東海大・駅伝戦記 第62回 いよいよ東海大の「学生駅伝3冠」への挑戦が始まる。 出雲駅伝は2年前に優勝しており、今回エントリーされているなかでは阪口竜平(4年)、關颯人(4年)、鬼塚翔平(4年)の3人が優勝を経験している。 この3人に加え、…

東海大・駅伝戦記 第62回

 いよいよ東海大の「学生駅伝3冠」への挑戦が始まる。

 出雲駅伝は2年前に優勝しており、今回エントリーされているなかでは阪口竜平(4年)、關颯人(4年)、鬼塚翔平(4年)の3人が優勝を経験している。

 この3人に加え、昨年のメンバーである西川雄一朗(4年)、郡司陽大(4年)が順当に入ってきた。さらに今回、小松陽平(4年)、西田壮志(3年)、塩澤稀夕(きせき/3年)、本間敬大(2年)、市村朋樹(2年)が新たにエントリーメンバーに入っている。



夏合宿から好調を続けている東海大3年の塩澤稀夕(写真左)

 昨年は出雲駅伝の連覇よりも全日本大学駅伝、そして箱根駅伝を見据えたなかでのレースだった。選手は直前までハードな練習で消耗しており、「本当に勝つ気があるのか」と選手と監督をはじめとした首脳陣の間でギスギスした空気が漂っていた。そんな状況のなか、なんとか3位に入ったが、優勝した青学大に一度も追いつくことなく、両角速監督曰く「完敗」だった。

 今年はどうか──。

 昨年のようなことはなく、この夏は白樺湖合宿、そしてアメリカでの3週間合宿を終え、さらに9月の紋別合宿も順調にこなしてきた。

 アメリカ合宿と紋別合宿の合間に開催された日本インカレでは、塩澤、西田が1万mに出場。帰国直後で、時差ボケと合宿での疲労が抜けきらないなかでのレースだったが、西田が自己ベスト更新の28分58秒15の8位。塩澤も29分06秒01の9位と、まずまずの走りを見せた。ふたりとも手応えを感じ、塩澤は「3つの駅伝すべてに絡めたら」と自信をのぞかせた。

 おそらくこの時点で、両角監督はふたりの起用を決めていたのだろう。問題は、誰がどの区間を走るのかということだ。

 区間の適性と選手のコンディションを考えると、1区は塩澤の可能性が高いと思われる。塩澤はスピードもあるが、集団走が得意で競り合いに強い。

 2年前の優勝時は、そのシーズンで一番好調だった阪口を1区に置き、昨年は夏以降に急成長した西川を1区に指名したように、両角監督は1区にそのシーズンで最も成長し、好調な選手を置く傾向にある。

 高速駅伝の出雲では、1区で出遅れてしまうとレースが終わってしまうだけに、今回も過去のレース同様に好調で信頼できる選手を配置するはずだ。もちろん、出雲駅伝1区経験者の阪口や西川、または1区に慣れている鬼塚という選択肢もあるが、今年の1区は塩澤でいくような気がしている。

 2区は、本来であればキャプテンの館澤亨次(4年)の担当区間であるのだが、故障により今回はエントリーから漏れた。2区は5.8キロと最も短い区間なのでスピードが求められるが、ちょっと読みづらい。小松もあり得るが、「新しい選手が主力の抜けたポジションを埋めていくのがベスト」という両角監督の考えからすると、市村の可能性もある。

 市村は夏合宿で評価を上げたひとりだ。白樺湖の合宿では、ファルトレイクトレーニング(※)で遅れることなく、先輩についていった。9月の東海大記録会5000mでは13分55秒30と、初めて13分台を出した。

※速いペースとゆっくりのペースを繰り返しながら走り続けるトレーニングのこと

 出雲駅伝の10日前の練習でも淡々とメニューをこなし、「非常に調子がいい」と両角監督と西出仁明コーチも太鼓判を押していた。仮に、2区でなかったとしても、市村が駅伝デビューする可能性は非常に高い。

 3区のエース区間は阪口だろう。トラックシーズンでは4年生で唯一、好調を維持し、故障もなかった。”駅伝男”の館澤がいないなか、最も信頼できる選手である。東洋大の相澤晃(4年)、青学大の吉田圭太(3年)、国学院大の浦野雄平(4年)といった各大学のエースが3区に入った場合、彼らと互角のレースができるのは阪口しかいない。

