現地時間10月1日から始まったMLBポストシーズン。これからおよそ1カ月間、ワールドシリーズ制覇に向けて熾烈な戦い…

 現地時間10月1日から始まったMLBポストシーズン。これからおよそ1カ月間、ワールドシリーズ制覇に向けて熾烈な戦いが繰り広げられる。短期決戦特有の雰囲気のなか、注目すべきポイントはどこなのか。かつてドジャースのスカウトやダイヤモンドバックスの顧問を務めた経歴を持つ小島圭市氏に、ポストシーズンの展望を占ってもらった。

 ポストシーズンのような短期決戦は、先発よりも中継ぎや抑えといったリリーフが重要になります。シーズンは年間トータルの戦いなので、先発投手は序盤に3、4点取られても6~7回を投げて試合をつくることを求められます。

 でもプレーオフは、そうじゃない。調子が悪かったり、少しでも点を取られるとどんどん代えていきます。長いイニングを投げて試合をつくるのではなく、4~5回を最少失点にとどめ、うしろのピッチャーにつなぐことが任務です。

 当然、リリーフの重要性は増します。シーズンなら、クローザーは基本ひとりですが、ポストシーズンではふたり体制にしたいところです。その日の調子や、対戦相手との兼ね合いを考え、ふたりで8~9回を抑えるイメージです。いずれにしても、リリーフを万全にすることが、短期決戦を制する道だということです。

 今シーズンは、ミネソタ・ツインズやニューヨーク・ヤンキースがシーズン300本塁打を超えるなど、どこのチームも打線が強力でした。ただ、メジャーは莫大な情報を分析して打者の弱点を洗い出し、とくにプレーオフのような短期決戦は徹底的に攻め続けます。

 おそらく今までとはガラリと配球が変わりますので、レギュラーシーズンのように打てると期待しない方がいいでしょう。とはいえ、必ずコントロールミスというのは出てきます。それを逃さずに1球で仕留められるか。技術と集中力の勝負になります。



今シーズン21勝を挙げたアストロズの絶対的エース、ジャスティン・バーランダー

ア・リーグ展望

 そうしたことを踏まえ、ポストシーズンの展望を予想したいと思います。まずはア・リーグから見ていきたいと思います。

 優勝候補の筆頭は、ヒューストン・アストロズです。ジャスティン・バーランダー(今シーズン21勝6敗)、ゲリット・コール(同20勝5敗)、ザック・グリンキー(同18勝5敗)の先発3本柱は、メジャー屈指の強力さを誇ります。彼らが5回ぐらいをメドに投げてきたら、そう点は取られないと思います。対戦相手にしてみれば、6~9回の4イニングで点を取らなければならないイメージです。

 とはいえ、今年のアストロズのリリーフ陣は盤石ではありません。クローザーのロベルト・オスーナは38セーブとよくやっていますが、絶対的な感じはしません。2、3点差ではベンチも安心できないと思います。リリーフにつなぐまでどれだけのリードを奪えるか。打線の出来も大きなカギになると思います。

 その打線ですが、チーム打率.274は両リーグトップ。ジョージ・スプリンガー、ホセ・アルトゥーベ、アレックス・ブレグマン、ユリ・グリエルと経験豊富な打者が揃い、そこに今年メジャーデビューを果たし、27本塁打を記録したヨーダン・アルバレスもいる。正直、誰をマークすればいいのか(笑)、というぐらい強力です。投打とも、頭ひとつぐらい抜けている印象がありますね。

 アストロズの対抗馬となるのがニューヨーク・ヤンキースですが、ここに来てトラブルが続いています。リリーフのダリン・ベタンセスはようやくケガから復帰したと思ったら、わずか1試合で再び離脱。また、ケガではありませんが、今シーズン18勝を挙げたドミンゴ・ヘルマンがDV(ドメスティック・バイオレンス)規定違反により、プレーオフに出場できなくなりました。

 先発陣は、今季15勝のジェームズ・パクストン、12勝のJA・ハップ、11勝の田中将大と頭数はいるので、シーズン終盤に復帰したルイス・セベリーノをリリーフに回すもの手だと思います。クローザーのアロルディス・チャップマン、セットアッパーのアダム・オッタビーノ、ザック・ブリットンの3人はある程度計算できますので、そこまでをいかにつなぐかが重要になるでしょう。

 一方の打線は、シーズン前半はアーロン・ジャッジ、ジャンカルロ・スタントンを欠くなか、DJ・ラメイヒュー、ジオ・アーシェラといった新しく入ってきた選手が結果を残してきました。また、ここに来て、ジャッジは本来のバッティングを見せていますし、グレイバー・トーレスも本格化してきた。スタントンはまだ状態が上がりきっていないので、思い切って代打の切り札で起用するのも面白いと思います。

