日本代表が国内キャンプを行なう際、大学生や高校生のチームと練習試合をすることがある。

 実力的に言えば、日本代表が上位であることは言うまでもない。勝負という点では、完全にミスマッチだ。しかし、肉体的負荷が高くなり過ぎない程度に、実戦形式の練習を行なえるという点では、有効な機会となる。

 本番よりも力の落ちる相手との対戦のなかで、基本的な決まり事を確認したり、選手同士の連係を高めたり。ボクシングにたとえれば、スパーリングと言ったところだろう。

 当然、スパーリングパートナーを務める相手チームにも、それなりの”立ち居振る舞い”が求められる。

 日本代表にひと泡吹かせてやろうと、ベタ引きで守備を固め、ロングカウンターを狙うような戦い方をされたのでは意味がない。あくまでも練習試合の主役は、日本代表である。時には日本代表の側から、次に対戦する相手の特徴に沿った戦い方がリクエストされることもあったと聞く。

 さて、少々前置きが長くなったが、ワールドカップアジア2次予選のモンゴル戦である。

 日本にとってワールドカップ予選は、結果はもちろんのこと、そこを勝ち上がるなかで強化を進めることが求められる。

 だが、モンゴルのFIFAランクは、日本の31位をはるかに下回る183位。残念ながら、世界最弱レベルに属す国である。日本がさしたる工夫もせずに攻めても、シュートを打ちさえすればゴールに入る。あるいは、モンゴルがそうはさせじと、ただひたすらゴール前だけを人海戦術で固めてくれば、日本が攻めあぐねる。どう転ぶにしろ、そうはお目にかかれない極端な試合になっても不思議はなかった。

 4年前の同じ2次予選のホーム初戦では、日本はシンガポールと対戦し、0-0の引き分けに終わっている。有り体に言えば、日本の取りこぼしである。

 ただし、当時のシンガポールは、日本の攻撃を警戒し、中盤から後ろに人数をかけて守るものの、ボールホルダー、とくにボランチに対しては厳しく体を寄せ、自由を奪った。しかも、奪ったボールをある程度キープすることもできたため、前線のFWまでつなぐことができた。劣勢のなか、どうにか引き分けに持ち込めた要因である。

 とはいえ、日本より明らかに格下と見なされていたシンガポールでさえ、モンゴルよりは数段実力が上。言い方は悪いが、日本にとってモンゴル戦は、強化において意味のあるものになるとは思えなかった。

 ところが、キックオフの笛が鳴ってみると、試合は案外、”普通”だった。言い換えれば、モンゴルが案外、”普通に戦っていた”ということだ。

 モンゴル代表を率いるミヒャエル・ワイス監督が「コンパクトな守備をしようとした」と語ったように、モンゴルはいたずらに下がって守るのではなく、まずは守備ブロックを高く保つことで日本の攻撃を待ち受けた。

 もちろん、結果的に自陣ゴール前まで押し込まれる時間が長くはなったが、決して中盤を放棄して、端からそこで待っていたわけではない。実際、中盤でMF中島翔哉がボールを持ち過ぎれば、囲い込んでボールを奪い取るシーンもあった。

 結果的に、モンゴルのシュートはゼロ。それどころか、敵陣ペナルティーエリアまでボールを運ぶこともできなかった。だが、ボールを奪って敵陣まで入ることくらいは何度かできていた。彼らが自陣ゴール前にこもっていたら、おそらくこんな場面は作れなかっただろう。

 実力差は火を見るよりも明らかで、事実、日本が6-0で勝利した。

 しかし、それでもモンゴルの選手たちは、彼らにとってはちょっとしたスター軍団だったはずの日本に対し、果敢に挑み続けた。1点を失っても簡単にはやる気を失わず、最後まで粘り強く戦った。そのおかげで、試合は90分間を通して壊れることがなかった。



格上の日本相手に最後まで粘り強く戦ったモンゴル

 そんな試合を見ていて頭に浮かんだのが、冒頭に記した練習試合である。

「(ベタ引きされるより)普通にやってくれるほうが、自分たちはやりやすい」

 ボランチのMF遠藤航がそう語ったように、日本にとっては格下相手ゆえのやりにくさをそれほど感じずに戦えたはずである。低い位置からボールをつなぎ、ピッチの幅を広く使って、サイドから丹念にモンゴルディフェンスを崩していく。日本の攻撃からは、そんな狙いが見て取れた。遠藤が続ける。

「大事なのは(相手に関係なく)自分たちが持っているものを100%出すこと。攻撃の形はしっかり作るとか、丁寧にやるところをやっていかないと。今まで日本代表は、チャンスを作っても(ゴールを)取り切れないことが課題としてあったが、今日は決め切れた」

 また、遠藤とダブルボランチを組んだMF柴崎岳は、「細かい部分で(ボランチの)ふたりの関係をオートマティックにするために、ふたりで話しながらやっていた」と言っていたが、そうしたところを詰めていくには、うってつけの機会だったかもしれない。

 実力差を考えれば、日本が勝って当然。取り立てて褒め称えるような試合ではない。だが、思いのほか、この試合にダレた印象がなかったのも事実だ。

 ワイス監督も「ゲンクやマルセイユでスタメンの選手がいるのだから、当然」としたうえで、「(日本の)右サイドから得点されていた。スピードについていけなかった」と語っていたが、日本が主に右サイドから6つの得点を奪えたのは、単に個々の能力の差があったからというだけではないだろう。森保一監督が語る。

「モンゴルが我々の戦い方を分析し、堅い守備をしてきたが、選手が流れや状況を考えて攻撃してくれた」

 右サイドで縦に並ぶMF伊東純也、DF酒井宏樹に加え、中央のMF南野拓実や遠藤が効果的に絡むことで、再三DFラインの裏を取った。「賢く戦う」とは森保監督の口癖だが、日本はモンゴル戦を、いわば”絶好の練習試合”にし、連係を深めようとしていた。

 ワールドカップ出場を当然のノルマとし、ワールドカップでのベスト8進出を目標に掲げる日本にとって、率直に言って、アジア予選、とくに2次予選が強化の足かせになっている側面があることは否めない。それこそが、アジアに属しながら世界を目指すことの難しさと言ってもいい。

 実力差が大きい試合は、結果が苦戦であろうと、大勝であろうと、どうしても大味な内容になり、締まらない展開になりがちだ。

 ところが、この試合はそうはならなかった。その点で言えば、なりふり構わず戦うのではなく、あくまでも”常識”に沿って正々堂々と挑んできたモンゴルに、日本は感謝すべきなのかもしれない。

 月に一度しか集まることができない日本代表にとっては、世界183位との対戦も、意外と貴重な強化の場だったのではないかと思う。