かつてはJ1で3度の優勝を成し遂げながら、2014年にJ2降格の地獄を見たジュビロ磐田。2016年には、黄金期の強さを取り戻さんと、J1復帰を果たした。 だが、それから3年。磐田は再び栄光を手にするどころか、2度目のJ2降格がもはや不可避…

 かつてはJ1で3度の優勝を成し遂げながら、2014年にJ2降格の地獄を見たジュビロ磐田。2016年には、黄金期の強さを取り戻さんと、J1復帰を果たした。

 だが、それから3年。磐田は再び栄光を手にするどころか、2度目のJ2降格がもはや不可避なものとなりつつある。

 J1第21節以降、最下位に沈む磐田は、第27節の大分トリニータ戦で2-1と勝利し、連敗を3でストップ。8試合ぶりの勝ち点3を手にした。J2降格圏脱出へ向け、ようやく差した光明だった。

 しかし、勢いは続かなかった。

 続く第28節、磐田は横浜F・マリノスに0-2で敗れ、今季初の連勝はならず。しかも残留争いのライバル、16位のサガン鳥栖、17位の松本山雅がそろって勝利。これにより、鳥栖との勝ち点差は10、松本との差も7まで広がった。



横浜F・マリノスに敗れて、がっくりと肩を落とすジュビロ磐田

「これからの試合が重要になる。勝利以外に目指すものはないが、難しい状況であることは変わらない」

 今季途中から磐田の指揮を執るフェルナンド・フベロ監督も認めるように、今季J1はもう6節しか残されていないことを考えると、J1参入プレーオフへ進める16位浮上はおろか、最下位脱出さえ簡単ではない状況である。

 直近の横浜FM戦を見ていても、言い方は悪いが、勝てないチームが見せる典型のような試合だった。

「求めていたものは、試合の中で出せた。試合の入りはよかったし、前半30分まではポゼッションで上回り、非常にいい出来だった」

 試合後、スペイン人指揮官はそう振り返っていたが、なるほど、試合序盤は磐田ペースで進んでいたと言ってもいい。

 J1初先発のMF藤川虎太朗がDFラインの裏へ走り込み、MF松本昌也からの浮き球のパスをうまく収めて、果敢にミドルシュートを放ったのは、開始3分のこと。磐田は縦に速い攻撃を何度も繰り出し、いい意味で”忙しない試合”に持ち込んだ。

 これにより、本来ならしっかりとボールを保持して攻撃を組み立てたい横浜FMのよさを消し、攻め急ぎを誘った。横浜FMを圧倒した、とまでは言えないまでも、優勝を争っている相手にひと泡吹かせそうな雰囲気は十分にあった。

 だが、磐田が何度か訪れたゴールチャンスを生かせずにいると、次第に横浜FMが落ち着きを取り戻す。フベロ監督のコメントにもあったように、磐田が「いい出来だった」のは「前半30分まで」。すなわち、横浜FMに先制点を許すまでのことである。

 試合の流れを大きく変え、趨勢(すうせい)を決めた横浜FMの先制点は、結果的に磐田のオウンゴールではあった。だが、ゴールキックから何本ものショートパスをつながれ、きれいにDFラインの裏を取られてゴールを許している以上、不運で片づけることはできない失点だろう。

 磐田の守備を支える元・日本代表、ボランチのMF今野泰幸が語る。

「F・マリノスはボールを取られないポゼッションだけでなく、(DFラインの)裏にも走ってくる。対処が難しかった」

 そんな失点には伏線があった。

 磐田は横浜FMがボールを持つと、一度自陣にリトリートして、ブロックを作るところから守備を始めた。

 とはいえ、ブロックを作ると言っても、選手はただその場に立っていればいいわけではない。ピッチの横幅は68m、縦幅はハーフウェーラインからペナルティーエリアまでとして36m。このエリアにフィールドプレイヤー10人が立ったところで、当然ピッチ上はスカスカだ。選手はボールを持った相手にプレッシャーをかけるべく、そのつど、距離を詰めなければならない。

 ところが、磐田の選手は相手に寄ってはいくものの、1~2mの距離を取って止まってしまう。しっかりと相手選手に体を寄せ、ボールに向かって足を出していたのは、今野くらいだった。これでは、パス・アンド・ムーブを繰り返す横浜FMの攻撃を防ぐのは難しい。

 この試合をベンチから見ていたキャプテンのDF大井健太郎も、「(積極的にボールを奪おうというより)自分が抜かれたくないという守備になってしまっていた」と話していたが、なかなか勝てないチームゆえ、受け身の気持ちが強くなっているのだろう。

 今野が「守っているだけではダメ。自分たちの攻撃の時間を作らないと、ゼロ(無失点)には抑えられない」と話していたが、まさにそのとおり。とりあえず、誰かがボールの前に立っていれば、簡単に抜かれることはなく、それなりに守ることはできるのだろうが、それでは守備に時間を割かれるばかりで、効果的なカウンターは期待薄である。

 攻撃面でも同じような傾向、すなわち、消極的な姿勢は見て取れた。

 一か八かの縦パスを打ち込むくらいなら、相手の守備に穴が開くまで、サイドを変えながらじっくりとボールを動かす。フベロ監督が志向するサッカーからは、そんな狙いがうかがえる。しかし、結局は攻撃が縦にテンポアップしないまま、サイドからクロスを入れるしかなくなることが多かった。

 新戦力のFWルキアンに加え、FW川又堅碁でもいれば、ゴール前で何とかしてくれるかもしれないが、川又をケガで欠く現状では、クロスからの得点も期待はしにくい。

 つまり、いい守備から速攻につなげられる可能性が低く、そのうえ、遅攻になったところで決め手に欠く。最近5試合のうち、4試合が完封負けも不思議ではない。

「自分たち前線の選手が、前半に決め切れなかったところが敗因だと思う」

 J1出場わずか2試合目にして、トップ下でハツラツとしたプレーを見せた21歳の藤川に、そこまで言わせてしまう現状は寂しすぎる。

 磐田は次節、サガン鳥栖との直接対決を迎える。これに勝ったところで、大きく事態が好転するわけではないが、とにもかくにも勝たないことには、首の皮一枚すらもつながらない。

 降格危機にあるクラブを救うべく、今季途中に加わった今野は、「最後まであきらめちゃいけない。状況は苦しいが、奇跡を信じてやるしかない」と、悲壮な決意を口にする。

 磐田の背後に伸びる”魔の手”は、もはやその気配を感じるところまで近づいている。