攻撃には本来3つのルートがある。左、真ん中、右。サイド攻撃はなぜ重要なのかを語る時、持ち出されることが多い理由である。サイドは真ん中と違い意図的に突くものであり、それを軽視すれば、3つのルートはわずか1つになってしまう。

 3つのルートが確保されているか否か。攻撃的サッカーは否かを語るうえで大きなポイントになる。たとえば、かつて「なぜバルセロナからルイス・フィーゴを獲得したのか?」と、当時のレアル・マドリード監督、ビセンテ・デルボスケに訊ねると、こう述べたものだ。

「これで、3本ある攻撃のルートの中でうちが弱かった、右からの攻撃が充実する。サッカーはより攻撃的になる」と。



モンゴル戦で3アシストを記録した伊東純也

 2000-01シーズン。フィーゴを引き抜かれたバルサは、逆に右からの攻撃が弱体化。攻撃的サッカーを看板にしていたその色が褪せることになった。バルサからレアル・マドリードへ。これは禁断の移籍と言われる。宿命のライバルである両チームを渡り歩くことは御法度とされるなかで、フィーゴは電撃的に移籍した。その年のバロンドールを獲得した選手が、だ。

 バルセロナ市内でフィーゴが経営していた日本料理レストランは放火にあった。レアル・マドリードの右ウイングとしてプレーしたそのシーズンのカンプノウでのクラシコでは、ライン際でプレーするフィーゴめがけて、豚の頭が投げ入れられている。その現場にいたので鮮明に覚えているが、フィーゴの移籍はそれほど物議を醸したものだ。

 それから19シーズン経過しているが、フィーゴに代わる選手は出現していない。右利きの右ウイングでバロンドールを獲得しようかという選手である。それには及ばないレベルでも簡単には発見できない。左利きの右ウイングはリオネル・メッシ(バルセロナ)、モハメド・サラー(リバプール)、アリエン・ロッベン(フィオレンティーナ)などザクザクいる。右利きの左ウイングも同様だ。クリスティアーノ・ロナウド(ユベントス)、ネイマール(パリ・サンジェルマン)、エデン・アザール(レアル・マドリード)、サディオ・マネ(リバプール)と、こちらも枚挙にいとまがない。

 しかし、右利きの右ウイングは少ない。世界的にもそうだし、日本国内でも見つけにくい。日本代表でそれなりに活躍した選手となれば、長谷川健太(現FC東京監督)まで遡らなければならない。

 前フリが長くなってしまったが、言いたいことは伊東純也(ゲンク)の貴重さについてである。久保建英(マジョルカ)より、中島翔哉(ポルト)より、圧倒的に発見しにくいタイプの選手なのだ。

 モンゴル戦。日本の右ウイングは左利きの堂安律(PSV)ではなく、その伊東だった。

 予想どおり、モンゴルのレベルは低かった。結果は6-0。それでもまだ物足りないスコアに見えるほどだ。試合としては完全なミスマッチ。「モンゴルに6発大勝!」と大喜びするのは、あまりにもおめでたい。

 しかし、おめでたいことを承知であえて言えば、サッカーの見映えはけっして悪くなかった。それは攻撃のルートが3本揃っていたからだ。とくに鮮明だったのは、これまで見えにくかった右のルートだ。伊東の貴重さを再確認した試合と言ってもいい。

 通常、このポジションでスタメンを飾るのは堂安だ。伊東は久保とともにそれを追う存在だが、ゲンクでチャンピオンズリーグ(CL)出場を果たしている伊東が、CL出場を逃したPSVでまだレギュラーに定着できずにいる堂安を差し置いてスタメン出場するのは、当然の選択と言うべきだろう。

 堂安と伊東。プレーの傾向で異なるのはその進んでいく方向だ。堂安は真ん中へ、格闘技で言うところの半身の態勢で、切れ込んでいく。10回プレーの機会があれば8回以上、そのパターンになる。縦へ推進していくことが得意ではないと言うべきだろう。よって、日本の攻撃もそこから先は狭くなる。右サイドの深い位置(ゴールライン際)まで突いていきにくくなる。攻撃に深みを出しにくいサッカーだった。

