10月14日の出雲駅伝を皮切りに、いよいよ駅伝シーズンが幕を開ける。今シーズンも、前回の箱根駅伝を制覇した東海大学と、青山学院大学、東洋大学の「3強」が上位を争う構図となりそうだ。 昨シーズン、大学三大駅伝で無冠(出雲2位、全日本3位、箱…

 10月14日の出雲駅伝を皮切りに、いよいよ駅伝シーズンが幕を開ける。今シーズンも、前回の箱根駅伝を制覇した東海大学と、青山学院大学、東洋大学の「3強」が上位を争う構図となりそうだ。

 昨シーズン、大学三大駅伝で無冠(出雲2位、全日本3位、箱根3位)に終わった東洋大学のキーマンは、主将の相澤晃(4年)だ。

 前回の箱根駅伝4区で区間新記録(1時間0分54秒)をマークした、”学生長距離界のエース”。トラック競技でも東京五輪出場を狙うなど注目度が高まっている相澤に、昨シーズンを振り返ってもらいながら、来年の東京五輪、目の前に迫る駅伝シーズンに向けての意気込みを聞いた。




前回の箱根駅伝4区で区間新記録をマークした、東洋大4年の相澤

--あらためて、昨シーズンを振り返っていただけますか?

「昨年は、まずはトラック(1万m)でしっかり結果を残すことを目標に臨んだシーズンでした。昨年4月の兵庫リレーカーニバルで、自己ベスト(28分17秒81)を更新することができたことが、一番の収穫だったと思います。駅伝に関しては、出雲では区間賞を逃しましたが、全日本で区間賞、箱根で区間新記録をマークすることができたので、個人的にはいいシーズンでしたね」
--全日本駅伝で左腓骨(ひこつ)筋を負傷し、箱根駅伝の直前まで痛みに悩まされていたそうですが、これ以上ない結果が出ましたね。

「ケガをしてから、ずっと適切なケアができていたことが大きな要因です。朝5時半から練習が始まるのですが、少し早めに起床してお風呂に入り、ケガをした部位を温めたり。そういう細かいケアや準備を繰り返してきたので、箱根での区間新記録につながったんだと思います。
 箱根に向けて追い込みをかけた12月の合宿でも、『朝練が終わった後に、しっかり全員でストレッチをやろう』と、チーム全体で準備の大切さについて話し合いながら取り組んでいました。トレーナーさんも常駐しているので、一人ひとり自分の状態を確認しながら本番に向けて過ごすことができた。おかげで、僕のケガの痛みは12月24日に完全になくなったんです。最高のクリスマスプレゼントだと思いましたよ(笑)」
--すばらしいタイミングでしたね(笑)。今年は、ここまでトラック競技でさまざまな大会に出場してきましたが、状態はいかがですか?

「4月に行なわれた、金栗記念選抜中長距離大会5000mでの走りには手応えを感じました。大学記録は塗り替えられませんでしたが、13分34秒94の自己ベストを出せて、思い描いていた通りにゴールできましたからね。それ以外のレースでは最低限の走りしかできなかったので、もっと調子を上げていかないといけません」

--課題はどこにあると自己分析していますか?

「『位置どり』と『持久力』です。僕のロードでのペースは1km2分50秒~3分ペースで、トラックだともう少しペースを上げて2分45秒~50秒で走らないといけないんですが、そのペースで1万mを走るのはなかなかキツくて……。5月のGGN(ゴールデンゲームズinのべおか)でも、ペースメーカーの外国人選手の後ろにつけていたのですが、ちょっとしたペースの変化に対応できず5000mあたりから離されてしまいました(結果は8位)。
 逆に6月に行なわれた日本選手権5000mの決勝では、スタートから後ろにつきすぎてしまって結果(学生トップの5位)もよくなかった。その2大会の経験を踏まえて大事だと感じたのは、持ち味である”最初から自分のペースで攻めていく走り”は残しつつ、冷静に自分のペースに合う選手を見極めてついていくこと。とくに五輪のような大きな大会ではペースメーカーがいませんから、経験を生かして成長していきたいです」
--相澤選手は東京五輪に1万mで出場を目指していますが、来年に向けての思いを聞かせてください。

