NBAのプレシーズン4試合で平均約22分をプレーし、10.3得点、6.5リバウンド、1.3 アシスト。そんな数字が示す以上に、ワシントン・ウィザーズの八村塁が、ファンや関係者に好印象を残してきたことは間違いないないだろう。「チームとしてす…

 NBAのプレシーズン4試合で平均約22分をプレーし、10.3得点、6.5リバウンド、1.3 アシスト。そんな数字が示す以上に、ワシントン・ウィザーズの八村塁が、ファンや関係者に好印象を残してきたことは間違いないないだろう。

「チームとしてすごくいい状態になってきている。シーズンにいい形で入れるんじゃないかと思っているので、すごく楽しみです」

 現地時間10月18日、フィラデルフィア・76ersとの最後のプレシーズン戦を終えたあと、八村が発した言葉からは確かな自信が感じられた。この日は8得点、3リバウンドを挙げ、イースタン・カンファレンスの優勝候補と目される強豪相手に堅実なプレーを披露した。



プレシーズンの4試合で評価を上げた八村

 そこに至るまでも、八村はさまざまな形でチームに貢献してきた。10月7日のニューヨーク・ニックス戦で12得点と上々のスタートを切ると、得点だけでなくリバウンドでも存在感を発揮。10月9日の広州ロングライオンズ戦では7リバウンド、13日のミルウォーキー・バックス戦でも12リバウンドを記録した。

 とくにオフェンシブ・リバウンドに強さを発揮し、こぼれ球をそのまま押し込んで得点につなげる場面が多く見られた。定評あるポストプレー、中間距離からのプルアップジャンパー(ドリブルで切れ込み、ストップしてからのジャンプシュート)以外の得点パターンを、早い段階で披露できたのは大きい。

 実力をアピールできたことで、10月23日に迫ったダラス・マーベリックスとの開幕戦では、八村が先発出場することもほぼ確定のようだ。バックス戦の前にも、スコット・ブルックスHCが「(八村が開幕スタメンになる)可能性が高い。塁は現時点でスタメンの機会を勝ち取ってきたからね」と明言した。

 当初は「まずはベンチ起用が有力」という見方が多かったが、もともと層の薄いチームから、トロイ・ブラウン・ジュニア、CJ・マイルズ、アイザイア・トーマス、イアン・マヒンミといった、主力選手が次々と故障離脱したこともあって予定変更。同時に八村が安定したプレーを見せたため、その立ち位置も瞬く間に変わった感がある。

 徐々に階段を上っていった八村を、NBAの某スカウトも高評価していた。

「コーチに指導されたことを消化し、システムの中で堅実に動いている。サマーリーグの時と比べると、攻守両面でプレーに安定感がある。持ち前のバネ、フィジカルの強さに加え、『NBAのレベルでも短期間に戦術が理解できる』ことを示せたのは大きい。プレシーズンの4戦で、バスケットボールIQの高さを示したと言えるのではないか」

 筆者は、10月7日の試合を除くプレシーズンの3戦を現場取材したが、このスカウトと似たような感想を抱いた。今ではチームのシステムを理解してスムーズに動いており、サマーリーグ中に随所に見受けられた、コート上で所在なげに佇むシーンはほとんどなくなった。セルティックス戦でアル・ホーフォード、トバイアス・ハリスといった実績あるスター選手とマッチアップした際も、普段どおりに落ち着いて見えたのは心強い。

 個人成績はサマーリーグのほうがよかったが、プレーの質はプレシーズン戦のほうが上だろう。「スター候補」と呼べるほどの派手さはないが、ルーキーながら堅実なプレーができる。層の薄いチーム内で、すぐに長いプレー時間を得ることも可能だろう。周囲の評価も少しずつ上がっており、最近では今季の新人王争いのダークホースに挙げる声も出てきている。

 もちろんすべてが順風満帆だったわけではなく、前記のスカウトは課題が少なからず残っていることもつけ加えていた。

「シュートフォームは改善しているが、ロングシュートはまだフラットになりがち。今季は、シュートがなかなか決まらずに苦しむゲームが多くなるだろう。ディフェンス面では、ウィングスパン(両腕を広げた幅)とジャンプ力を生かしてハイライトを生み出している。それでも、NBAの強靭なPF(パワーフォワード)とマッチアップし、1試合を通じてしっかりガードできるかどうかは、これから証明しなければいけない」

 実際に、10月13日のバックス戦ではFG(フィールドゴール)が4/13とシュートが決まらず、とくにフリースローは1/8と信じがたいほどの低調ぶりだった。ジャンプシュートの軌道がフラットになりがちなことへの懸念は、バックス戦の前から囁(ささや)かれはじめていた。この日はリバウンドで貢献し、シュートタッチの悪さをカバーしたが、レギュラーシーズンでは同じようにいかないゲームもあるかもしれない。

 さらに同試合のディフェンス面でも、NBA13年目のベテラン、アーサン・イリヤソバの”巧さ”に苦しむ場面が散見された。シーズン中はトップレベルのフォワードと連日のようにマッチアップしなければならないため、スキルに翻弄され、パワーで圧倒されることもあるだろう。

 ただ、これらの懸念材料は入団前から指摘されていた部分であり、ウィザーズももちん認識している。八村はアシスタントコーチのデビッド・アトキンスと、連日マンツーマンで練習に取り組んでおり、少しずつ成果が見えてきている。「弱点があるのは、伸びしろが残っていることの証明」と考えられるため、今シーズンにどれだけ改善できるかが楽しみだ。

 ともあれ、ドラフトからサマーリーグ、トレーニングキャンプ、プレシーズン戦と歩んできた八村が、ここまでは周囲の期待どおり、いや、期待以上のプレーをしていることは間違いない。もちろんレギュラーシーズン開幕後が本当の勝負だが、滑り出しは順調だ。

 今後も得点、リバウンド、バスケットボールIQといった長所をいかし、再建状態のチーム内で即戦力となれるのか。ジャンプシュートなど課題を克服し、さらなるポテンシャルを示せるか。日本バスケットボール史上に残る挑戦が、間もなく始まる。