シートノックだけでも、いつまでも見ていたいと思わせるショートだった。 京都国際高校の上野響平は身長172センチ、体重68キロの小兵ながら、10月17日のドラフト会議で指名が有力視されているショートである。守備力の高さに定評があり、ドラ…

 シートノックだけでも、いつまでも見ていたいと思わせるショートだった。

 京都国際高校の上野響平は身長172センチ、体重68キロの小兵ながら、10月17日のドラフト会議で指名が有力視されているショートである。



守備力の高さに定評があり、ドラフトでの指名が有力視されている京都国際の上野響平

 次はどんな身のこなしを見せるのだろう。次はどんなグラブさばきをするのだろう。この打球にはどんな体勢から投げるのだろう……。ゴロ処理のバリエーションが豊富だから、見ているだけで胸が踊る。そんな感想を隣で見ていた小牧憲継監督に伝えると、「そうでしょう!」と言わんばかりの笑顔でこう答えた。

「ジャンピングスロー、ランニングスロー、逆シングルとアクロバティックな動きもバンバンできます。肩を強くするためにブルペンでピッチングをしたら、142~143キロは出しますから」

 そして小牧監督は、上野への称賛をこんな言葉で結んだ。

「なかなかファンキーなやつですよ」

 今夏、京都国際は春夏通じて初めての甲子園出場をかけて京都大会決勝に臨んだが、立命館宇治に2対3で敗れた。

 もし、京都国際が甲子園に出場して上野の守備力の高さが周知されていれば、侍ジャパンU-18代表にも加わっていたのではないか。今回の代表はショートが本職の選手が6人も選出されたことで物議を醸したが、それでも上野の守備は突出している。

 上野の長所は、ただ派手なプレーができるだけではない。小牧監督が言うアクロバティックなプレーにしても、確かな技術に裏打ちされているのだ。自身も内野手だった小牧監督は、貝塚シニア(大阪)時代の上野の姿に「ボール回しを1球見て、『これや!』と思いました」と一目惚れしたという。

 上野のフィールディングに目を凝らしても、捕球前後の手の動きが速すぎて肉眼で追えない。MLBでショートとしてゴールドグラブ賞を11回も受賞したオマー・ビスケル(元インディアンズほか)は、キャッチボールをする際に捕球前後で両手をクロスさせるように動かし、一瞬で捕球と握り換えを完了する。上野の握り換えの動作にも、同様の達人技を感じるのだ。

 上野本人に聞くと、この巧みな握り換えは「体を柔らかく使って、ボールまでの入りと胸まで持っていく速さを意識する」と言う。雨の日は体育館で「ボールワーク」と呼ばれる、股を割って10球連続でゴロ捕球をする基礎練習をみっちり積んできた。

 前出のビスケルはベネズエラ人だが、上野の守備にも中南米系の雰囲気を感じる。上野の話を聞いてみて、なるほどと合点がいった。上野はこれまでの野球人生で、ジャンピングスローのようなアクロバティックなプレーを禁じられた経験がまったくなかったのだ。

「小学校、中学校、高校とジャンピングスローやランニングスローは『一番速くランナーをアウトにできるプレー』と教わってきました」

 日本野球の指導現場は着実に進化しているが、いまだに「ゴロは正面に入って捕る」という教えが根強く残っている。ショートが三遊間のゴロを無理やり正面に入って捕ろうとして、逆に苦しい体勢になり強い送球ができないというシーンをよく見る。ジャンピングスローをしただけで、無条件に怒る指導者もいる。

 しかし、今や「逆シングルでもヘソの前で捕れば正面になる」という技術指導が広まりつつある時代である。上野の守備には、新時代の日本人遊撃手が求められる要素が詰まっている。

 上野が日頃練習するのは、学校の体育の授業でも使用する砂利混じりのグラウンド。行事の際には駐車スペースにもなり、表面はでこぼこしている。そんな不安定な足場でプレーしているため、球場での試合は「跳ね方がわかるので守りやすい」と上野は事もなげに語る。

 憧れの選手は、体型が近い今宮健太(ソフトバンク)。「小さくてもやればできる」と、その強烈な肩に魅了されている。

 守備力が高い一方で、今後の課題が打撃になるのは間違いない。取材に訪れた日は木製バットで精力的に振り込んでいたが、まだ非力感は否めなかった。とはいえ、高校通算11本塁打のうち9本は高校3年の6月以降に放ったもの。強くスイングする意識が備わり、着実にレベルアップしている。

 現在、上野のもとにはNPBの5球団から調査書が届いている。上野の実力からすれば、少なく感じられるほどだ。それでも、プロがいかに厳しい世界かは上野なりに理解している。「今のままじゃ通用しないとわかっているので、指名されたときに万全な状態にしておきたい」と日々の練習に励んでいる。プロの厳しい生存競争を生き抜くために、本人が武器にしたいと考えているのは、やはり守備である。

「小さい頃から、『周りが嫌いなことで輝きたい』という思いがあったんです。小学生なら、みんなバッティングをしたがるじゃないですか。でも僕は、みんなが打った打球をさばくのが好きやったんです。そこが原点ですね」

 プロ入団時にショートでも、入団後に他ポジションにコンバートされる例は多い。しかし、上野に関してはプロでもよほどのことがない限り、ショートとしてプレーできるだろう。

 いずれは守備で金を取れる選手に——。上野響平のフィールディングには、そんな夢を描けるだけの魅力が詰まっている。