9月29日に行なわれたオランダとの最終戦。石川真佑(東レアローズ)が渾身のスパイクをレフトからたたき込む。ボールは相手コートで大きく弾んだ。セットカウント3-1で日本の勝利。苦戦続きだったバレーボール女子のワールドカップを3連勝で締め…

 9月29日に行なわれたオランダとの最終戦。石川真佑(東レアローズ)が渾身のスパイクをレフトからたたき込む。ボールは相手コートで大きく弾んだ。セットカウント3-1で日本の勝利。苦戦続きだったバレーボール女子のワールドカップを3連勝で締めくくると、コート上では喜ぶ選手の輪ができた。



セルビアを下すなど、3連勝で大会を終えた日本

 6勝5敗。「7位に入れない」という過去最低成績も日に日に現実味を増していくなかで、最終戦に勝って順位を上げて5位に滑り込んだ。5位という順位だけを見るとまずまずの結果に見えるかもしれないが、中田久美監督が掲げていた「メダルを獲得する」という目標には遠く及ばない。メダル争いに加われずに終わった結果は重い。だが、それは必然の結果だった。

「前半は苦しくて心が折れそうになった」と石井優希(久光製薬スプリングス)は打ち明けた。初戦のドミニカ共和国にこそ勝ったものの、その後はロシア、韓国に連敗。カメルーン戦での勝利を挟んで、中国には17-25、10-25、17-25と完膚なきまでに力の差を見せつけられた。

 多くの試合で見られたのは、ラリー中、セッターの佐藤美弥(日立リヴァーレ)に供給される1本目のパスに高さがなく、コート内がばたつくことだ。佐藤がコート上を駆け回り、何とかボールに追いついてトスを上げてはいたものの、ミドルブロッカーの攻撃参加は少なく、ライト側に振る余裕もない。「レフト偏重」になった攻撃は、ブロックとレシーブの堅固な守備を持つ相手には通用しなかった。

 パスを高く上げすぎずにセッターにリズムよく返球し、そこから攻撃を繰り出す。中田久美監督が久光製薬を率いていたときから貫いてきたコンセプトだ。カメラのひとつのフレームの範囲内にボールが収まるという意味から、「ワンフレームバレー」とも呼ばれる。その戦術は、ラリー中ではブロックに飛んでいるミドルブロッカーやレシーブした選手の攻撃参加が遅れてしまい、攻撃枚数が減る可能性もはらんでいた。

 セットカウント2-3で敗れた9月22日のアメリカ戦後、石井はこう振り返った。

「日本(Vリーグ)では通用していたけど、その分、攻撃枚数が減ったりする。まったく同じっていうのは(世界の強豪国相手には)通用しないと思う。自分たちでいいように変えられるところは変えて、うまくはめていかないといけない」

 ラリー中の1本目に”間”を作り、できるだけ多くのアタッカーに攻撃参加させる。徐々に形になり始めたのが大阪での最後の3連戦だった。最初のセルビア戦後、中田監督はこう言った。

「ラリーが続いたら、少し”間”を持たせるためにパスを高めに返しなさいという話をした。そのことによって、ミドルブロッカーも十分に”間”を取れるようになったのかなと思います」

 もともと「チームがバタバタしているのに、早くパスを持っていくという発想は絶対違う。ラリーが続いたときに1回”間を作る”という意味で、高くコントロールすることはすごく大事。昔から、何が何でも『全部早く持っていけ』と言っているわけではない」と中田監督は言う。しかし、それがきちんと浸透していなかったのだろう。

 1回目のパスを高く上げる。それで得られる”間”は、時間にすればほんのわずかだ。しかし、ボールがほんの何十センチ、何メートルか高く上げられることによって、そこには時間が生まれる。そのわずかな”間”が、多くの攻撃参加を促すことにつながるのだ。

 セルビア戦では、試合途中からミドルブロッカーの奥村麻依(デンソーエアリービーズ)と芥川愛加(JTマーヴェラス)が、ラリー中でもコートを駆け回って攻撃に参加する機会が増え、スパイク打数が増えた。ライト側からの攻撃も効果的だった。必然的に相手のマークは分散し、「レフト偏重」と言われていた時よりも、石井や鍋谷友理枝(デンソーエアリービーズ)のレフト側からの攻撃が生きた。

「チームで1本目に”間”を作って、ミドルブロッカーもちゃんと攻撃に入ってこられるように、全員が攻撃に参加できるようにって(監督が)言ってくれて。本当にリズムが作りやすかった」と、セッター佐藤も効果を実感していた。

