日本代表の活躍もあって、ラグビーワールドカップ(W杯)が盛り上がっている。ただ熱戦の最中、レフリーによって試合が中断されることがある。「TMO」だ。「テレビジョン・マッチ・オフィシャル」の頭文字をとったもので、いわゆるビデオ判定のこと…

 日本代表の活躍もあって、ラグビーワールドカップ(W杯)が盛り上がっている。ただ熱戦の最中、レフリーによって試合が中断されることがある。「TMO」だ。「テレビジョン・マッチ・オフィシャル」の頭文字をとったもので、いわゆるビデオ判定のことを指す。



日本VSロシア戦。TMOの判定で松島幸太朗のトライが認められなかった場面もあった

 試合中、レフリーが両手で大きな四角を描くゼスチャーをすることがある。これが、TMO。トライをしたかどうかの確認や不正なプレーの判断を明確に下せない時、レフリーの判断で実施される。

 試合のTMO担当のレフリーが、さまざまな角度から撮影された問題のシーンをスローモーションやコマ送りなどで何度か確認し、レフリーの判断をサポートすることになっている。例えば、白熱した試合となった9日のウェールズ×フィジー(大分スポーツ公園総合競技場)戦は7度もTMOが実施された。

 レフリーは、フランス人のジェローム・ガルセス氏だった。フィジカルに長けた両チームで強烈なコンタクトプレーが多かったからか、危険なタックルやきわどいトライシーンを確認するため、何度も試合を止め、アシスタントレフリーと相談した上で、TMOへ。

 試合はウェールズが29-17で勝利を収める一方、TMOによる中断時間はトータルで約12分間にもおよんだ。

 確かに正確な判定を下すために、ビデオ判定は必要だろう。だが、レフリーとTMO担当とのやりとり、選手への説明に時間がかかることもあってか、せっかくの熱戦に水を差されるというか、「時間がもったいない」と感じる時もあった。

 これまで取材した試合を振り返ると、ウェールズ×豪州戦(9月29日・東京スタジアム)では、TMOが合計4回で約10分間、試合が中断された。試合はウェールズが29-25で競り勝った。試合後、会見で「TMOがチームの勢いを止めたのでは?」と聞かれると、豪州のマイケル・フーパー主将はこう、答えた。

「言い訳はしたくない。どこのチームも、こういったシステムに適応していかないといけない」

 このTMO、日本代表がロシアを下した開幕戦でも見られた。前半34分、WTB(ウイング)の松島幸太朗が右隅に飛び込み、トライしたかに見えたシーンがあった。しかし、TMOに持ち込まれ、結局、ノートライと判定された。その際、TMOを初めて知った人が多かったのではないだろうか。

 また、日本代表が優勝候補のアイルランド代表に劇的な勝利を収めた試合でも、前半21分、アイルランドのトライをめぐり、TMOに持ち込まれた。この時は、アイルランド選手がインゴールにボールをグラウンディングしているかどうかの確認だった(トライは成立)。

 国際舞台で活躍し、ラグビーW杯2015年大会では日本代表を陰で支えた日本初のプロレフリー、平林泰三さんは「より正確な判定をするため」とTMOについて説明する。

「きわどい判定を、テクノロジーを使って精度の高い判定に導いていくため、現在、ワールドラグビー(ラグビーの国際統括団体)では、”コミュニケーション・プロトコール”と呼ばれる、レフリーとアシスタントレフリー、あるいはレフリーとTMOスタッフの話す手順に関するガイドラインを作成し、それに沿って判定がされています」

 TMOは、ラグビーW杯では2003年大会から導入されている。確かに誤審が減り、判定が正確になったようにみえる。「でも…」と平林さんは続ける。

「ガイドラインは毎年のように改定されています。グラウンドでのフィーリングと短い時間で手際よく際どい判定を下すために、(レフリーは)非常に高いストレス状態で最善の決定をしていかないといけない難しさがあります」

 ワールドラグビーによる今大会のレフリーの指名においては、次回の2023年フランス大会も考えてレフリー、アシスタントレフリーを選んでいることもあり、レフリーの経験値と認知レベル、ゲーム理解度にはギャップがある。平林さんは言葉を足した。

「そのためレフリーとTMOでは、さらにゲームの強度・難易度に対するコモンセンス(常識)の共有が難しく、その部分が過敏であったり緩かったりという、一貫性のなさとして見られることにもなります」

 TMOによる中断時間を、熱戦の適度な「間」という人もいる。また協議中に電光掲示板に映る録画映像を楽しむファンもいる。時には劣勢の疲れている側の選手が態勢を立て直すことにもなるだろう。

 だが半面、TMOに頼りすぎて試合が再三中断されると、ゲームの流れやリズムが止まり、プレーしている選手はもちろん、見る側のファンも戸惑うことにもなる。

 レフリーの役目は、試合を安全、かつスムーズに進行することである。レフリーには毅然とした態度での判定と、TMOの中断時間が短くなることを期待したい。