 そして4区は、鬼塚か關のどちらかではないだろうか。2年前、鬼塚は1区という大方の予想を裏切り4区に入って、青学大の原晋監督に「4区、鬼塚かぁ」と悔しがらせた。実際、区間トップの快走を見せて、8年ぶりの優勝の立役者となった。

 今シーズン、鬼塚も關もいまひとつ調子が上がらずに苦しんでいるが、駅伝では大きく外したことがない。鬼塚か、それとも關か。それともどちらかが4区で、もうひとりが他区間を走るのだろうか。いずれにしても、4区を誰が走るのかは注目だ。

 5区は、西川が有力だ。6月の教育実習でコンディションを崩し、夏の白樺湖合宿では別メニューだったが、アメリカ合宿で復調してきた。9月の東海大記録会5000mでは13分55秒51の自己ベストを更新し、「だいぶ(調子が)戻ってきた」と西川自身も自信を深めた。

 キャプテンの館澤が故障で離脱しているなか、副キャプテンとしてチームをまとめる役割を果たし、両角監督から「全員が西川のような意識だといいんだけどな」と言われるほど、全幅の信頼を得ている。

 駅伝デビューとなった昨年の出雲は1区を任されたが、大会の雰囲気に呑まれ、区間6位と悔しい思いをした。今年は勝つために、つなぎ区間で勝負強さを発揮してくれるだろう。

 出雲で一番長い10.2キロの6区は、その候補としてロード組から西田、郡司、本間が登録メンバーに選出された。ロード組には、ほかに松尾淳之介(4年)、名取燎太(3年)もいるが、ふたりは10月6日の札幌マラソンに出走し、名取が大会記録を更新して優勝し、松尾は5位だった。ともに夏合宿のメニュー消化率100%を果たし、出雲ではなく全日本大学駅伝に向けて調整が進んでいる。

 さて、出雲のエントリー組では、郡司、本間のふたりは大会9日前の日体大記録会の1万mに出場したが、蒸し暑さもあり、タイム的にはもうひとつだった。ただ、郡司はギリギリまで調子を上げていけるタイプだけに、上積みは期待できそうだ。

 西田は、今年1月の箱根駅伝5区での好走で山の印象が強いが、昨年の全日本大学駅伝で4区を走り区間3位と結果を出しており、平地でも期待できる。大会前の練習でも先頭を走ってチームを引っ張るなど、調子のよさを維持している。

 実績と経験を考えれば、西田か郡司のどちらかになると思われるが、はたしてアンカーを任されるのはどっちになるのだろうか。

 今回の出雲駅伝は“BIG3”と言われる東海大、青学大、東洋大に加え、駒澤大、国学院大、帝京大、中央学院大、法政大といったあたりが力をつけてきており、優勝争いはカオスな状態になっている。9月に開催された日本インカレでは、とりわけ国学院大の勢いが顕著で、両角監督も「国学院大は勢いがある」と警戒を強めている。

 だが、出雲駅伝を直前に控え、指揮官は冷静だ。

「国学院、駒澤がトラックで強さを見せていましたが、それがどれだけ駅伝に反映されるかは、やってみないとわからない。うちは、ほかの大学の動向を気にするというより、自分たちがどれだけ普通に走れるかだと思うんです。

 1月の箱根のように1区からミスやブレーキがなく、全員が普通に力を発揮できれば勝てると思います。目標は学生駅伝3冠ですが、指導する側にとっては、出雲の結果をしっかりと箱根につなげていきたい」

 3区までに強さを見せるのは東洋大、青学大、国学院大あたりだろう。東海大は、3区までにトップと30秒差以内につければ、4区、5区のつなぎ区間とアンカーには経験豊富な選手を置けるので、十分に逆転可能だ。箱根駅伝同様、後半に勝負できるのが、選手層の厚い東海大の強みだ。

 また、東海大にとって出雲駅伝は、新戦力を起用して箱根駅伝で走れるかどうかの見極めのレースにもなる。昨年の西川や郡司のように、安定して力を発揮する選手がひとりでも多く出てくれば、箱根に向けて選手層により厚みを出すことになり、戦略的に優位に戦える。

 練習ではキャプテンの館澤が来て、積極的に声かけをしていた。練習後の選手たちの表情も明るく、チームのムードは昨年と異なり、非常にいい。

「みんないい調子ですね」

 塩澤の明るい声が、すべてを物語っていた。

 今シーズンの目標は、「学生駅伝3冠」だ。その最初のレースである出雲でつまずくわけにはいかない。