。ある意味、爆弾を抱えたままシーズンの開幕を迎えたのですが、逆に、残留した彼ら2人が意外と活躍してくれているのはうれしい誤算なのではないでしょうか。

中山 開幕前まではベイルの放出は既定路線とされ、ジダン監督もそれを前提とした準備を進めていたはずなのに、結局、序盤は故障者が続出したことで皮肉にもベイルの活躍が目立った恰好になりました。ジダン監督もベイルに期待をするような発言をしたりして、完全な手のひら返しでしたね。

小澤 移籍市場が閉まりシーズンが開幕したら、ジダン監督も「このメンバーで満足している」という優等生的なコメントをしています(笑)。最近はフロレンティーノ・ペレス会長との対立の噂も消えつつあり、その辺はうまくシーズンのスタートを切れたと思います。その一方で、ここまでケガ人が続出しているのが大誤算です。マルコ・アセンシオはプレシーズンでシーズンを棒に振るような左ヒザの大ケガをしたうえ、筋肉系のトラブルを抱える選手が増えています。新戦力のエデン・アザールも含めて、常時4、5人、多い時には7、8人くらいの故障者を抱えた異常なシーズンとなっています。

倉敷 選手層の面ではどんな印象ですか? ジダン監督はほしかった選手を補強できなかったので、プランにも影響しているかもしれませんね。

小澤 各ポジションに2人くらいの駒を抱えているので、バランスは悪くないと思います。ただ、GKが少し不安で、移籍期限ギリギリでケイロル・ナバスをパリに差し出して、代わりにアルフォンス・アレオラをレンタルで獲得しました。これによって、今季はティボー・クルトワが絶対的な正GKに君臨するはずでした。

 ところが、そのクルトワのパフォーマンスがよくなくて、とにかく失点が多い。もちろん、失点はGKだけの責任ではなく守備のオーガナイズや前線からのプレッシングにも問題があるのですが、目立つビッグセーブが少ない分メディアからも批判が出ていて、体調不良や精神的な問題ではないかという話にもなっています。試合中に嘔吐して交代するなど、ちょっと心配な状況です。それと、バックアップがいないといえば、カゼミーロのポジションです。今夏にマルコス・ジョレンテをアトレティコ・マドリーに売却してしまったため、現状ではカゼミーロしかいません。

 中盤では、これまで絶対的な存在だったルカ・モドリッチも故障で出遅れるなど、年齢的なことも含めてやや影が薄くなりつつあります。9月、10月の代表戦でケガをして帰ってくるなど、FIFAウイルスの象徴的存在にもなっています。そういう意味でも、今季は世代交代のところにもメスを入れておく必要があるかもしれません。逆に、序盤はフェデリコ・バルベルデがよい働きをしています。

倉敷 不安定な印象は拭えないままですが、ラ・リーガ(国内リーグ戦)では首位を争えていますし、グループステージでも次第に調子を上げてくると見ていいでしょうね。

小澤 ただ、パリに0-3で負け、2戦目もホームでブルージュと2-2のドローでしたから、余裕はないでしょうね。

中山 マドリーは、パリ戦で内容がよくない負け方をしたことでメディアから「危機」だと言われました。しかし、その後の国内リーグ戦(セビージャ戦、オサスナ戦)で連勝して、アトレティコとのダービーマッチをスコアレスドローで終えたことで、ひとまず批判の声をかき消すことができました。ブルージュ戦は、そのダービーのあとの試合だったというのが不運でしたね。危機を脱出したことによる気の緩みが選手たちに生じたなかで試合に入ってしまったことが、ブルージュ戦の失敗だったと思います。実際、前半に2失点したマドリーは、後半に2点を決めて追いつく展開でしたから。

 パリ戦後の3試合では、選手たちが目の色を変えてプレーしていたのがわかりましたし、アザールも必死に戻ってディフェンスしていました。まだシーズンの序盤でコンディションが上がっていないなか、かなりハイテンションで緊張感のある試合を3戦続けたことで、思いのほかエネルギーが消耗していたのでしょうね。

