石川祐希(パドバ)が放ったサーブが、イタリアのコートで弾む。ノータッチでサービスエース。バレーボール男子のワールドカップ(W杯)で日本が最初に奪った得点だ。 サーブで攻めて、相手を崩す。そこからブロックとレシーブの守備で粘り、切り返し…

 石川祐希(パドバ)が放ったサーブが、イタリアのコートで弾む。ノータッチでサービスエース。バレーボール男子のワールドカップ(W杯)で日本が最初に奪った得点だ。

 サーブで攻めて、相手を崩す。そこからブロックとレシーブの守備で粘り、切り返してブレイクポイントをもぎ取る。これが日本の目指すスタイルだ。それを体現する最高の滑り出しで、日本は乗った。小野寺太志(JTサンダーズ広島)や西田有志(ジェイテクトSTINGS)のサーブも効果的で、主導権を握った日本は25-17、25-19で悠々と2セットを連取した。

 第3セットは中盤まで一進一退だったが、焦りはなかった。「僕たちにはサーブという武器がある。そこを信じていた」と話した石川が、16-15からこの試合2本目のサービスエースで抜け出すきっかけを作ると、最後は自らのブロックポイントで試合を締めた。第3セットは25-21。セットカウント3-0の完勝劇だった。




W杯初戦のイタリアに勝利し、喜ぶ選手たち

「歴史的な勝利」「大金星」といった言葉も散見されるが、そこは冷静に見ておきたい。

 2016年のリオ五輪で銀メダルを獲得し、世界ランキングは3位のイタリアだが、主力を欠いていた。世界屈指のオポジットであるイバン・ザイツェフ、アウトサイドヒッターのオスマニー・ユアントレーナにフィリッポ・ランザ、それにセッターのシモーネ・ジャネッリらが来日していない。ジャンロレンツォ・ブレンジーニ監督も「今回は若い選手たちを多く連れてきた。大きな目的は、若い選手たちがレベルの高い国際試合、強豪国が集まる大会に参加して、いい経験を積むことだ」と明言している。

 それでも、である。各国の代表選手が名を連ねる、世界最高峰のイタリア1部リーグが国内にあり、そこで揉まれた選手たちが中心となるイタリアは世界有数の強豪国だ。若手が中心とは言え、これまでの日本がそうそう勝てる相手ではなかったことも、また事実である。

 歴史的勝利ではないが、価値ある勝利であることに疑いはない。そして、日本の戦いぶりは、称賛に値するものだった。

「サーブで崩す」。この言葉から連想するのは、石川のサービスエースのように強力なジャンプサーブで得点をもぎ取ることかもしれない。確かに、今の日本には世界に誇れるビッグサーバーがいる。石川、西田に加え、この試合ではピンチサーバーで好サーブを放った柳田将洋(ユナイテッド・バレーズ)。この3人のジャンプサーブは大きな武器になる。

 しかし、それだけではない。この試合では福澤達哉(パナソニック・パンサーズ)の冷静さが光っていた。サーブが決して得意ではない福澤は、相手コートの手前に落とすサーブに徹していた。

「パイプ(中央からのバックアタック)を打たせないという狙い。それと、うちにはいいサーバーがいっぱいいるんで、僕は無理に強く打つよりも、つなぎでミスをせずコースを狙っていくほうがいいかな、と」

 バックアタックに入る選手の手前にサーブを落として体勢を崩し、相手の攻撃の選択肢をひとつ消す。そうすることでブロックのマークがつきやすくなり、レシーブできる確率が上がる。それがブレイクポイントにつながっていく。そんな日本の”トータルディフェンス”が機能した。

 福澤だけではない。ミドルブロッカーの小野寺、山内晶大(パナソニック)のサーブは、取りにくい球質で厳しいコースを狙えていたし、セッター関田誠大(堺ブレイザーズ)のサーブでもブレイクポイントを奪えていた。

 そして、勝つためにもっとも重要な”点をもぎ取る力”も申し分なかった。石川が21本のうち16本を決め、76.19パーセントという驚異的なスパイク決定率をマーク。西田も24本打って14本を決めており、十分な働きだ。第3セットこそイタリアに対応されて決まらなくなったが、セッターの関田が「トスを上げた感覚が遅かった(トスが浮いていた)ので、西田に早めに助走に入ってくれと言って、突くような(速くて低い)トスを上げました」と、タイミングを微調整して再びスパイクで得点するなど、修正能力もあった。

 この2人の決定率の高さは、チーム全体で導いたものだ。ミドルブロッカー陣は高い確率で速攻を決めていたし、何より全員の攻撃参加意識が高かった。レフトから石川や福澤がスパイクを決めたかと思えば、中央から小野寺や山内が速攻を打つ。ライトからは西田が強打を放ち、中央からはバックアタックも飛んでくる。福澤がレシーブしてバックアタックに入れないと見るや、サーブを打ったあとの山内がバックアタックの助走に入るほど攻撃参加意識が徹底されていた。

 常に4人で攻撃することで、3人しかいないイタリアのブロックは文字どおり完全に分断された。司令塔の関田は手応えをこう話した。

「相手はブロックがいいチームだったので、いかに分散できるかが大事だと思っていた。それがうまくできたのがよかった」

 まさに完璧な試合運び。試合後に西田が「『日本のバレーは変わったんだ』っていうところを見せていきたい」と言えば、石川もプライドを込めて力強く宣言した。

「格上のチームを倒す自信を持っている。ずっと『メダルを取る』と言っているので、本当にこのW杯でメダルを取りにいきます」

 もう、「男子バレーは弱い」なんて言わせない。今後に期待を抱かせる戦いぶりだった。