「東京五輪はすごく特別な舞台です。1964年の東京五輪では、僕と同じ福島県・須賀川市出身の円谷幸吉さんがマラソンで銅メダルを獲得されているので、個人的に”縁”を感じています。僕もマラソンでの出場を狙いたかったんですが、大迫傑選手や設楽悠太選手、佐藤悠基選手たちもトラックでしっかりと結果を残してからマラソンで活躍されている。だから、まずは1万mで結果を出し、マラソンへとつなげていきたいと思っています」
--続いてロード、駅伝についての話を伺っていきたいと思います。夏からチームに合流し、合宿を通じて練習を重ねてきたなかで、主将としてチーム現状をどう見ていますか?
「春先よりはチームとしてだいぶまとまってきましたね。最初の頃は僕がトラックの大会が多くてチームにいられなかったのですが、その間は同じ4年生で副主将の今西駿介がサポートしてくれたり、下級生も先頭に出て引っ張ったりしてくれたので、チームの雰囲気もいいと思います。

 正直、今年の箱根で一緒に走った、当時4年生の山本修二さんや小笹椋さんが抜けた穴は大きい。でも、1年生はすごく元気がありますし、5月の関東インカレ・ハーフマラソンで活躍した2年生の宮下隼人と蝦夷森(えぞもり)章太も、昨年ケガで走れなかった悔しさを胸に奮闘しています。3年生も西山和弥、吉川洋次とチームの主力がいるので、先輩たちが抜けた穴は埋められると思います」

--大学駅伝三冠に向けて、順調に仕上がってきていると。

「『完全に仕上がっている』とは言い切れません。あくまで僕個人の見解ですが、まだ三冠が狙えると言えるほどチームとして仕上がっているとは思っていないからです。だから、新チームになってからも『三冠を取ろう』という目標は、あえて掲げていないんです。僕らのチームは、東海大のように強い選手が何人も揃っているわけではないので、”チーム力”で勝たないといけない。

 それはすぐに高められるものではないですから、時間を使い、夏合宿を経て、徐々に磨き上げていく。そうやって駅伝シーズンに入り、『三冠を目指せるチームになったな』と感じたら、あらためてそれを目標として口に出してもいいと思っています」

--強力なライバルである、東海大学についての印象は?

「東海大は、プロ野球で例えると巨人みたいなチームですね(笑)。4番打者が集まっていて、個のレベルがズバ抜けている印象です。”黄金世代”と言われているのも納得です。だからといって、『強い選手が集まっているから勝てない』と思ってはいけない。酒井(俊幸)監督からも『黄金世代がいる中で”長距離界のエース”にならないとダメだ』とずっと言われていますし、実際に昨年からはロードであまり負けていませんから、自信を持って戦うことができると思います」

-- 一方、青山学院大学についてはいかがですか?

「青山学院大に関しては、選手の主体性を大切にしているチームだなと感じています。すごく強かった選手が卒業して、少し戦力はダウンしていると言われていますが、各大会に向けてきっちり仕上げてくるんじゃないかと思っています。この前の合宿の時には、主将の鈴木塁人選手(4年)と話をしましたよ(笑)」
--他大学の選手とも連絡は取り合うんですね。

「もちろん互いの戦略などは明かしませんが、やりとりはします。とくに鈴木塁人選手からは、大会前になると必ずLINEで『何区を走るの?』って連絡がくるんです(笑)。箱根の前にも『足痛いらしいじゃん。でも逆に調子いいらしいね』と聞かれて、その時は本当に痛かったので『痛い』って返しました(笑)」
--ライバル間でもそんなやりとりがあるんですね(笑)。では最後に、あらためて今シーズンの駅伝に向けた意気込みをお願いします。

「まだ三冠は目標じゃないと言いましたが、やはりどの大会でも優勝したい気持ちは強いです。ただ、そのためには僕が区間賞を取ることが必須だと思っています。 それに僕は、周囲の方が言ってくれるような”学生長距離界のエース”として覚悟を持って走っていますし、そのポジションは譲れないので、中途半端なレースは絶対にできない。出雲、全日本、箱根全てで区間記録を狙い、全ての大会でトップを目指したいです」