さまざまな競技で熱戦が展開されたリオデジャネイロ五輪。鍛え抜かれた選手の躍動する筋肉は男女を問わず美しいが、競技によってはいくつかの理由から体毛をきれいに剃ることもある。とりわけ競泳や自転車競技は男子選手でも脇毛やすね毛がサッパリとなくなっ…

さまざまな競技で熱戦が展開されたリオデジャネイロ五輪。鍛え抜かれた選手の躍動する筋肉は男女を問わず美しいが、競技によってはいくつかの理由から体毛をきれいに剃ることもある。とりわけ競泳や自転車競技は男子選手でも脇毛やすね毛がサッパリとなくなっている。

無駄な脂肪がほとんどない自転車選手の脚は女性モデルなみの脚線美を持つが、すね毛をきれいに剃っているからでもある。体操の男子選手が脇毛を剃るように(ちなみに内村航平選手は例外みたいだ)これも身だしなみの一種で、きれいに見えるからすね毛を剃るものなんだろうか? 

あるいは空気抵抗が重要な種目だけにエアロ効果が発揮できるからだろうか?

そんな疑問を自転車ナショナルチームのチーフトレーナーに聞いてみたことがある。

「そうですね。自転車競技のそんな習慣はちょっと特殊ですが、フィジカル面においてもきちんとした理由があるんですよ」と説明してくれた。

すね毛を剃る理由のひとつは、マッサージを受けた際に毛穴から雑菌が入って細菌感染症になるのを予防するためだ。スポーツマッサージは『あんま』とは考え方が異なり、身体の末梢から心臓に向かってさするのが原則となる。身体を巡ってきた血液を心臓に戻してやる手伝いを手の動きがする。このとき、毛並みとは逆向きにさすることになるので、毛穴に雑菌が入りやすくなる。だから毛を剃って穴をなくしてしまえば感染症を予防できる。
すね毛を剃るときに使用する用具は「T字カミソリ」が多い。剃るときは順毛でも逆ゾリでもいいが、皮膚の弱い人はカミソリ負けしたり、化膿してしまうこともある。

「そんな場合は消毒液で皮膚をふいておけば安心。クロロマイシンなどの軟膏を使っている選手もいます」

次に二次的感染を防ぐためという理由。落車などによる擦過傷を処置するときは、すね毛がないほうが洗いやすいし、消毒しやすいからだ。特に深い傷で縫う必要があるときは、手術時に患部周辺の毛を剃るのと同じ理由で、毛があると邪魔になる。すね毛を剃る理由はまだまだある。

「毛深いとマッサージ用オイルが大量に必要となってくる。マッサージしづらいということはないが、皮膚に手のひらが密着したほうが刺激を与えやすい。受けている人も、毛が引っ張られて気持よくないんじゃないかな」

すね毛剃りはメンタルトレーニング面での意味あいもあるのだから奥が深い。

「選手ってレース前の習慣が儀式のようになっていて、すね毛を剃るという行為をすることで徐々に緊張を高めていくんです」

とは言うが、実際にはレース当日にはすね毛を剃らず、前日やその前に済ませておくケースが多いという。人によっては皮膚が張って、表面が突っ張るような違和感が生じるからだという。

ところでこれはオイルを使ってさするのが基本となる自転車界の話。他のスポーツでは「揉んだりたたいたり」の手法を使う日本的なパウダーマッサージが用いられるので、柔道選手がすね毛を剃る必要はないのである。

そして大勢の意見はやはり、見た目がきれいだから。日本のスポーツ選手はあまり体毛を剃る習慣がないが、ヨーロッパでは水泳選手のみならずさまざまな競技も全身あるいは一部の体毛をきれいに処理して競技に登場する。

そして日本の若い一般男性もすね毛をきれいに処理している人が増えつつあるという。カミソリは使わず、脱毛クリームを使ったりエステサロンで処理してもらったりするという。「すね毛が濃いとみっともない」という理由のようだが、旅館の大浴場の隅でコソコソ剃っていたサイクリストにとってはついに明るい未来がやってきたかも。

ツール・ド・フランスで表彰台に上がったペーター・サガン(中央/2016年7月24日)(c) Getty Images

ツール・ド・フランスで表彰台に上がったペーター・サガン(中央/2016年7月24日)(c) Getty Images

【山口和幸の茶輪記】五輪メダリストも若い男子も体毛を剃る時代に

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