F1第16戦・ロシアGPはレッドブル・ホンダにとって、残り5戦に向けた”準備”のレースだった。スペック4のICE(内燃機関エンジン)を投入してペナルティを消化しておき、残り5戦でフルにそのポテンシャルを使い切る…

 F1第16戦・ロシアGPはレッドブル・ホンダにとって、残り5戦に向けた”準備”のレースだった。スペック4のICE(内燃機関エンジン)を投入してペナルティを消化しておき、残り5戦でフルにそのポテンシャルを使い切るための準備だ。

 しかし、それ以上にチームを落胆させたのは、厳しい現実を突きつけられてしまったからだ。



フェルスタッペンの実力でもロシアGPでは4位が精一杯

 ソチ・アウトドロームでのレッドブル・ホンダは、フェラーリとメルセデスAMGにまったくと言っていいほど歯が立たなかった。シーズン前半戦の終盤にあれだけトップに近いところまで上り詰めていたはずが、いつの間にかまた2強の後塵を拝するポジションに後退してしまった。

 金曜のフリー走行ではトップタイムを記録する好調ぶりに、チーム内も明るい雰囲気だった。だが、予選では一転して2強チームに後れを取った。それもフェラーリには、0.682秒という大きな差をつけられてしまった。

 そして決勝でも、5グリッド降格でのスタートだったとはいえ、マックス・フェルスタッペンは中団グループを抜くのが精一杯。2強の後方4位でレースを終えた。

 セーフティカー導入でギャップがゼロになったにもかかわらず、そこから上位勢に着いていくことができなかった。タイヤの差があったとはいえ、最後にソフトに履き換えてもファステストラップを獲ることができないと判断するほど、2強との差は明らかだった。

 レース後、フェルスタッペンははっきりと負けを認めた。

「すごく退屈なレースだったけど、間違いなくこれが今日、僕らにできる最大限だったと思う。ファステスト狙いのピットインも考えなかった。前の連中はそんなことをしなくても(使い古したタイヤでも)ファステストラップを取るだろうと思ったから。ソフトに換えてもダメだったと思う。単純に十分な速さがなかった」

 金曜日は最速だったのに、土曜日には一転してフェラーリとメルセデスAMGに大きな差をつけられた。その理由は、追い風が強くなった影響でセクター3でのアドバンテージが消えたことに加え、2強が予選モードでパワーを上げたことにより、ストレート主体のセクター1で後れを取ったからだ。

「フェラーリと比べてストレートでも遅すぎたから、今日の僕らはこれ以上、どうすることもできなかった。昨日はストレート区間でもフェラーリと同等のペースだったのに、今日はほぼ1秒負けていたんだ。こんな状態では、予選で彼らと戦うことなんてできない」

 フェラーリの予選モードに関しては、その合法性が疑われ始めている。しかし、FIA(国際自動車連盟)も取り締まり切れていないのが実状で、ホンダが次の日本GPで投入予定のエクソンモービルの新型燃料・オイルをもってしても縮められる差ではないと、田辺豊治テクニカルディレクターは語る。

「多少は縮まるでしょうけど、『追いつけ、追い越せ』にはならないと思います。(燃料で追いつくには)今の差はちょっと大きすぎますね」

 今回のロシアGPでスペック4を新たに投入したホンダは、各サーキットに合わせたセッティングを最大限に煮詰めることのできる環境を整えた。

 だが、土曜のフリー走行では、トロロッソのダニール・クビアト車に搭載されたパワーユニットにトラブルが発生し、コース上にストップしてしまった。これは、今季初のトラブルらしいトラブルだ。もし、これがスペック4の根本設計に関わるトラブルだったとしたら、ホンダの今後のパワーユニット運用は大きく再構築を強いられることになる。

 しかし、スペック4はすでに4基が数戦の走行を経ているため、今回のトラブルは個体特有の誤差によるものではないか、との見方が強い。

「ドライバーが異常を察知して、バックオフして(スロットルを戻して)コースサイドに寄せました。ここまでスペック4を使って(トラブルなく)レースをやってきていますし、今回問題が起きたのは昨日入れたばかりのもので、(走った)距離的には非常に少ないですから、それを考えると根本設計に関わっているとは思っていません」

 レッドブルが2強チームに対して後れを取ってしまったのは、パワー面もさることながら、車体面の開発の遅れもある。



レッドブルは車体面でも開発に遅れを抱えている

 メルセデスAMGは来季型マシンの開発にリソースを傾注しているため、ここ数戦はアップデートが入っていない。レッドブルも似たような状況にある。その一方で、フェラーリが新型ノーズを投入して苦手だった低速コーナーの速さを身に着けてきた。それがシーズン後半戦の勢力図が変化した大きな要因になっている。

 田辺テクニカルディレクターは語る。

「フェラーリに関しては、フロントノーズを入れたのが明らかに効いている。ただ、相手が何をして速くなったかはわかっても、自分たちが何をすればそこに追いつくのか、それはわかりません。相手が進化したと見ているので、常に新しいものを入れて改善しようとはしています」

 ただし、フェラーリが速いのはストレート区間と低速コーナーだ。空力性能が問われる中高速コーナーでは速くない。

 次はいよいよ、日本GPだ。レッドブルと組んで上位を争っているからには、期待もこれまで以上に大きくなる。

 世の中の期待が大きくなった分だけ個人的なプレッシャーも大きいと、田辺テクニカルディレクターは苦笑いするが、鈴鹿で優勝が狙えると言える状況でないこともしっかりと認識している。

「レースをやっているからには、いつも勝ちにこだわってやっています。ただし、自分たちのポジションを見失わずにやっていますので、(優勝することが)非常に難しい状況だということも認識しています。現段階で言えるのは、『(鈴鹿は)4台入賞・4台ポイント獲得』がいいところだと思っています」

 ただそれは、あくまでシンガポールとロシアで大苦戦を強いられた現段階での話だ。鈴鹿までの1週間あまりで、どこまでこの差を挽回することができるか。厳しい現実を突きつけられたからこそ、鈴鹿に向けて最大限の努力をするしかない。