タイ東北部のブリラム・サーキットで10月6日に決勝レースが行なわれた第15戦・タイGPで、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が2019年シーズンのチャンピオンを確定させた。

 第14戦を終えた段階で、マルケスはランキング2番手のアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)に対し、98ポイントの差を開いていた。



4レースを残してMotoGP王座を獲得したマルク・マルケス

 今回のレースでさらに2点を開いて100ポイント差にすればタイトルが決まる、という余裕のある状態で、ここまで14レースのうち13戦で優勝もしくは2位フィニッシュという今季の実績を考えれば、よっぽどのことがないかぎり王座獲得は間違いなさそうに見えた。

 もちろん、ドヴィツィオーゾが決勝でマルケスを打ち負かして先にゴールすれば、タイトル獲得は次戦以降に持ち越しとなる。

 しかし、金曜のフリー走行や土曜の予選を経て、ポールポジションを獲得した20歳のスーパールーキー、ファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハSRT)や、僅差でフロントロー3番グリッドを確保したマルケスと比較して、ドヴィツィオーゾは3列目7番グリッドからのスタート。決勝で帳尻を合わせてくる実力の持ち主とはいえ、マルケスやクアルタラロと互角の勝負をしながらマルケスの前でゴールするには、まだ最後の詰めが足りていないようにも見えた。

 今回のレースを前に、マルケスは「いつもと同じように、日曜は勝利を目指して臨む」と話しており、現地時間日曜午後2時にスタートした26周の戦いは、実際にその言葉どおりに推移した。

 ポールポジションスタートのクアルタラロとマルケスが序盤で3番手以降を引き離して1対1の対決になる展開で、マルケスが転倒リタイアをしないかぎりタイトル獲得は確実、という状況になった。

 マルケスとクアルタラロは、2戦前のサンマリノGPでも今回と似たようなトップ争いを繰り広げている。その時は、マルケスが最終ラップの終盤セクションで狙い澄まして前を奪い、最終コーナー手前でピタリとインを閉じてクアルタラロの反撃を防ぐ、という熟練の勝負内容だった。

 今回も、マルケスは最終ラップにロングストレート終端のハードブレーキングで前に出ると、後半セクションでもクアルタラロに先行し続けた。しかし、今回は2戦前と違ってクアルタラロが最終コーナーで乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負を仕掛け、マルケスのインに飛び込んできた。

「あそこで勝負しないと、次の日本GPまで寝られなくなる(くらい後悔する)と思ったので、イチかバチかで突っ込んだ」

 クアルタラロはレース後にそう振り返ったが、やはり今回もマルケスのほうが勝負は一枚上手だった。

 進入で深く突っ込み過ぎてコーナー出口ではらんでゆくクアルタラロに対し、きれいにラインをクロスさせてすばやく立ち上がったマルケスが0.171秒先にゴール。宣言どおりに、優勝で4年連続6回目のMotoGP王座を決めた。中小排気量クラスと合計すると8回目の世界タイトルとなることから、ビリヤードの8ボールを模したセレブレーション走行で王座獲得を祝った。

「序盤5、6周でドヴィに対して差を開いたけれども、今日のレースではファビオがものすごく速かった」とマルケスはレースを振り返り、「レース終盤に3周ほどじっくり様子を見て、行けそうだったので最終ラップに勝負をした。ミザノ(サンマリノGP)と同じように仕掛けたけど、今回は最終コーナーでファビオが仕掛け返してきた。彼はどんどん強くなっているので、来年はタイトル争いの厳しい相手になると思う」と、年若いライバルにエールを贈った。

 一方のクアルタラロは、僅差のバトルに負けた直後はやり場のない感情にバイクの上で身をよじっていたものの、しばらくすると冷静さを取り戻し、「最後は本当に悔しかったけど、8回の世界チャンピオンと最後の直線まで争えたのだから」と、今回の敗戦を前向きに受け止めた。

 そんな彼に、前回のミザノと今回ではどちらのほうが悔しかったのか、と単刀直入に訊ねたところ、「もちろん、今回だよ」と率直な笑顔で即答した。

「ミザノでは最終コーナーで勝負できなかった。今回は勝負したけど、向こうが対応してインを閉めてくるかどうかはわからなかったので(クロスラインで抜き返されて)相手のタイヤが見えた時は、もう本当に悔しかった。でも、オースティン(第3戦・アメリカズGP)以外でずっと表彰台に上がっていて、長年MotoGPのトップに立っているマルクと勝負をできて、とてもよかった」

 一方、2位で無難にゴールしても王座を確定できる状態だったにもかかわらず、それに甘んじることなく、あくまで優勝で通算8回目のタイトルを飾るという、いかにもこの選手らしいチャンピオン獲得劇を決めたマルケスは、次の第16戦・日本GPに2019年世界チャンピオンとして乗り込むことになる。

 会場のツインリンクもてぎは、ホンダのホームコースだけに、まさに凱旋と呼ぶにふさわしい。今回の王座獲得で、使命を無事に果たした気分かどうか、レース後のマルケスに訊いてみた。

「もてぎでタイトルを決めたいと思う人もいたかもしれないけど、昨日(HRC社長の)野村(欣滋/よししげ)さんにリサーチしてみたら、『タイで決めてほしい』ということだった。『プレッシャーをかけてくれて、ありがとう』と思ったけど(笑)、勝つことができたので、今はこの勝利を愉しみたい。

 でも、今年の使命はまだ終わったわけじゃなくて、コンストラクターズタイトルはいい調子でリードをしているし、チームタイトルもドゥカティに対して19点差に迫っている。簡単じゃないけど、がんばって(ライダー、コンストラクター、チームの)三冠を達成し、いい形で締めくくりたい。だから、そのつもりで気を抜かず、もてぎへ臨むよ」

 2013年のMotoGP昇格以来、マルケスは数々の最年少記録を更新してきたが、今回の王座獲得により、6度目の最高峰クラスチャンピオンおよび8回目の年間総合優勝の最年少記録も更新した。

 現在、26歳。今後もさらに数々の記録を塗り替えてゆくだろう。そして来年は、さらに彼よりも若い20歳の才能がその王座を脅かしていくこともまた、確実である。