強いのか、弱いのか--。典型的な”外弁慶”なのかもしれない。 浦和レッズのことである。 ACLではアジアの強豪クラブを次々に撃破してベスト4に駒を進めたのに対し、国内の戦いではまるで結果を出せていない。リーグ戦では7月20日のジュビロ磐田…

 強いのか、弱いのか--。典型的な”外弁慶”なのかもしれない。

 浦和レッズのことである。

 ACLではアジアの強豪クラブを次々に撃破してベスト4に駒を進めたのに対し、国内の戦いではまるで結果を出せていない。リーグ戦では7月20日のジュビロ磐田戦以来勝利がなく、ルヴァンカップでは鹿島アントラーズに敗れ、天皇杯ではJFLのHonda FCに屈辱的な敗戦を喫している。



興梠慎三の同点ゴールは浦和を勢いづかせた

 とりわけ深刻なのは、J1リーグの戦いだ。第27節を終えて、勝ち点は32。振り向けば降格圏が背後に迫っている。アジア王者がJ2に降格する……そんな悲劇的な結末が待ち受けていたとしても不思議はない。

 もちろん、ACLとリーグ戦の両立が簡単ではないことは、歴史を見れば理解できる。日本勢は過去4度アジア王者に輝いているが、リーグ戦との”ダブル”を達成したチームはひとつもない。

 それでも、2007年の浦和はリーグ戦でも最後まで優勝を争った。2008年のガンバ大阪は8位、2017年の浦和は7位、そして昨季の鹿島は3位と、リーグ戦でも最低限の結果を残している。連戦による疲労や重圧などでリーグ戦に100%の力で臨めないことはあったとしても、今季の浦和のようにふたつのコンペティションで、ここまではっきりと別の顔を見せるチームはなかったはずだ。

 もっとも現在の浦和は、アジアの戦いにおいても圧倒的な強さを示しているわけではない。ACL準々決勝の上海上港戦は第1戦、第2戦ともにスコアは引き分け。アウェーゴールの数で上回り、ベスト4に進出している。

 レギュレーション的に勝ち上がりに値する戦いを示したことは間違いないが、90分のゲームにおいて勝利したわけではない。つまり、浦和は国内外すべての公式戦において、勝利できていない状況が続いていたのだ。90分の戦いで勝利したのは、8月14日に行なわれた天皇杯3回戦の水戸ホーリーホック戦が最後となる。

 そんななかで迎えたACL準決勝・第1戦。ホームに中国の強豪・広州恒大を迎えた浦和は、ファブリシオと関根貴大のふたつのゴラッソで2-0と快勝。2年ぶりのファイナル進出に大きく前進した。

 対アジアでの強さをあらためて示した浦和が、その勢いを国内の戦いにも持ち込めるのか--。その勝利から4日後の10月6日、同じ埼玉スタジアムでJ1リーグ第28節・清水エスパルスとの戦いに臨んだ。

 しかし国内の戦いでは、やはりもろさが先に出てしまった。19分、警戒していたはずのロングスローからドウグラスに決められて、あっさりと先制点を献上してしまったのだ。

 ところがこの日の浦和は、これまでとはひと味違った。

 前半終了間際に突如、攻撃の圧力を強めると、一方的に相手を押し込み、アディショナルタイムに興梠慎三が同点ゴールを奪取。後半に入っても勢いは止まらず、75分に橋岡大樹が鮮やかなボレーを叩き込み、逆転に成功する。その後の清水の猛攻も、身体を張った守備でしのぎ切り、リーグ戦では9試合ぶりとなる勝ち点3を手にした。

 広州恒大戦の快勝が、ひとつのきっかけとなったのは間違いないだろう。

「前回(広州恒大戦)できて、今日できないのはあり得ないということは、試合前に言い合った」

 西川周作が振り返ったように、選手全員に備わる危機感が逆転勝利の要因となった。これで浦和は勝ち点を35に伸ばし、10位に浮上。ひとまず、残留争いから一歩抜け出している。

 アジアの頂点を争うようなチームが、国内リーグで苦戦を強いられる原因はどこにあるのか。カップ戦とリーグ戦では、戦い方に違いがあることは確かだろう。

 負ければ終わりのカップ戦には、ある意味で失うものがないから、開き直った戦いができる。逆にリーグ戦は敗れても、戦いは続く。その負の流れを断ち切れなければ、降格という悲劇が待ち受ける。だからプレーが委縮し、受け身になり、保守的になってしまう。

 そんな見立てを西川にぶつけると、浦和の守護神は「強いて違いを挙げるなら」と前置きしたうえで、次のように答えてくれた。

「規律がしっかりしているのがJリーグかなと思います。アジアは疎(おろそ)かになる場面がたくさんありますし、隙という部分ではアジアのほうがある。Jリーグの難しさは、徹底してやってくることですかね」

 隙を見せない相手の対策を、いかに上回るのか。それがJリーグにおける浦和のテーマとなる。そしてこの日の浦和は、その難題をクリアしたと言えるだろう。前半終了間際から始まった攻勢は、まさに相手の対策を上回ったことで実現したのだ。

 大槻毅監督は、とりわけ前線(1トップ2シャドー)のポジショニングの変化が奏功したと振り返る。

「(1トップの興梠)慎三が少し孤立するような形で、(2シャドーの)武藤(雄樹)と(長澤)和輝のところがうまく使えていなかったので、その立ち位置を試合中に変えられればいいなと思っていた。前半30分過ぎに慎三と武藤が(ポジションを)変えたり、1列降りてきたりしたことで、ボールが握れるようになったと思っています」

 相手の対策を試合中に見極め、臨機応変に対応していく。隙を見せない相手に対して、能動的に動くことで、隙を生み出していった。その意味で、浦和にとっては会心の一手であり、今後への自信につながる勝利になっただろう。

 残り試合の対戦相手を見ていくと、首位の鹿島をはじめ、FC東京、川崎フロンターレ、サンフレッチェ広島と、上位との戦いが続く。それでも西川は、笑顔で話す。

「こういう順位にいると、下から引き込もうとする力に飲まれてしまいがちですが、自信を持って戦うことができれば問題ない。とにかく、上を目指すだけ。最終的に、『レッズ、意外と上にいるな』という順位で終われればいいですね」

 アジアの頂点とJ1残留をかけた戦いは、果たしていかなるエピローグを描くのか。この1週間で得たふたつの勝利が、浦和にとっての大きなターニングポイントとなるかもしれない。