9月29日に行なわれたズヴォレ戦に、PSVのマルク・ファン・ボメル監督は1週間前のアヤックス戦(1-1)と同じスタメンを組んできた。これがPSVにとって、現時点でのベストメンバーなのだろう。 それでも、堂安律はチーム内の序列を上げていた。…

 9月29日に行なわれたズヴォレ戦に、PSVのマルク・ファン・ボメル監督は1週間前のアヤックス戦(1-1)と同じスタメンを組んできた。これがPSVにとって、現時点でのベストメンバーなのだろう。

 それでも、堂安律はチーム内の序列を上げていた。アヤックス戦で出場機会を得ることのなかった堂安だが、ズヴォレ戦の後半開始早々にFWブルマが負傷すると真っ先に声をかけられ、軽くアップをしただけで「交代一番手」として51分にピッチに送り込まれた。



PSV移籍後、待望の初ゴールを決めた堂安律

 アヤックス戦とズヴォレ戦を挟んで行なわれた9月25日のフローニンゲン戦(3-1でPSVの勝利)で、ファン・ボメル監督は”ベストメンバー”から4人を入れ替えるローテーション制を採用した。その試合で堂安はPSV移籍後、初のスタメンの座を得てフル出場を果たした。

 決して強いインパクトを残すプレーではなかった。だが、それでもファン・ボメル監督は、「堂安はとても安定したプレーをしてくれた。わずかに仕掛けがうまくいかないこともあったが、彼は本当のチームプレーヤー。エキストラな力を持った選手」とポジティブに評価していた。

 これまで堂安は、PSVの一員として4試合(オランダリーグ3試合。ヨーロッパリーグ1試合)に出場。ファン・ボメル監督からはチームプレーヤーと讃えられたが、堂安は「最近は積極的に行かなくて、後悔する試合が多かった」と、自身のパフォーマンスに忸怩(じくじ)たる思いを抱えていた。

「『ボールを預ければなんとかしてくれる選手』が周りにいるからこそ、少しリスクを犯して自分から仕掛けるよりも、周りに渡してしまった。いい意味でチームプレーに徹していたが、それじゃあ自分らしくないし、やっているほうも楽しくないし、見ている人もたぶん楽しくない」

 ボールを失ってもいいから、思いっきりプレーしよう--。その気持ちを抱えてピッチに入ったズヴォレ戦の堂安は、積極的にシュートを打ちにいった。60分のミドルシュートはファン・ウェルメスケルケン際に当たってコーナーキックになり、65分のカットインシュートは相手GKが飛んで弾いた。

 そして72分、ついにPSV入団後初めてのゴールが生まれる。得意の右45度から相手GKのポジショニングをよく確認し、低く押さえたシュートを落ち着いてファーサイドに流し込んだ。

「前半はベンチから見ていて、『スペースがあるから、もっと打ったらいいのになあ』と思ったシーンがあった。だから今日は最初から、ああいうシュートをどんどん狙っていた。それを後半にいかせてよかった。あの角度でボールをもらえれば、確実に決める自信はあります」

 このゴールシーンには、堂安にとって3つの重要なポイントがあった。

 ひとつ目は、右サイドバックのデンゼル・ダンフリースとの連係だ。このゴールシーンは右サイドのビルドアップが起点になったが、そのタッチライン際の狭いエリアで堂安がボールを引き、ヒールでダンフリースへパスを出したことで彼に飛び出しを促した。結果、ダンフリースの飛び出しによってPSVの攻撃にスイッチが入った。

 細かなテクニックという点では物足りないが、ダンフリースはアスリート能力とフィジカル能力が極めて高い。スプリント力を生かしてスペースに走り込んだり、相手に身体をぶつけて強引に縦に進んだりする迫力を持つ。だが、その特徴を生かすプレーヤーがPSVには乏しかった。

「堂安はボールキープ力が高く、味方を生かすプレーもできるので、ダンフリースの動きがズヴォレ戦の後半から非常によくなった」(ファン・ボメル監督)

 ふたつ目は、堂安が「PSVのカウボーイ」の一角として、迫力のある攻撃に加わることができたことだ。ダンフリースから左に振られたボールは、ふたりの選手を経由してからFWステーフェン・ベルフワイン→MFモハメド・イハターレン→FWドニエル・マレン→ベルフワイン→堂安とつながってゴールになった。

 ベルフワイン、イハターレン、マレン、ブルマ(もしくはFWコーディ・ガクポ)が絡み合う4人の攻撃は、アヤックスのエリック・テン・ハーフ監督が「PSVは6人のブロックを作り、4人のカウボーイで攻撃を仕掛けてくる」と描写したことで、「カウボーイ」という呼び名がオランダで定着した。堂安は「カウボーイ」の一員として、ベルフワイン、イハターレン、マレンと阿吽の呼吸を見せ、高速カウンターの仕留め役となった。

 そして3つ目は、「使われなくなってもいいから、積極的にプレーする」という試合前の思いを、ピッチで表現しきったことだ。

 堂安がベルフワインからのラストパスを受け、シュートモーションに入るか入らないかといったタイミングの時、フリーのマレンが「ドーアーーーン!ドーアーーーン!」と甲高く叫び、ボールを要求していた。おそらく、堂安の身体の角度とボールの置き位置から、マレンの姿は見えていたはずだ。しかし、堂安は自らシュートを打ちにいって決めた。そこに迷いはなかった。

「(GKに弾かれた65分のシュートの)フィーリングはよかったですけれど、ああいう中途半端な高さより、(ゴールシーンのように)ゴロのほうが入りやすいと感じました。去年でいうと、ヘーレンフェーン戦みたいなゴールもありました。

 もっともっと、ああいう角度は『あそこで堂安が持ったら絶対に入る』くらい極めていかないといけない。フローニンゲン→PSVといったらアリエン・ロッベンというお手本がいるので、映像を見ながらしっかりやっていきたいと思います」

「去年のヘーレンフェーン戦みたいなゴール」とは、ペナルティエリアすぐ外やや右サイド寄りから決めた、豪快かつ美しい軌道を描いた「北部オランダダービー」でのスーパーゴールのことだ。あの時の恐怖を思い出せるようなミドルシュートで、堂安はズヴォレのGKにジャブを打ってから、最後は巧みにコースを狙うシュートを使って今季2ゴール目を決めた。

「ふたケタゴールを本当に狙っている。初めてというくらい、目標を公表して今シーズンに臨んでいる。シーズンの終わりにオリンピックもあるなか、しっかりと残り8点、獲りたいと思います」

 別れ際に、堂安が「俺の最初のゴール、ズヴォレ戦だったの、覚えています?」と言った。2017年9月30日に行なわれたズヴォレとのアウェーゲーム、堂安は相手DFとGKの股間をダブルで抜くシュートを決めた。

 当時、フローニンゲンの関係者は堂安のことを、「まだユースの少年のようだ」と感じていた。しかし、オランダリーグからデビュー1年で、「ボールのないところでも戦える大人の選手になった」(同関係者)と言われるぐらいに成長した。

 あの初ゴールから、ちょうど2年が経った。「堂安は超・賢いフットボーラーだ」と、ファン・ボメル監督から言われるまでになった。