 主力を欠いても代替選手が見事に穴を埋め、あらためて選手層の厚さを見せつけたヤンキースですが、投打ともにアストロズと比べると戦力は見劣りしてしまう。いずれにしても、接戦に持ち込めるかがカギになりそうです。

 この2つに続くのがミネソタ・ツインズです。シーズン307本塁打は両リーグトップ。圧倒的な打撃力で勝ち抜いてきました。ただ、先程も言いましたが、プレーオフはシーズン中のようなバッティングをさせてもらえません。30本塁打以上を記録した選手が5人いますが、どこまで機能するかは未知数です。シーズンどおりの野球ができれば一気に勝ち抜く可能性はありますが、投手力が弱いだけに厳しいでしょうね。

 ワイルドカードゲームでオークランド・アスレチックスを下したタンパベイ・レイズですが、派手さはありませんが、しっかりした野球をやってくるチームです。とくに投手陣はチャーリー・モートンを筆頭に安定感があります。昨年のサイ・ヤング賞投手であるブレイク・スネル、タイラー・グラスノーが復調すれば面白いですが、ア・リーグを勝ち抜くには戦力的に足りない気がします。

 順当にいけばアストロズですが、何が起きるかわからないのが短期決戦の怖さであり、面白さでもあります。アストロズがシーズン中のような強さを発揮すれば、リーグチャンピオンシップはおろか、ワールドシリーズ制覇も十分にありえます。



今シーズン47本塁打を放ったドジャースのコディ・ベリンジャー

ナ・リーグ展望

 ナショナル・リーグは、ロサンゼルス・ドジャースが大本命です。7年連続地区優勝を飾るなど、大本命にふさわしい成熟したチームです。気になるのは、シーズン前半に比べて、後半はやや失速したといいますか、あまり強さを感じなかったこと。

 先発はクレイトン・カーショー、柳賢振、ウォーカー・ビューラーと盤石。中継ぎ以降も人材は豊富ですが、良くも悪くもケンリー・ジャンセンと心中のチーム。もしジャンセンが打たれるようなことになると、一気に赤ランプが灯ります。

 ちなみに、前田健太ですが、今シーズンはセットアッパーも任されましたが、個人的には先発が早く崩れた時のロングリリーフとして起用するのが、チームにとってもベストだと思います。とくにリードされている局面で、これ以上点をやれないという時に前田の根気強いピッチングはチームに勢いをもたらします。ある意味、前田がドジャースのカギを握っていると思います。

 一方、打線のキーマンはコディ・ベリンジャーです。今シーズン47本塁打、115点を挙げ、名実ともにドジャースの中心選手になりました。当然マークは集中しますが、以前は変化球、とくにカーブがまったく打てなかったのに、今シーズンはそれを狙って打っています。打者としてワンランク上がったように感じます。

 このドジャースを破るとしたら、アトランタ・ブレーブスだと思います。ロナルド・アクーニャJr.やオジー・アルビーズ、フレディ・フリーマンの上位打線は強力です。それに続くジョシュ・ドナルドソンも好調で、ビッグイニングが期待できる。攻撃力という点では、ドジャースと互角か、それ以上のものがあると思います。

 ただ投手力が弱く、先発投手は昨年から思ったほど伸びなかった。とはいえ、経験豊富なダラス・カイケルがアストロズから加わったことで、先発は落ち着きを取り戻した感じがします。リリーフは相変わらず不安が残りますが、調子のいいピッチャーをどんどんつぎ込んでいくしかありません。できれば、打ち合いに持ち込みたいところでしょうが、ポストシーズンでどこまでそんな戦いができるのか。

 残るセントルイス・カージナルスとワイルドカードゲームを勝ったワシントン・ナショナルズもいいチームです。しかし、カージナルスは打線に迫力がなく、いくらポストシーズンは投手力の勝負になるといっても、ある程度得点が期待できないと勝ち抜けません。

 ナショナルズは先発が安定していて、打線もいいですが、リリーフ陣は不安だらけ。シーズンはなんとかしのげましたが、プレーオフは厳しいと思います。打線が爆発して、常にセーフティーリードを保つことができればチャンスはあると思いますが、そういう試合が続くとは考えにくい。

 大本命ドジャースに対し、アトランタ・ブレーブスがどこまで食い下がれるか。ナ・リーグのプレーオフはここが最大の見どころになるのではないでしょうか。