 とはいえ、以前のジダン監督時代の傾向でいえば、国内リーグ戦よりもCLのほう結果を出すというイメージがありましたけど。

小澤 それが、昨季の終盤からクラブとしても優先順位がCLから国内リーグに移っているので、ブルージュ戦はそれも影響していたのかもしれません。マドリディスタも、そろそろリーグタイトルを獲ってほしいと感じています。ジダン監督も、今季はCLよりラ・リーガにプライオリティを置いているのは間違いないでしょう。

倉敷 それでも高い人件費を稼ぐためには、CLでもそれなりのラウンドまでは勝ち上がらなければならないのがリッチなクラブの宿命です。

 今季は集中を維持できない、高いテンションを持続して戦えないという弱点が目につきます。何か新鮮なモチベーションが必要な気がしますが、ジダン監督は何を与えられるでしょうか?

小澤 おっしゃるとおり、僕がマドリードダービーを現地で取材したときも、ジダン監督が会見で何度も口にしていたのが「インテンシティ」という言葉でした。パリに負けたあと、ジダン監督は守備から試合に入ることを強く選手たちに要求し、セビージャ戦以降はそれが奏功して結果につながりました。ある意味、そこが今季のマドリーの肝になると思います。

中山 あとは故障者が続出しているので、彼らが復帰するまでは現在のメンバーで我慢しながら勝ち点を積み上げるしかないですね。全員が揃ったら、やっぱりマドリーは世界トップクラスの戦力がいるわけですし。

小澤 ケガ人の話をすると、現地では今季から代わった新しいフィジカルコーチの問題を指摘しています。今夏にアントニオ・ピントゥスがアントニオ・コンテ監督に呼ばれてインテルに行ったことで、ジダン監督は前フランス代表フィジコのグレゴリー・デュポンを招聘しました。しかし、夏からこれだけ筋肉系のケガが多いことで、メディアからはトレーニングメソッドの変更、フィジカルコーチ交代の影響によって、多くのケガ人が出ているのではないかと、疑問符をつけている報道が出ています。もっとも、ケガは複合的な要因で起こるものですし、新しいフィジカルコーチはジダンの肝いりで呼び寄せた人物で、ロシアW杯でフランス代表を優勝に導いている人物ですから、優秀であることは間違いないとは思います。

倉敷 故障者の問題が解決した時に再スタートを切れそうな気もしますが、そのためにもしっかりグループリーグを突破しないと。敗退の可能性はあるでしょうか?

小澤 いくら国内リーグを優先するといっても、結局、マドリーはどのタイトルも狙いに行かなければいけないクラブですからね。3節、4節のガラタサライとの2連戦でしっかり勝点を稼げれば心配はないでしょうけど、そこで星を落とすようだとさすがに厳しいでしょうね。

倉敷 中山さんは、マドリーのCLでの戦いをどのように見ていますか?

中山 結局、夏に色々な補強の話題があがったわりには、基本的には近年のメンバーを主軸にして戦うことになりそうですから、キーワードは「フレッシュネス」になるのだと思います。いかにマンネリ感を出さずにシーズンを戦えるのか。そういう意味では、まだトップフォームになっていないアザールの活躍がポイントになるでしょう。

 ただ、彼のプレースタイルは独特なので、周りがそれを理解し、ドリブルのコースを空ける動きをしてサポートしたり、逆にアザールによって生まれるスペースを周りが利用したりすることができるようになれば、攻撃力は格段にアップするはずです。そのコンビネーションの構築に半年かかるのか、それとも1シーズン丸ごとかけても足りないのか。バロメーターとしては、アザールがいつチームにフィットできるかが、CLでどこまで勝ち進めるかを決めるような気がします。