 相手あってのことなので一概には言えないが、大会序盤の横浜での戦いぶりとは明らかに違う。エースとして今大会の攻撃を引っ張り、チーム最多となる158点のスパイク得点を挙げた石井は、その成果をこう言った。

「偏りがなく、バックアタックを含めて、みんなが同じ打数になれば相手も惑わされる。私自身も仕掛けていける。監督のワンフレームバレーも取り入れつつ、”間”を作るところは作っていくことができたのが大阪ラウンドだった」

 一方で、最後まで課題として残ったものもある。「魔のS4ローテ」と呼ばれた、セッター(S)が前衛レフト(ポジション番号の4番)に上がるローテーションを筆頭とした、セッターが前衛時の攻撃力の乏しさだ。

 ロシア戦での8連続失点と6連続失点、中国戦での7連続失点と6連続失点は、すべて「魔のS4ローテ」だった。さらに、ブラジル戦の第1セットで、20点に到達するまでに喫した連続失点はすべてセッターが前衛時のものだった。

「あれだけウイークポイントなローテがあると、試合としてはきつい」。ある選手は、中国戦後にそう漏らした。
 
 セッター前衛時が弱くなってしまう原因は明白である。主にセッター対角に入った新鍋理沙(久光製薬)がバックアタックに参加しないことで、攻撃枚数が最大でも3枚にしかならないからだ。強豪国はサーブで攻撃枚数を減らそうと仕掛けてくるため、相手の3枚ブロックよりも少ない枚数で攻撃していた場面も多い。

 3枚のブロックに対して、いかに多くの人数で攻撃を仕掛けて数的優位を作るかが世界の主流。まして、高さで劣る日本であれば、なおさら数的優位の状況を作らないと相手ブロックを打破するのは難しい。
 
 単純計算すると、サイドアウトの応酬だったとして、ローテーションは1セットで4周する。6ローテで1周なので、局面としては24ローテあり、そのうち半分の12ローテでセッターが前衛になる。今大会で日本が多用した、セッターとセッター対角の選手を同時に交代する2枚替えでしのげるのは、セッター前衛時の12ローテのうち3ローテだけ(※)。残り9ローテが弱いローテになる計算だ。

(※)スタメンの選手は、ベンチに下がった後に同一セットで1度だけコートに戻ることができるが、自分と交代で入った選手としか交代できない。そのため、2枚替えを使えるのは1セットで1回のみになる。

 セッター前衛時がこれほど弱点になるチームは珍しい。世界的に見れば、オポジットと呼ばれるセッター対角に入る選手、主にレフト側からの攻撃を担う2人のアウトサイドヒッターは、前衛でも後衛でも関係なく攻撃に参加し、常時4枚攻撃を仕掛けている。日本も新鍋が前衛の時には、4人が連動して攻撃できていた。

 しかし、新鍋が後衛に下がり、セッター佐藤が前衛に上がると、それが影を潜めてしまう。数的優位に立てず、複数のブロックに常にマークされて攻撃が決まらなくなってしまうのである。

 それでも、わずかに改善の可能性は見えた。オランダとの最終戦で、トスこそ上がらなかったが、新鍋がバックライトからバックアタックの助走に入り、トスを呼んだ場面があった。新鍋は言う。

「ライト側にブロッカーがいない状況があったので、呼んでいた。フロントのレフトや、後衛のアウトサイドヒッターがバタバタしている状況があったので準備はしていました」

 これまではブロックフォローを優先していたが、今大会ではセッターが前衛時に連続失点をしてしまうことが多いため、意識が変化したという。

「(前衛のアタッカーが)2枚の時に詰まることが多かったので、そこは私の責任でもある。セッターがいい状況で(トスを)上げられない時でも、ひとつでも多く選択肢があるようにと考えるようになりました」

 打数が多くなくても、バックアタックの助走に入ることで、相手ブロッカーは意識せざるを得ない。今大会は結局新鍋が打つことはなかったが、そこも武器にできるように磨いていくことは今後の大きな課題になる。

 大会直前のケガの影響で、大阪ラウンドでの2枚替えでの出場だけにとどまった黒後愛(東レ)を、前衛からでも後衛からでもどんどん攻撃するオポジットとして起用し、育てていってもいい。いずれにしても、セッター前衛時の弱点を消すためのセッター対角の選手のバックアタックは、これから強豪国と戦っていくためには必須である。

 11試合という長丁場の戦いのなかで得た収穫と、あらためて浮き彫りになった明確な課題。真価が問われる東京五輪までに残された時間は、300日を切っている。