ここ6年、U-12代表監督として育成に携わる仁志氏 巨人、横浜の内野手として活躍し、現在は侍ジャパンU-12の監督を…

ここ6年、U-12代表監督として育成に携わる仁志氏
巨人、横浜の内野手として活躍し、現在は侍ジャパンU-12の監督を務める仁志敏久氏。2014年から日本トップクラスの小学生たちを率いて海外の大会に出場し、好成績を収めてきた。今後の野球界を背負っていく数多くの原石たちを間近で見てきた仁志氏に、選手の育成法について聞いてみた。
――過去6年間、U-12世代を率いてきて、選手たちのレベルや質をどう見ていますか。
仁志 自分のチームでしっかり練習をしているので、選手たちの完成度は高いと思います。ただ、全体的に背は大きいんですけど、海外の選手に比べて骨格がちょっと細いなという印象はありますね。
――この6年間のなかで選手の変化を感じることはありましたか。
仁志 2014年のころに比べると、「侍ジャパン」として戦うことにステイタスを感じる子がたくさん出てきました。ときどき、自分の所属チームと侍ジャパンのスケジュールが重なるケースがあるんですが、子どもたちはジャパンのユニホームを着たいので葛藤があるようです。その様子を聞いていると、子どもたちも代表チームのユニホームを着たいんだなというのがよくわかりますね。
――仁志さん自身、指導法や選手へのアプローチの仕方に変化はありましたか。
仁志 基本的には変えていません。ただ僕がその年に学んだことを取り入れて次の年に挑んでいるので、その意味では少しずつ変わってきているのは事実です。子どもたちの資質はそんなに大きくは変わらないんですが、どんどん現代風に変わってきている印象があります。今いちばん気をつけているのは、注意事項を全部最初に言うこと。「こんなの言わなくてもわかるでしょ」というのが通用しないんですよ。それをしないと、子どもたちが「だって言ってなかったじゃないですか」と感じているのがわかります。大人がだまっていても、期待していた通りの行動をする子は少ないですね。
――技術的な面で、小学生年代で身につけておくべきことはありますか?
仁志 とても一般的なことだけでいいと思います。ボールの握り方とか、体を大きく使って投げるとか打つとか、本当に原点的なところです。打つ時の構え方やバットを振る角度など、細かい技術を教えすぎてしまうと、伸びしろがなくなってしまいます。これが日本の子どもたちの懸念材料ですね。それがさっき言った「完成度が高い」という部分です。型にあてはめてしまうのは、絶対にやってはいけないと思います。
――小学生年代は、まだまだお父さん監督やコーチがいます。彼らはどんな意識をもって取り組んでいくべきでしょうか。
仁志 できることを確実にできるようになっていく過程を見守ることが大切ですね。できないことを無理にやらせても期待するような効果はなく、むしろケガの原因になります。ボールを投げて相手に届かなかったら、ワンバウンドでいいと思います。それを届かないのに、ぐちゃぐちゃなフォームで思いっきり投げて暴投するのは、まったく意味がないですね。
――最近では、ケガのリスクへの関心も高まっていて、投手の投げすぎが大きな話題になっています。全日本学童軟式野球大会「マクドナルド・トーナメント」では球数制限70球が実施されました。この導入についてはいかがですか?
仁志 すでに国際試合ではかなり細かい規定がありますし、日本でもあるべきだと思います。まずは70球でいいと思いますが、気をつけてほしいのは、「マックス70球までいいなら、そこまで投げさせてしまえ」と思ってしまうことです。それは少し安易すぎます。その前に体力的に消耗が激しかったら、球数に関係なく代えないといけない。目安は球数ではなく、その子の表情とかしぐさとか投げているボールを見て、代えてあげるのが一番いいと思いますね。
――練習時間についても全日本軟式野球連盟は「1週間に6日以内、1日3時間以内」というガイドラインを出しています。この判断はいかがでしょうか。
仁志 方向性はいいと思います。ただ、もう少し細かいガイドラインがあってもいいかもしれません。指導者って練習内容に困っていることが多いんです。わからないから、とりあえずノックや、バッティング練習をやります。試合形式のノックをやるところもあって、7イニングとかやってしまうと、子どもたちはほぼ突っ立っているだけで練習が終わってしまう。人数が多いと満足な練習ができなくなってしまうので、そういうところもレクチャーしてあげたほうがいいかもしれないですね。
――大谷翔平など、これまでの日本の常識を超えた選手たちが出てきています。高いポテンシャルを持った選手がいた場合、指導者はどのように育てていくべきでしょうか?
仁志 選手の意志次第ですね。高いポテンシャルがあってしっかりとした目標を持っている選手がいた場合、大人が手を加える必要はまったくないと思います。ただ単に見守っていればいい。「ああすごいな」と思っていればいい。そういう選手には、考えるきっかけを与えてあげればいい。技術的な意見や押しつけるような指導が、本人にとって的確な答えになることはほぼないです。大人ができることは、何となく感覚を伝えてあげることで、それができなければ、ただ見ているだけ。指導のなかで一番難しいのは見守ることなんですよ。
ただ子どもなので、野球以外のところでは厳しくしたほうがいいと思います。それは野球とはまったく別のことなので、グラウンド外でもちゃんとできるようなしつけはするべきだと思います。
それから侍ジャパンU-12の子どもたちにも必ず言うことがあります。それは上手な子は称賛されることが多いのですが、「褒められた言葉をそのまま受け取るな。称賛は半分だけいただいておきなさい」と言っています。そういう特別な才能を持っている子には、ただ褒めるだけでなく、「ほかの子たちよりももっと高い目標を持たないとだめだぞ」と伝えています。
――大谷翔平のような選手は今後も出てくるのでしょうか?
仁志 佐々木朗希選手(大船渡)もそうですが、また違った形で進化した選手が出てくると思います。ただ近年は、スター選手はピッチャーが多いですよね。バッターは少ないんです。少年時代、特に中学校時代に教えすぎたり、練習をしすぎたりしてほぼ完成形に近づいてしまうのが原因かもしれません。そこから高校やプロであまり伸びないんだと思います。バッターのスター選手も育てていくには、指導する側も考えないといけないと思いますね。
プロフィール
にし・としひさ 1971年10月4日生まれ、茨城県出身。常総学院高では夏の甲子園に3年連続で出場。卒業後は早稲田大、日本生命へと進み、96年に巨人に入団。強打の内野手として活躍し、1年目で新人王を獲得。その後ゴールデングラブ賞4回、日本シリーズ最優秀選手など数々のタイトルに輝いた。2007年に横浜ベイスターズに移籍したのち、10年にアメリカ独立リーグへ移籍するも、同年ケガにより引退した。14年より侍ジャパンU-12監督を務める