9月にダンロップの新作ラケット発表会のためにパトリック・ムラトグルーが来日。インタビューで自身がコーチを務めるセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)について語った。

セレナは出産を経てカムバックし、そこからグランドスラムの決勝に4度も勝ち進んでいるがいずれも準優勝となっている。そのことについてムラトグルーは「セレナはちょうど38歳になったところ。赤ちゃんは2年前に生まれました。彼女は23個のグランドスラムタイトルを持っていて、すでに最高のキャリアと最高の結果を出した史上最高の選手です。だからテニスにカムバックする必要はありませんでした」と語る。

それでも「彼女は本当にテニスが好きで、まだグランドスラムで優勝できると感じています。だからカムバックを決断しました。また、オープン化される前の記録がグランドスラム24勝で、その記録を破りたいと思っています。そうした全ての理由からカムバックを決意したんです」と、セレナのカムバック理由を語った。

しかし、セレナの復帰は困難を伴っていたようだ。

「女性にとって子どもを得た後でカムバックを果たすのは信じられないくらい難しいこと。その上、36歳という年齢を考えると、さらに難しいことです。26歳の人が同じことをやった場合よりもさらに難しくなります。女性の身体は赤ちゃんを生むことで母親の身体になります。その母親の身体というのは、トップアスリートの身体とは異なります」と語るムラトグルー。

続けて「彼女は再び戦えるようになるため、自分の身体を作り直しました。そしてそのために信じられないようなフィジカルな努力を重ねました。彼女が出産後に最初に到達したグランドスラムの決勝では、ベストなレベルからはほど遠かったと思います。でも彼女はものすごく素晴らしい選手なので、なんとかそこまで到達はできました。そしてそこから時間が経つにつれ、ますます準備が整ってきたと思います。今の状態は過去2年に比べてずっと良い状態になっていると思います」と、セレナの努力と進化について述べた。

セレナが優勝するにはあと何が必要か、と問われると「優勝回数の記録を破る目標を持って彼女がカムバックして以来、彼女にかかるプレッシャーははるかに高くなっています。なぜなら、グランドスラムの決勝まで到達すると、彼女にとっては歴史に名を刻むためにあと1試合を戦うことになります。これはスポーツで、そしてたぶん人生の中でも経験できる最大のプレッシャーです。彼女は長い間世界1位だったので、プレッシャーはありましたが、誰もが彼女が常に優勝することを期待しており、そうなるとプレッシャーはさらに高くなります」と、プレッシャーに打ち勝つ必要がある、ということを語った。

「実際に世界1位になると、これは最近大坂なおみ(日本/日清食品)も経験したことだけれど、世界1位に対しては全ての試合に勝つことを誰もが期待しています。そしてこのプレッシャーというのは、経験したことがない人には理解することが難しいものです」

「なおみも経験したけど、彼女の前にもアンジェリック・ケルバー(ドイツ)やペトラ・クビトバ(チェコ)、そして他にも多くの選手が経験したことであり、誰もがその瞬間にトラブルに陥りました。なぜならあまりにも難しいことだからです。セレナはこのプレッシャーに対処できるだろうけれど、今の段階のプレッシャーはそれよりもすごいもので、より困難になっています。そして毎回決勝戦を戦う相手は、何も失うものが無い選手たち。つまりゼロプレッシャーなんです」と続けた。

そして「これほど高いプレッシャーを抱えている選手が、何もプレッシャーが無い選手と対戦することになります。その差が今はあまりにも大きくなっています。でも彼女は学んでいくでしょう。これは新しい事態で、負けたときも学ぶものがありますから。彼女はこれまで何度か決勝で負けていますが、負ければ負けるほど、この新しい局面にどう対処すれば良いのかを学んでいくでしょう」と語った。

この「負けたことから学ぶ」というのは、「楽天ジャパンオープン」のときにノバク・ジョコビッチ(セルビア)もインタビューで同じようなことを話している。

「敗戦からの方が勝利より学ぶものが多いということです。テニスの試合で負けると悪い部分が表に出てしまいます。それを失敗と呼ぶこともできるけど、僕は失敗というよりレッスンだと思っています」

世界1位というプレッシャーは、その位置に立ったものにしか分からないというムラトグルー。結婚、出産を経てカムバックしたセレナには「グランドスラム24勝の記録を破れるか」というより大きなプレッシャーがかかっている。記録を打ち立てる日がいつ訪れるのか、それまで敗戦から多くのことを学び、どのような進化を遂げていくのか、これからも目が離せない。

(テニスデイリー編集部)

※写真は「全仏オープン」のときのセレナ(左)とムラトグルー(右)

(Photo by Tim Clayton/Corbis via Getty Images)