■日本GP前の第16戦ロシアGPまでに11勝を挙げ、チャンピオンシップでライバルを圧倒するメルセデス。エースのハミルトンも今季9勝を挙げ、通算6度目のタイトル獲得に向けて邁進しているが、夏休み明けの第13戦のベルギーGP以降はフェラーリ3勝、メルセデス1勝と、フェラーリが巻き返しを図っている。現在の両チームの力関係はどうなっているのか? DAZNのF1解説を担当している元F1ドライバーの中野信治氏に話を聞いた。



ドライバーズランキングで首位を快走するハミルトン

 メルセデスの強さの要因は、マシンとPUの開発力や戦略などを含めたチーム力が大きいですが、特筆すべき点はやっぱりハミルトンのドライバーとして能力だと思います。彼がもともと持っているドライビング能力に加え、ここ数年でメンタル的にも大きく成長し、リーダーとしてチャンピオンチームを引っ張っています。

 王者メルセデスといえども、レースによっていい時と悪い時がありますが、ハミルトンは悪い時でもしっかりと踏みとどまり、結果を出しています。そこが彼のすごさです。

 かつてニコ・ロズベルグと争っていた時のハミルトンは、状況が悪くなるとミスをしたり、結果を出せなかったりしていましたが、今はメンタルコントロールがしっかりとできているので、ギリギリのところで持ちこたえられるようになっています。

 そうなると取りこぼしが少なくなってきますよね。その結果、メルセデスのチーム全体の空気が変わり、チャンピオンシップの流れをうまく自分たちのほうに引き寄せています。それが今シーズンの好結果につながっていると感じています。

 ここ3年ぐらいのハミルトンの成長は著しいですね。ロズベルグと戦っていた時に比べて、総合力としてはかなり高くなっています。ハミルトンがやっているのは、論理的には当たり前のことです。物事の流れを引き寄せるために、周りのスタッフに対する言動でチーム内に味方を増やし、ファンを大事にしてチームの外にも味方を増やしています。

 世界チャンピオンになると、そういうことはなかなかできないのですが、彼は2016年にロズベルグにタイトル争いで負けたあと、徹底して取り組んでいるように見えます。そうすることで自分の周りに味方を増やし、心に余裕を持ちながらレースに挑んでいるのです。だから許容範囲が広がり、どんな状況にも冷静に対応できるので、圧倒的な強さを発揮できていると思います。

 フェラーリはPUの性能に関してはメルセデスを上回っていますし、本来であればもっと結果を残せていたはずです。でもエースを務めるセバスチャン・ベッテルは、悪い流れの時に踏みとどまることができなかった。

 今シーズンのフェラーリとメルセデスの成績には、エースドライバーの悪い流れをいい方向に変換していく能力の差が、そのまま反映されていると僕は感じています。

 しかもF1参戦2年目の若いシャルル・ルクレールが急成長を遂げたことが、ベッテルのメンタル的に弱い部分を刺激してしまった。その結果、フェラーリの勢いを止めてしまっているように見えます。

 ベッテルのドライビングは一流ですし、うまさもあります。ロシアではスタート直後にルクレールが後ろから追いかけてきても、寄せつけませんでした。あれはベッテルの意地ですよね。でも年齢を重ねてくると、ロシアのレース序盤で見せたようなパフォーマンスをコンスタントに発揮できなくなってくるのです。

 キミ・ライコネン(39歳/アルファロメオ)を見ているとよくわかります。クルマの調子がいい時には100%の力を出してきますが、少し波がある。そういう中で何が必要かといえば、ハミルトンのようにメンタルで補っていくしかないんです。

 結局、トップクラスのスポーツで重要なのはメンタルです。F1に限りませんが、どんなスポーツでもトップレベルにいくと選手の能力に大きな差はありません。そうなると最終的にメンタルをしっかりとコントロールする能力が高い人が、コンスタントに強さを発揮することができるのです。

 そういう選手が一流から超一流になっていく。まさにハミルトンは一流から超一流にステージが上がったように感じます。一方のベッテルは数年前のハミルトンのように、いい時はいいけど、悪い時は悪いというレベルにとどまっているように見えます。

 そこに21歳のクレールが急速に伸びてきた。フェラーリとしても4度のチャンピオン経験があるベッテルと伸び盛りのルクレールをどうマネジメントするのか、僕も監督をしていますが、すごく難しい判断だと思います。

 でも、チーム内ではいつかルクレールにシフトすることを考えているでしょうね。結果を見ながら、クールに判断していると思います。

 ルクレールは後半戦に入り、4戦連続でポールポジションを獲得し、ベッテルを上回る2勝を挙げています。僕はルクレールをF2時代から注目してきましたが、速さがあり、勝負をする時は思いっきり行くし、地味に見えて勝負強い。あと常に余裕を持って走っていて、物怖じしない。まだ21歳ですが、卓越した能力の持ち主です。

 ルクレールのすごさは、ベッテルも気がついていると思います。でも認めたくないだけで、すごいヤツが出てきたら、ドライバーは感覚的にわかるんです。認めたうえでどういうふうにしたら対抗できるのかと考えていくわけで、そこからが本当の勝負だと思います。

 そういう意味で、ベッテルとルクレールの戦いはこれからが本番です。鈴鹿でも面白い勝負が見られると思います。



photo by Yamamoto Raita

■プロフィール 中野信治(なかの・しんじ)
1971年生まれ。F1、アメリカのCARTおよびインディカー、ルマン24時間レースなどの国際舞台で長く活躍。現在は日本最高峰のスーパーフォーミュラとスーパーGTに参戦するTEAM MUGENの監督を務めながら、佐藤琢磨とともにSRS(鈴鹿サーキットレーシングスクール)の副校長として若手ドライバーの育成を行なっている。世界各国での豊富なレース経験を生かし、DAZN(ダゾーン)のF1解説も担当している。