<深刻な「メッシ依存症」のバルセロナ。
グリーズマンが守備で目立つ形になると……>

倉敷 アザールはCLのために獲得した印象もありますものね。では、バルセロナの話に移りましょう。まずは小澤さんからお願いします。

小澤 今季もよくない状態ですね。何より「メッシ依存症」が深刻化しています。リオネル・メッシがいないと別のチームになってしまうことと、フロントが機能していないのが大きな問題です。今夏はスポーツダイレクターを替えてみたものの、ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長の下では補強も含めてほとんど機能していません。

 この夏はネイマール問題に揺れたわけですけど、それもメッシ、ルイス・スアレス、ジェラール・ピケらがフロントに要望したことがきっかけとされています。でも、その代わりにイバン・ラキティッチやウスマン・デンベレなどの名前がトレード要員として広まってしまったことで、結果としてラキティッチが戦力外の扱いを受けてシーズンに入っている点など、フロントの失策としか言いようがありません。夏の補強の目玉だったアントワーヌ・グリーズマンもフィットしているとは言い難いですし、あれだけ大金を使いながら、序盤最も活躍しているのが16歳のアンス・ファティですから冗談にもなりません(笑)。

倉敷 今やフロント以上にメッシの力が大きいという印象ですね。メッシが悪いのではなく、無邪気にこういう選手がほしいと彼が望むことで周りが動いてしまう体制が出来上がってしまいました。そして小澤さんがおっしゃるように、ネイマール獲得を巡って相当な数の選手がトレード要員のリストに載りました。それによって、たとえばラキティッチのコンディションとモチチベーションはかなり落ちました。気の毒です。彼は1月にクラブを離れるという噂も出ています。リストに名前が載った他の選手も監督も大きな影響を受けましたね。

中山 同じ時期、パリでも同じ現象が起こりました。パリにとってもネイマールが残るか残らないかで今季のチーム作りが大きく変わるわけで、あの状況で監督にチーム作りを進めろというのが無理な話です。そもそも、バルサは本気でネイマールの獲得交渉をしていたのかという疑問もあります。あれはメッシに対するポーズであって、実際はそこまで本気ではなかったのかなと勘繰ってしまいます。

小澤 フロントはまったくネイマールを望んでいませんでした。メッシ、スアレス、ピケが要望したので、一応は交渉しましたという事実を作ったというのが真相です。実際、メッシやピケは、開幕したあとのインタビューでフロントに対して本気で交渉をしたのか疑問を呈するコメントも出しましたので、フロントと主力選手の溝も明らかです。そんなフロントなので、OBのカルレス・プジョルはスポーツダイレクターを要請されても拒否しました。

倉敷 バルサは、開幕前に落ち着かない状態が続いていますね。

小澤 それとメディアが指摘しているのは、夏のツアーですね。今夏は日本とアメリカへのツアーを行ない、かなりの移動距離を強いられました。たぶんヨーロッパのビッグクラブでは、いちばん移動距離が長いプレシーズンだったのではないでしょうか。つまり、それによって開幕に向けたよい準備ができなかったと言われています。

倉敷 アジアツアーを組めばコンディションが悪くなることは誰もが分かっていることですが、それでもそこに踏みきらざるを得なかった。スポンサーとの約束なのでしょうね。

小澤 日本ツアーから帰って、すぐにまたアメリカツアーに出かけていましたからね。どちらかのツアーに絞るのが普通なので、現場のエルネスト・バルベルデ監督としては難しいプレシーズンの手綱さばきとなったでしょう。

倉敷 バルベルデ監督はこのチームを救えるでしょうか。国内リーグでは連覇を続けていますが、一方、CLでは連続大失敗というネガティブな結果がファンの印象を悪くしています。今季はCLで結果が必要でしょう。

