列島が日本代表の快進撃にわいている。そのチームを司令塔としてリードするのが、30歳のSO(スタンドオフ)田村優(キャノン)だ。10月13日。初のラグビーワールドカップ(W杯)決勝トーナメント進出をかけた大一番。相手は4年前のW杯で敗れたス…

 列島が日本代表の快進撃にわいている。そのチームを司令塔としてリードするのが、30歳のSO(スタンドオフ)田村優(キャノン)だ。10月13日。初のラグビーワールドカップ(W杯)決勝トーナメント進出をかけた大一番。相手は4年前のW杯で敗れたスコットランド代表だが、田村は「めぐり合わせかなと思います」と言葉に実感をこめた。



正確なキックで日本代表に貢献している田村優

「(日本は)4年前、中3日という苦しい状況で試合をして、今度は逆の立場(日本が中7日、スコットランドは中3日)で…。みんな、いろんな思いがあると思いますけど、それを試合で全部、出したいなと思います」

 4年前のラグビーW杯。日本代表は初戦で優勝候補の南アフリカを破る大金星を挙げながら、中3日で迎えたスコットランド戦では10-45で大敗を喫した。結局、この敗戦が響き、日本代表は1次リーグで3勝を挙げながらも、決勝トーナメントに進めなかった。

 田村はそのスコットランド戦、センター(CTB)として先発出場した。当時、W杯初先発の26歳。まだ若かった。自身のパスをインターセプトされ、相手ウイング(WTB)に独走トライを許した。その敗戦と悔恨があればこそ、「天才」はその後、たゆまぬ努力を続けたのだろう。大きく成長した。

 プレーに安定感を加えた。経験値と、パス、キックの精度が増した。ゲームを読む目、いわゆる戦術眼も鋭くなった。プレーに余裕が生まれ、視野が広がったからだろう、かつて、「試合の風景が遅く見えるようになった」と口にしていた。

 田村は正直だ。プレッシャーを楽しむと言いながらも、初の自国開催、開幕戦のロシア戦前は「(緊張で)10日間ぐらい眠れなかった」と打ち明けた。そのロシア戦こそ、プレーが硬かったけれど、2戦目のアイルランド戦、3戦目のサモア戦と動きが冴えてきた。指導陣に与えられたゲームプランを遂行すれば勝てる、との自信がプレーに満ちあふれている。

 サモア戦での好調の要因を聞かれると、田村は「3試合をして、からだも徐々になじんできたから」と、淡々と振り返った。

「大きいプレシャーは常にかかっています。でも、メンタル面、スキル面をしっかり1週間かけて準備をしていけば、あとは、なるようになると思うんです。完ぺきを求めすぎない。ほんとうにシンプルに、試合を100%楽しむだけです」

 田村は目下、大会の得点ランキングのトップに立っている。3試合で10PG(ペナルティーゴール)、5ゴールを成功させて計40点をマークした。 前回W杯でフルバック(FB)五郎丸歩が打ち立てた日本選手のW杯通算最多58点の更新も視野に入っている。

 ただ、自身のタイトル争いの話題には「あまり(意識が)ないです」と乗ってこない。代わりに計4トライの松島幸太朗の名を挙げ、「でも、マツ(松島)はトライ王になると思いますよ」と言って、メディアを笑わせた。

「(プレースキックは)僕のプレーの中のほんの何パーセントなんです。フォーカスされやすいプレーではありますが、僕が80分間、闘っている中でのひとつのプレーにすぎない。ラグビーには、ほかにも大事なプレーがもっとあるので」

 判断力に長けた田村は時に我慢強くパスをつなぎ、時に相手の空いたスペースに効果的なキックを駆使している。過去3試合の田村のパスとキックの数を大会データから拾うと、ロシア戦(パス25、キック14)からアイルランド戦(31、5)、サモア戦(22、11)となっている。即ち、アイルランド戦では大幅にキックを減らしてパスを増やし、ロシア戦やサモア戦では相手との激しいコンタクトを避けるため、効果的なキックを増やしたのだろう。

 スコットランド戦の戦術の落とし込みはこれからだが、アイルランド戦同様、キックの数は減らし、できるだけ相手に球を渡さず、パスで振り回して体力を奪っていくことになるだろう。そのためには、スクラム、ラインアウトのセットプレーを安定させたい。

 相手のリズムを作るのが、SH(スクラムハーフ)のグレイグ・レイドローと、SOのフィン・ラッセルのキックと長短のパスである。自陣でPK(ペナルティーキック)を与えると、正確なプレースキック力を持つレイドローにPGを蹴り込まれることになる。

 また、FB(フルバック)のスチュアート・ホッグと両WTBのカウンター攻撃も相手の強みだ。キックを織り交ぜるとしても、このカウンターは避けたい。スコットランドは次のロシア戦(9日・静岡)にはレイドローやラッセル、ホッグら主力をスタメンから外し、温存してきた。当然、日本との決戦に万全を期すためである。

 日本としてはディシプリン(規律)を守り、PKをできるだけ、少なくしたい。その上で、逆に敵陣でPKをもらえば、田村がPGを蹴り込むことになる。PKの多寡、パントキック&キック処理、プレースキックの精度が勝敗を左右することになる。

 試合の見どころのひとつが、ハーフ団(SH、SO)の対決となる。田村は「ONE TEAM」を強調する。

「個人的には、ひとりがどうのこうのではなく、31人の選手にスタッフを含め、全員で、この1週間を、過去最高の準備期間にしたい」

 さあ、スコットランドへの雪辱のチャンス到来である。場所は横浜国際総合競技場となる。選手たちに高揚感がのぞく。

「それぞれ思いはある。リーチ(マイケル主将)はテンションが上がってますし…。みんな、気持ち的な部分が、サモア戦が終わった時点でたかぶっていますし、僕自身もすごくたかぶっています。でも、みんな謙虚なので、しっかり準備して、土曜日は…」

 会見の司会の広報担当から「試合は日曜日」とやんわり修正されると、田村は「まっ、どちらでもいいですけど」と笑った。

「その、なんていうのだろう。みんな、爆発するはずです」

 気力充実。日本ラグビーの歴史を創る大一番だ。接近する大型台風の影響は気になるけれど、成長した司令塔が因縁の相手へのリベンジに燃えている。