香川真司(レアル・サラゴサ)、岡崎慎司(ウエスカ)、そして柴崎岳(デポルティーボ・ラ・コルーニャ)というロシアワールドカップ日本代表のメンバーの3人が、今シーズンはスペイン挑戦に乗り出している。「彼らのようなスター選手が、2部のクラブ…

 香川真司(レアル・サラゴサ)、岡崎慎司(ウエスカ)、そして柴崎岳(デポルティーボ・ラ・コルーニャ)というロシアワールドカップ日本代表のメンバーの3人が、今シーズンはスペイン挑戦に乗り出している。

「彼らのようなスター選手が、2部のクラブに来てくれるなんて!」

 3人は各クラブで入団を歓迎され、1部昇格の期待も高まった。スペイン2部リーグは開幕して1か月半が経過。9試合を消化した。序盤戦を終え、その明暗が見えてきた。

 3人の現状と、1部昇格レースの行方は――。




サラゴサのトップ下でエースになりつつある香川真司

 第9節終了現在、香川を擁するサラゴサは、1試合未消化で昇格圏内(1、2位が自動昇格、3~6位は昇格プレーオフ)の3位に位置している。失点数は6で、リーグ2番目に少ない。常にポジション的優位を取ることで守りを固め、その安定を攻撃にもつなげている。

「スペイン2部は守備の安定が昇格を左右する」

 そう言われるが、昨シーズンも上位7チームはイコール、失点数の少ない上位7チームだった。余談だが、得点ランキング5位までのゴールゲッターを擁したチームは昇格できていない。守備の組織を作って攻撃を促すチームが、昇格に近づけるのだ。

 その戦いの中、トップ下でエースになりつつあるのが香川だ。

「香川は抜きん出た技術で、決定的な仕事ができる」

 ビクトル・フェルナンデス監督は言う。指揮官はもともとトップ下のファンタジスタを好み、攻撃的サッカーを志向する。過去には、セルタでアレクサンダー・モストボイ、サラゴサでパブロ・アイマールを用い、旋風を巻き起こしたこともある。実務的な堅牢さを誇るチームに、ひらめきを与えられるのだ。

 香川の魅力は、ボールキープ力と相手の逆を取れるパスだろう。しかし、サラゴサではシューターとしても存在感が際立つ。第5節、エストレマドゥーラ戦ではリーグ2得点目を決めたが、エリア内でボールを受けると、パスよりもシュートの選択。相手に阻まれながら、こぼれた球を再度叩き込んでいる。

 ドルトムント、マンチェスター・ユナイテッドを渡り歩いた経歴は伊達ではなく、上々のスタートだ。

 香川に匹敵する活躍を見せるのが岡崎だろう。プレシーズンはマラガで過ごしたが、クラブの経済的な問題で、開幕後ウエスカに移籍してきたばかり。しかし、何の違和感もない。戦術センスに優れ、ボールを呼び込み、攻撃を生み出せる。

 ウエスカは、昨シーズンまで1部に在籍。ミケル・リコのように1部経験の長い選手やレアル・マドリードでデビューを遂げた新鋭FWクリスト・ゴンサレスを擁する。第9節ではカディスとの首位決戦に敗れ、4位に後退したものの、1部昇格の最前線にいる。

 チームの特長はやはり守備の堅牢さで、ここまでサラゴサを上回るリーグ最少の5失点。スペインU-21代表GKのアルバロ・フェルナンデスは鉄壁で、GKのレベルの高さは、サラゴサのアルゼンチン代表候補クリスティアン・アルバレスとも通じる。守備組織だけでなく、GKのスーパーセーブが潮目を作るのだ。

 そして岡崎は前線で異彩を放っている。周囲と連係する力は出色で、フィニッシャーとしての力も証明。第8節のジローナ戦で見せたシュートは圧巻だった。エリア内でヘディングのパスをゴールに背を向けて受けると、反転しながらのボレーシュートを叩き込んだ。

 元プレミアリーグ王者のFWは、ゴール量産体制に入るか。

 一方、MF柴崎はデポルで苦しんでいる。チームは開幕以来、勝ち星なしで22チーム中21位と低迷。リーグ最多の17失点と守備が崩れ、柴崎は戦犯のように扱われつつある。大手スポーツ紙『アス』にはヌマンシア戦、ミランデス戦で最低の0点(0~3の4段階)をつけられる始末だ。

 入団時、柴崎の評価は特大クラスだった。

「ワールドクラスのボランチがやってきた。技術的には、2部リーグでも1、2を争う。魔法のキック!」

 地元の記者たちは絶賛し、”救世主の到来”に夢中だった。ところが、開幕2試合目のウエスカ戦で流れが変わった。

 柴崎が自陣ゴールライン近くまで下がり、蹴ったボールが味方を直撃。これが敵に渡り、そのままゴールを決められた。さらに数分後、浮き上がった五分五分のボールに対し、自陣ゴール前で競り負け、ボールをエリア内へ入れられてしまう。これがまたも、失点につながった。何気ないシーンだが、ボランチが自陣で犯すミスは厳しく糾弾される。

 柴崎のキックセンスはすばらしいし、一瞬で局面を変えるパスは群を抜いている。しかし、ヘタフェ時代から中央の選手としての強度が懸念材料だった。連係も不十分で、最近は途中交代ばかり。直近の第9節ジローナ戦では、とうとうスタメンを外され、出場はなかった。ちなみに柴崎が日本代表に招集される間も、2部リーグの試合は開催される。

 序盤戦、日本代表3選手の明暗は分かれている。もっとも、2部は長丁場だ。全42試合の熾烈な戦いは続く。