小澤 現状、個人的には現在のバルサではCLは勝てないと見ています。もっと言えば、マドリーも勝てないだろうと。スペイン勢が勝てなくなっている理由はシンプルで、守備面の問題だと思っています。とくに前線の守備がない。前線での強度がない、インテンシティがない守備をしていると、いくらビッグクラブでも勝てないのが現在のCLだと思います。メッシが戻ってきたバルサを見ても、やっぱりメッシ、スアレスの前線2トップは歩いているので。これだけインテンシティが上がり、その持続性も90分持つようになった欧州フットボールのトレンドの中で、前線の守備がないチームがCLで優勝するのは難しいですよね。

中山 今季のバルサでいえば、最大の注目はメッシとスアレスに新戦力のグリーズマンが加わったことで、新しいトリデンテが形成されたことだと思います。これを小澤さんが指摘する部分に照らすと、3人のなかでグリーズマンだけは守備面でも貢献できるタイプだと思います。でも、2人が守備を疎かにする分、グリーズマンが余計に守備を強いられるのだとすれば、大金をかけて補強した意味もなくなってしまいます。この問題をどのように解決するのか。バルベルデ監督にとっては頭の痛い話だと思います。

倉敷 「グリーズマンの適正なポジション」はスペインのメディアもよく話題にしていますが、どこがもっとも適正だと考えますか?

小澤 どこでもできると思いますが、現状では左ウイング、守備では左サイドハーフでしょう。それより現在は、まだメッシに本当の意味で受け入れられてない印象があります。

倉敷 なるほど。バルサにおいては、そこが大事ですね。

中山 そうそう、昨季の新戦力マウコムがそうでした。最初は自分のゴールよりも明らかにメッシのアシストをするためのプレー選択をしていましたから(笑)。バルサに加入したら、まずはメッシに気に入られることが大事な一歩です。

小澤 今のメッシは、グリーズマンよりアンス・ファティのほうが気に入っています。裏事情でいうと、メッシの兄がアンス・ファティの代理人的役割を務めているので、家族ぐるみの付き合いになっているようです。

倉敷 グリーズマンはなにか作戦をたてないと(笑)。まあ参考にすべきはスアレスが心を通わせるべくメッシに気を使ったプレーを続けながら、実は右脚はメッシよりうまいと思わせたアプローチですかね。

中山 このままでいくと、グリーズマンはゴールゲッターではなく守備に併走する労働者タイプのアタッカーになってしまいそうですね。フランス代表にとっても大きな損失になりそうです。

倉敷 では今季のバルサを見ていて好材料となっている要素を上げて下さい。

小澤 ひとつは、新加入のフレンキー・デ・ヨングがフィットしていることだと思います。

倉敷 アルトゥールとデ・ヨングが、アンドレス・イニエスタとチャビ・エルナンデスになれるかは、ファンが期待している部分です。まだ期待の段階ですけどね。

小澤 あそこまでになるのは大変だと思いますが、彼らはボールを持てるし、ゲームメイクもできるので、チームにとっては大きいと思います。一方で、セルヒオ・ブスケツがこれだけ試合に出ないシーズンは初めてのことで、逆にそれによって2人の台頭が目立っている。そこはポジティブに受け止めていいと思います。

倉敷 デ・ヨングは、アヤックス時代はブスケツのポジションでプレーしていたので、1列前でプレーするときの不安定さより本来の位置でプレーさせて、その前にアルトゥーロ・ビダルを使ったほうが、強度の高い守備を作り出すにはベターです。もっとも、ビダルがシーズンを通して活躍できるかは疑問です。

中山 それでいうと、スアレスやメッシも最近は1シーズンフル稼働というわけにはいかなくなりましたよね。2人とも明らかにケガが増えています。

倉敷 ゆっくりと世代交代の時間は進んでいます。でも、超一流の選手が落ちてくるタイミングとシンクロしてチームも落ちてくるのは自然なことです。メッシが輝くバルサは、やや沈みかけている眩しい夕陽かなと考えるとちょっと感傷的になりますね。

 小澤さんがおっしゃったように、今季もCLではスペイン勢が苦戦しそうな気配です。次回は、逆に勢いを増しているプレミア勢を見ていきたいと思います。