 攻めていく力がなかったのか、意図的に守ったのかは定かでないが、モンゴルはゴール前を固めた。ハーフコートマッチとはよく言うが、この場合は3分の1コートマッチだった。引いて構える相手をどう崩すかがテーマになっていた。

 日本はよくそこで頭を抱える。”抱えたがる”と言うべきか。答えは世界的に「サイド攻撃」で一致しているにもかかわらず、だ。だが、この日の日本は、相手がいくら下がっても、攻めあぐむことはなかった。とくに右サイドから繰り出すパンチは、相手の急所を的確に捉えていた。

 その主役が伊東だった。単独ドリブルも光ったが、周囲とのコンビネーションプレーも上々で、とくに後方で構える酒井宏樹(マルセイユ)とのコンビネーションには目を見張るものがあった。プレーの幅を広げている感じだった。モンゴルの左サイドバックはその裏を何度も取られることになった。おのずとセンターバックの間隔も広がることになり、いくらゴール前を固めても、外から剥がされていくという状態に陥った。

 後半12分、酒井宏樹に代わり、小兵のSB安西幸輝(ポルティモネンセ)が投入されると、右からの攻撃はさらにバラエティ豊かになった。より立体感が生まれた。ライン際に開いて構える伊東のその内側を安西が突くというパターンに、従来にはない新鮮さが感じられた。

 ウイングが真ん中に切れ込み、SBがタッチライン際を縦に走る。堂安と酒井を含め、ウイングとSBの関係はたいていがこれだが、SBの負担が軽いのは、SBが内でウイングが外の方だ。横浜F・マリノスのアンジェ・ポステコグルー監督が好むスタイルと言えばわかりやすいかもしれない。かつてのドイツ代表のトーマス・ミュラーとフィリップ・ラームの関係もこれに当たる。こう言ってはなんだが、酒井は、内を突くには体格的に目立ちすぎる気がする。安西の方がラーム的、神出鬼没に見える。

 日本の右サイドはほぼ完璧だった。それに比べると、中島と長友佑都(ガラタサライ)がコンビを組む左サイドの攻撃は物足りなかった。

 中島は右利きの左ウイングだ。動きはつまり、堂安的だ。堂安と中島がスタメンを飾ると、日本の攻撃は狭くなる傾向にある。このモンゴル戦の中島も例外ではなかった。相手の右SBに対峙すると、8割方、縦ではなく内へ進もうとする態勢を取った。ライン際を前進する長友とコンビネーションが発揮できれば問題なかったが、この2人は、右の伊東-酒井、伊東-安西のような関係は築けなかった。

 これはこの日に限った話ではない。この小柄な2人がいいコンビネーションを発揮したことは少ない。中島のステップはたしかに変幻自在だが、味方である長友にもわかりにくいものになっていた。

 右サイドのようにパスで崩すパターンがないのだ。相手SBの背後を突くプレーは2、3度止まり。前半、左に流れた南野拓実(ザルツブルク)が、その背後を突いてマイナス気味に折り返し、決定機を演出したシーンがあったが、総じて言えば、引いて守る相手をどう崩すかという問いに、左サイドは満足な答えを出すことができなかった。

 伊東の話に戻せば、ドリブルもキレていたが、視野も広くなっていた。俯瞰で見ると、中島が繰り出すクロスより、伊東の繰り出すクロスの方が、納得できるコースを的確に突いていた。可能性を感じさせるキックを送り込んでいたのは伊東の方だった。

 日本代表は常時、攻撃に3つのコースを見いだすことができるか。それは森保ジャパンの浮沈のカギを握るポイントといっても言い過ぎではない。伊東はそのキープレーヤーになるのか。世界的にも貴重な右利きの右ウイングの、CLでの活躍にも目を凝らしたい。