優勝候補の一角、フィジカル大国「ボッカ」がイタリアの夢を撃破した。 ラグビーワールドカップも予選プール中盤から終盤にさしかかり、10月4日には静岡・小笠山総合運動公園エコパスタジアムでプールB注目の南アフリカ代表(世界ランキング5位)vs…

 優勝候補の一角、フィジカル大国「ボッカ」がイタリアの夢を撃破した。

 ラグビーワールドカップも予選プール中盤から終盤にさしかかり、10月4日には静岡・小笠山総合運動公園エコパスタジアムでプールB注目の南アフリカ代表(世界ランキング5位)vsイタリア代表(14位)が行なわれた。



イタリア代表から2トライを奪ったチェスリン・コルビ

 戦前の予想は、当然ながら過去優勝2回を誇る「スプリングボクス(ボッカ)」こと南アフリカ代表が優位と見られていた。ただ、南アフリカ代表は予選プール初戦でニュージーランド代表に敗戦(13−23)しており、この試合に負けると予選プール敗退の可能性も出てくる。

 一方、2連勝中(vsナミビア代表47−22、vsカナダ代表48−7)の「アッズーリ」ことイタリア代表は、最終戦にニュージーランド代表戦が控えている。予選プール2位で決勝トーナメントに進出するためには、何としてでも南アフリカ代表を倒すしかない。2年前の秋には、20-18で勝利している。

 また、この試合の勝者はプールBの2位となる可能性が高い。日本代表がプールAを1位で通過した場合は準々決勝でブールBの2位と対戦するため、日本のファンにも注目される一戦となった。

「ティア1」と呼ばれる世界の強豪同士が激突したプールBの大一番。国内外44,148人もの観客を集めてキックオフされた。

 試合は序盤から、南アフリカ代表がフィジカルを生かして優勢となった。ボッカを率いるラシー・エラスムスHC(ヘッドコーチ)が「今年の5~6試合は一貫性がなかったが、今日の試合はフィジカルが出せた」と話したように、FW陣が試合開始からエンジン全開。いきなりスクラムでプレッシャーをかけた。

 その勢いに押され、前半3分にイタリア代表の右PR(プロップ)が負傷交替。そのスクラムで得たペナルティから敵陣に入った南アフリカ代表は、ラインアウトを起点にボールを展開した。そして、「ポケットロケット」の異名を持つWTB(ウイング)チェスリン・コルビが相手ふたりをかわし、前半5分に先制トライを挙げた。

 前半15分、替わって入ったイタリア代表の右PRが再び、脳しんとうの疑いがあるため退場した影響で、ワールカップでは珍しい、スクラムの押し合いを行なわず組むだけのノーコンテストで試合が続行された。

 互いにPG(ペナルティゴール)を決めた直後の26分、日本のクボタでもプレーする南アフリカ代表のNo.8(ナンバーエイト)ドウェイン・フェルミューレンがジャッカル(ボールを奪うプレー)を決めて反則を誘う。そして最後は、ゴール前でモールを押し込んでトライ。前半を17-3のスコアで折り返した。

 ただし後半、先にイタリア代表がトライを挙げれば、試合の流れはどちらに傾くかわからない。開始早々に攻勢に出たイタリア代表はラインブレイクからゴール前に攻め込み、大きなチャンスを得た。

 しかし後半2分、イタリア代表PRアンドレア・ロボッティがフェルミューレンを抱え上げてそのまま地面に落としてしまい、危険なタックルによってレッドカードで退場となる。このワンプレーで、試合の趨勢は決まってしまった。

「3-17でハーフタイムを迎えて、すべてパーフェクトにできれば逆転できたかもしれない。試合前はゲームプラン、戦術に自信があった。アンドレアが一番絶望しているかもしれないが、私たちも絶望した。レッドカードでこの試合は終わってしまった」(イタリア代表コナー・オシェイHC)

 数的優位となった南アフリカ代表は、堅固な組織ディフェンスで後半は相手に得点を許さなかった。そして攻撃でも、SH(スクラフハーフ)ファフ・デクラーク、SO(スタンドオフ)ハンドレ・ポラード、FB(フルバック)ウィリー・ルルーがハイパントやスペースへのキックで主導権を握る。キックをうまく使ってプレッシャーをかけられたことに対して、デクラークは「味方がしっかりと追いかけて空中で競ってくれた」と胸を張った。

 南アフリカ代表は後半10分にPGで追加点を挙げ、後半13分にはポラードのオープンサイドへのキックからコルビが再びトライ。さらに後半17分には相手のパスをカットしたCTB(センター)ルカニョ・アムがインゴールに飛び込んで勝負あり。南アフリカ代表は後半だけで5トライを奪い、最終的に49-3で快勝して勝ち点5を獲得した。

 プレイヤー・オブ・ザ・マッチには、2トライを挙げたコルビが選出。「ボールを持って走るのが大好きなので、ワイドに展開して走っているとワクワクします。この賞を取れたのは、選手みんながハードワークしてゲームプランを遂行した結果です」。

 大敗したイタリア代表は、次にニュージーランド代表戦が控えている。試合後、レッドカードのショックが引かないオシェイHCは、「右PRにケガ人が出てしまい、オールブラックスとどう戦ったらいいのか……」と、すでに白旗を上げた様子だった。ただ、イタリア代表はカナダ代表とナミビア代表に勝って予選プール3位以上を確定したため、2023年のフランス大会の出場権を獲得した。

 一方、南アフリカ代表は予選プール最終戦で世界ランキング22位のカナダ代表と対戦する。決勝トーナメント進出は、ほぼ間違いない。

 黒人として初めて南アフリカ代表のキャプテンとなったFL(フランカー)シヤ・コリシは、イタリア代表との試合をこう振り返る。

「フィジカルで強度の高い、いい試合だった。(決勝トーナメント進出に)大きなステップとなった。ただ、トライを獲る方法は美しくなくてもいい。ゲインラインを超えていくことが大事だ」

 初戦でオールブラックスに敗れたが、南アフリカ代表の調子は上向きだ。日本代表が準々決勝で対戦する可能性もある。さすがは優勝候補の一角、難敵であることは間違いない。