今季はチャレンジャーシリーズに出場せず、ジャパンオープンがシーズン初戦となったネイサン・チェン。2018年、19年の世界選手権王者はそこで、新たな魅力あふれる演技を見せてくれた。ジャパンオープンでフリー『ロケットマン』を初披露したネイ…

 今季はチャレンジャーシリーズに出場せず、ジャパンオープンがシーズン初戦となったネイサン・チェン。2018年、19年の世界選手権王者はそこで、新たな魅力あふれる演技を見せてくれた。



ジャパンオープンでフリー『ロケットマン』を初披露したネイサン・チェン

 新フリー『ロケットマン』(振り付けはマリー=フランス・デュブレイユ)は、世界的なシンガー&ソングライター、エルトン・ジョンの半生を描いた映画の中で使われている曲をメドレーにした見応え十分なプログラムだった。フリーのみで競い合ったジャパンオープンでは189.83点でトップに。2位となった2018年平昌五輪銀メダルの宇野昌磨に20点以上の差をつけての圧勝だった。

「まだまだ修正していかなければいけないところがたくさんあるというのが、(今季初戦を滑った)感想です。シーズン最初の試合だったので、ミスがあったとはいえ、満足しています」

 ジャパンオープンで初お披露目となったフリーでは、まだ完璧な演技を見せることができなかったが、そのジャンプ構成や表現力などの内容は、さらなる成長を予感させるものだった。まず目を引いたのは、ジャンプが軽やかだったことだ。4回転フリップも4回転トーループも4回転サルコウも、すでに大技の域ではなく、3回転と同じくらい普通の、ベースとなるジャンプの感覚で跳んでいた。他のトップ選手と比べても、その成長度合いは並外れたものと言っても過言ではない。

 4回転はプログラム前半に2本、そして後半に2本と、3種類計4本をしっかりと成功させている。そのうちの2本の4回転フリップと4回転トーループではGOE(出来栄え点)で3点以上がつく完成度の高さだ。また、これまでは苦手だったトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も、ほとんど克服したと言えるレベルまで上達している。

「スケートアメリカまで2週間あるので、それまでにプログラムをしっかりとクリーンアップして、整理して精査していきたいと思います。前半は満足していますが、トリプルアクセルのあとのプログラムは修正していかないといけないので、しっかり修正してスケートアメリカに臨みたい」

 今季初戦では4回転からの3連続ジャンプで3つ目の3回転フリップが1回転になり、最後に予定していたトリプルアクセルでは力が入ったのか、パンクするミスを出した。それでも技術点では98.67点の高得点をマークしてみせた。

 演技構成点のほうもまだ伸びしろがあることは疑いようもない。今季は2022年北京五輪に向けて、やや挑戦的なプログラムを作って演技の幅の広げようとしていることが見てとれる。終盤の見せ場のコレオシークエンスでは、これまでにないヒップホップ調の動きで躍動する。様になるようにするには、陸上でも習得に時間を要するヒップホップの軽やかなステップを、スケート靴でやりこなす、その身体能力はすばらしいのひと言に尽きる。

 試合後の会見で、ユニークなコレオシークエンスをどう作ってきたのかを問われた世界王者はこう答えた。

「振付師のマリー=フランスと一緒に作りあげたもので、そもそも彼女がどこからこのコンセプトを持ってきたのか、わからなかったです。とにかく、彼女が私に合う、ぴったりだと思って選んでくれたと思うので、最後のスケーティングのところは面白いやり方だなと思いましたが、最初は『どうなんだろう』と思いました。チームの中に『シルク・ド・ソレイユ』をやっているヒップホップのダンサーがいるんですが、その方の力も借りて、まずは陸上でいろいろやってみた。その後、氷上でやってみたらやれたので、よかったと思っています」

 シーズンごとに違ったテイストのプログラムを作って、表現者としても群を抜く20歳の真骨頂だろう。今季これから滑り込んでいく完成形が楽しみでならない。