日本勢3人が進出した、9月28日の世界陸上選手権男子100m準決勝。全員、調子が悪くなかっただけに、悔しさが残る結果になった。

 最初の第1組で走ったのは、サニブラウン・ハキーム(フロリダ大)。前日の予選は「世界選手権なのに普通の大会みたいで、何も感じなくなってきているのが怖いですね。とりあえず、決勝にいけば緊張すると思いますが……」と、リラックスした姿勢で臨み、組3着で全体の8番目となる10秒09で通過。決勝進出のために必要になるであろう10秒0台もあっさりとクリアした。



予選は安定した走りで危なげなく準決勝へコマを進めたサニブラウン・ハキーム(中央)

「予選だから適当に走ったわけではないですが、通過することが前提なので。本当に調子はいいので準決勝で調子を上げて、決勝でもいい走りができたらいいなと思います」

 予選から準決勝、決勝と徐々に気合を入れていく中できっちりと走る、トップ選手の雰囲気さえ醸し出していた。

 だが、準決勝では他の選手よりもリアクションタイムが0秒05ほど遅くなり、スタートに失敗してしまった。序盤の大きな出遅れを中盤から取り戻し始めたものの、追い込め切れず、着順で決勝に進める2位には0秒03届かず、5位という結果だった。

「スタートは全然ピストルの音が聞こえなくて、『鳴ったのかな?』と考えるくらいでした。『セット』までは普通に聞こえたけど、そこから小声でささやかれているみたいに『パン』と聞こえたので、『アレッ?』と思って。横の選手が動いたから自分も動いた感じでした。そこで遅れを取ったので、後半もちょっと差をつけられたのかなという感じです。走り終わった瞬間は『何だこりゃ?』という感じでした」

 ただ、予選と準決勝の2レースで収穫もあった。

「最近はスタートしてから横に足を踏み出してしまうことがあったので、コーチからはしっかり直線上に出してすぐには顔を上げず、一歩一歩をしっかり踏んで、肩から加速し続けられるようにしろと言われていました。今回はそれが少しできたことで中盤から後半はいい走りだったと思う。その点で、こういう大きな舞台でも最初の部分をしっかり組み立てられれば、戦えるレベルになってきていると思えました」

 100m元日本記録保持者の伊東浩司氏も、「中盤から後半にかけての走りは決勝に進出した選手と比べても遜色はなかった」と評価するように、大きな大会でも決勝進出がほぼ当たり前に近いレベルになってきたという手ごたえを得られたことが大きい。

 第2組の小池祐貴(住友電工)もスタートを失敗してしまった。

「精神的にはかなりいい状態で、予選を一本走ったことで体もしっかり動いていたので、(準決勝でも)いいパフォーマンスは出せると思っていました。でもスタート時は、隣の選手が立てた小さな音を気にしてしまい、自分の腕がプルッと動いてしまって、それでフォールスタート(フライング)を取られるかなと考えて思い切り出られなかったんです」

 その影響で最後までレースを組み立てられず、10秒28の7位という結果に終わった。

 第3組で登場した桐生祥秀(日本生命)は、予選と同じくいいスタートで飛び出した。

 前日の予選では「9月1日のドイツの試合(ワールドチャレンジ競技会)のあとから、スターティングブロックの位置を変えたので、その感じを初めて試せたのはよかったです」と、0秒121のリアクションタイムで飛び出していた。

 ヨハン・ブレーク(ジャマイカ)などの強豪が揃っている厳しい組み合わせながらも、力むことなく10秒18でゴールして、この組4位で準決勝進出を決めた。

 桐生は、予選の走りをこう冷静に見ていた。

「強い選手が揃っている組でしたが、調子からいけば3着以内に入って準決勝に進めるという感覚もあった。ちょっとリラックスしすぎましたが、準決勝では緊張感も増すと思うので、違った走りができると思います」

 そんな桐生は、準決勝第3組で0秒125のリアクションタイムでスタートすると、スムーズに加速して中盤までは先頭グループでレースを展開した。しかし、横一線で入った3位争いでは競り負けてしまい、10秒16の6位だった。その一方で、手ごたえも感じている。

「今の自分がやりたい走りができた部分もありましたが、それを完全にできていたら決勝に進めていたなと思います。まだまだ未熟な部分はありますが、今回はスタートラインに立った時には負ける気がしないというか、絶対に一着で決勝に上がってやるぞという気持ちは変わらなかったので、そこはよかったと思います」

 今回のレース結果から、東京五輪に向けてはこう語った。

「中盤の加速区間をもう5mくらい伸ばせるようにすれば、着順での決勝進出も可能になると思いました。これは強がりかもしれないけど、世界のファイナルへいくというのが今回は全然遠く感じませんでした。そこはもっと自分に自信を持って、来年の東京五輪に臨めるのかなと思います」

 10秒01を出して以来、9秒台を期待され続けるプレッシャーの中で、桐生は自分でもタイムを求める気持ちが強くなっていたのかもしれない。だが、今シーズンの桐生は勝負の意識の方が強くなってきていた。この世界選手権でも戦う意識を前面に押し出せてしっかり走れたことは、スプリンターとして次の段階へ踏み出せたといってもいいだろう。

 3人とも準決勝で敗退してしまったが、それぞれが自分の走りを分析し、うちふたりは収穫もあった。あとは、この3人がエントリーしている10月4日の4×100mリレーで、日本が得意とするバトンパスを最大限生かし、金メダルを獲得することで、自信を手にできるだろう。