かつてないほど注目を浴びるアクションスポーツシーン。その発展のために、FINEPLAYが送る多角的視点の連載「FINEPLAY INSIGHT」。第一回「スポンサー」、第二回目「実業団」、第三回「社会性」に続いて、はや四回目。継続は力なり!…
かつてないほど注目を浴びるアクションスポーツシーン。その発展のために、FINEPLAYが送る多角的視点の連載「FINEPLAY INSIGHT」。
第一回「スポンサー」、第二回目「実業団」、第三回「社会性」に続いて、はや四回目。継続は力なり!なのですが、ちょっと間が空いてしまいました(涙)。
今回は、アクションスポーツが続々とオリンピックに採用されるということで、シーンの発展について、また違った側面から考えてみたいと思います。
オリンピック競技に採用→シーン発展、は間違い
先日、ブレイキン、スケートボード、スポーツクライミング、サーフィンの4種目が2024年パリオリンピックの追加種目として承認され、2020年末のIOC理事会における正式決定手続きを残しつつも事実上の採用決定となり、アクションスポーツへの目線は熱く高まるばかりです。
今回は「超余計なお世話」ではありますが、僕もブレイキン種目に少しばかり関わっている身として、シーン発展の必要条件について考えてみたいと思います。
まず、オリンピック種目への採用によって、シーンの発展に大きな期待が寄せられているかと思いますが、それはちょっと早計なのではないか。超「嫌なヤツ」ですが、僕はそう考えています。
なぜそう言えるかといえば、たくさんの「反例」があるからです(数学の証明問題を思い出してみてください)。
例えば、2016年リオデジャネイロオリンピックでは28競技306種目が開催されました。すでに3年前の段階で、オリンピックに採用された競技は28もあります。東京オリンピックでは33競技339種目に増えます。さて、そのうち、みなさんがテレビやWEBメディアで能動的に視聴したり、会場に見に行った経験のあるスポーツはどれだけあるでしょうか?トゲのある言い方で申し訳ないですが、何競技くらいが「人気の」スポーツと言えるでしょうか?
確かに、オリンピックに採用されることは「市民権」を獲得することにはつながりますが、ミリオネアプレイヤーや国民的人気のアスリートを生み、力強い経済圏を確立するまでの道のりは、そんなに簡単ではなさそうです。
暗い話で終わってはいけないので、では何がシーン発展に必要なのか?を考えてみたいと思います。
必要なのは、「メディア環境」
結論から言います。僕はシーン発展には、「メディア環境」が必須だと思っています。メディア環境とは、より多くの人の目に触れ、より多くの人に影響を与えられる環境です。1万人や10万人ではいけません。全国のお茶の間に、1000万人単位で届くような環境を持てるかどうかこそが、アクションスポーツの未来を左右する最も大きなドライバーだと思っています。
なぜか?それは、シーンの発展をある一定の経済性(要するに「カネ回り」)の達成だとすれば、企業がお金を出す価値の最もわかりやすい指標が「伝播力=リーチ」であり、それと表裏一体のものが「人気」だからです。
例えば、アメリカで1994年から続いているエクストリームスポーツの祭典で、X GAMESというものがありますね。僕の持論ですが、X GAMESがアメリカで成功して日本で成功しなかった理由は、「日本の競技人口が少ないから」とか「日本人の理解が乏しかったから」とか、「アメリカ人がエクストリームなものをより好むから」ではありません。
それは、X GAMESが世界最大のスポーツテレビ局、ESPNの持ち物だからです。
つまりX GAMESは最初から、全米に配信される「最強のメディア環境」を備えていたイベントだったと言えます。2018年のある調査によれば、ESPNは全米で有料チャンネル契約世帯数の実に93.2%に上る8,600万世帯が契約しているそうです。だからこそ、アメリカを中心に数千万人〜数億人が見るコンテンツになり、それがより多くのファンを捕まえていった。それを通じてシーンの裾野も広がり、強力な「メディア環境」があることでスーパースターが生まれていった。今では公式のYouTubeやソーシャルメディア上でのライブなどを含めると、当初よりも数段大きな影響力を持っているコンテンツになりました。
僕はそのように捉えています。もちろんESPNがエクストリームスポーツに大きなポテンシャルを当初から感じていた点も重要ですし、「メディアが先か、人気が先か」は、「ニワトリか卵か」のような命題です。が、いずれにせよ、メディアの論点を抜きにして、日本とアメリカのアクションスポーツやエクストリームスポーツの可能性を比較して論じることはできません。
それくらい、「メディア環境」は重要だと思います。イベントごとに観客として訪れることが出来る最大人数は、せいぜい数万〜10万人程度ですが、メディアが可能にするのは数千万人単位。その規模の参加人数を巻き込むことが出来る国内のイベントは、国政選挙くらいではないでしょうか。
可能性や間口は広いほうが良い
いまそれぞれのシーンで、あるいはシーンとシーンがつながって一丸となってチャレンジしたいのは、X GAMESがそうであったように、「メディア環境」をどれだけ強化出来るかということです。
とはいえ必要性ばかりを吠えていても意味がないので、是非、メディア側のみなさんにも色々な可能性を検討していただけたらと思います。地上波テレビや配信会社の方は、アクションスポーツの番組枠を、新聞やスポーツ誌の方々は、アクションスポーツの連載を。企業の方々は単なるスポンサーシップではない、メディア視点と「コラボレーション発想」をもった協業を、、、さまざまな可能性を少しずつ検討していただけたら、シーンとしては大変有り難いものです。
反対に、シーン側としてもシーンの中にいるファンやプレイヤーだけを見ているのではなく、より多くの人々が初見やニワカでも楽しめるように、カルチャーの見せ方を含めてアップデートしていかなくてはなりません。それは前回お話した社会性や、普遍性の問題です。何せ日本は世界最先端の高齢化国。国の推計では2030年には20歳以下の人口は15%を切ってきます。アクションスポーツが若者だけにとって楽しいものであり続けては、経済圏も狭まってしまうのは自明です。もちろん、その狭いパイの中での生き筋もありますし、世界で見るとティーン人口は限ったことではありませんが、単純に、可能性は広いほうが良いのではないでしょうか。
メディアとシーンが組んで、一緒に経済性を獲得しながら持続的に成長していけるプラットフォームを作ることができれば、5〜10年後くらいには現在のサッカーのようなマススポーツのポジションを作れるかもしれません。その時、メディアとしてもシーンとしても、状況はよりダイナミックに、より面白くなっているのではないでしょうか。
(続く)
AUTHOR:阿部将顕/Masaaki Abe(@abe2funk)
大学時代からブレイキンを始め、国内外でプレイヤーとして活動しつつも2008年に株式会社博報堂入社。2011年退社後、海外放浪やNPO法人設立を経て独立。現在に至るまで、自動車、テクノロジー、スポーツ、音楽、ファッション、メディア、飲料、アルコール等の企業やブランドに対して、事業戦略やマーケティング戦略の策定と実施を行う。
現在、戦略ブティックBOX LLC代表、NPO法人Street Culture Rights共同代表、(公財)日本ダンススポーツ連盟ブレイクダンス部広報委員長。建築学修士および経営管理学修士。