男子テニス界ではBIG3が長年頂点に立っているものの、彼ら以外にも素晴らしい選手は多い。BIG3相手に毎回タイトルを争うとは限らなくても、時には名勝負を繰り広げ、このスポーツをより魅力的にしてくれるベテラン・中堅勢を紹介していこう。今回取り…

男子テニス界ではBIG3が長年頂点に立っているものの、彼ら以外にも素晴らしい選手は多い。BIG3相手に毎回タイトルを争うとは限らなくても、時には名勝負を繰り広げ、このスポーツをより魅力的にしてくれるベテラン・中堅勢を紹介していこう。

今回取り上げるのは、2019年の「全米オープン」で自身3度目のグランドスラム準々決勝進出を果たしたほか、スポーツマンシップにあふれた行動も話題となったディエゴ・シュワルツマン(アルゼンチン)。

世界ランキングでトップ10に入ったことも、四大大会でベスト4以上に進んだこともない選手だが、彼に見覚えのある人は多いだろう。身長は170cmと、180cmでも低いとされるテニス界にあっては特に小柄と言えるが、世界有数のリターンと、コートを縦横無尽に駆ける脚力、守から攻への切り換えの速さを武器に戦い、観客を魅了している。

もちろん本人も身長に悩んだことはある。アマチュアテニスをしていた母親の影響で7歳の時にテニスを始めるが、幼い頃より「チビすけ」と呼ばれ、コーチにも「もう少し背が高ければ…」と言われていた。そして13歳の時、医師から170cm以上には成長しないだろうと告げられる。その通りなら何をやってもうまくいかないと考えた彼は、両親に「もうテニスはやらない」と宣言。しかし、母親から「身長が夢を妨げることはない。だってお前は生まれた時から特別な子だと私には分かっていたから」と励まされ、テニスを続けることに。

とはいえ、楽な道のりではなかった。4人兄弟の一番下としてシュワルツマンが生まれる前から一家は三度の食事も欠くほど経済的に困窮しており、1990年代後半には家族の経営していた衣服とジュエリーの会社が倒産。家族は内職で作ったブレスレットを売って彼の旅費や宿泊費を捻出し、本人も試合の前後にはそれを手伝った。コーチ代などを払えないことも何度もあったが、その度に誰かが無料で引き受けたりして助けてくれたという。「今の僕があるのは、みんなが助けてくれたから」とシュワルツマンは振り返る。

様々な人に支えられた彼は2010年にプロへ転向。4年後の「全仏オープン」で予選を勝ち進んでグランドスラム初の本戦出場を果たし、トップ100入り(96位)。2016年5月に「ATP250 イスタンブール」決勝で当時29位のグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)を破って初優勝を飾る。2017年の「全米オープン」で準々決勝進出。2018年2月の「ATP500 リオデジャネイロ」では1セットも落とさずに優勝し、トップ20の壁を破った(18位)。同年の「全仏オープン」でベスト8入りし、キャリアハイの11位につける。

2019年シーズンは2月からの8大会中7大会で初戦あるいは2回戦敗退と低迷するも、5月の「ATP1000 ローマ」で当時6位の錦織圭(日本/日清食品)らを破ってベスト4へ進出し、自信回復。「クレーコートシーズンにうまく入れなかったので、2試合続けていいプレーをする必要があった。自信を取り戻せて良かった。いい気分だよ。これが僕には必要だったんだ」

そして「全米オープン」では第20シードながら、4回戦で第6シードのアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)を下し、四大大会3度目のベスト8。勝利の鍵は、第2セットで2-0から2-2に追いつかれて迎えた第5ゲームだったと本人は分析する。「彼はリードしている時に大きな存在感を発揮するから、あのゲームを取ることがすごく重要だった。それができた後は楽になったよ」

なお、この試合ではズベレフが警告が聞こえなかったとして審判に抗議する一幕もあったが、そこでシュワルツマンが自分も聞こえなかったと発言して助け船を出し、198cmと長身の相手に器の大きさを示した。この行動が評価され、シュワルツマンは同大会の「スポーツマンシップ賞」を贈られている。

四大大会でも結果を残すようになったことで、ここ2年でトップクラスの相手との成績にも変化が起きている。トップ10との通算成績は大きく負け越している(6勝23敗)ものの、2017年8月に初勝利を挙げて以降は、対BIG3を除けば6勝3敗。前述のズベレフや錦織のほか、ドミニク・ティーム(ウィーン)、ケビン・アンダーソン(南アフリカ)も下した。

2019年9月には元世界3位のフアン マルティン・デル ポトロ(アルゼンチン)を抜いて初めてアルゼンチン選手として最高位を記録。しかし、本人は先輩へのリスペクトを忘れない。「僕がランキングでトップに立ったとしても、実質的なアルゼンチンのナンバー1はフアン マルティンだ」決して慢心せず謙虚だが、勝利への強い思いも持つ。「楽しめればいいという気持ちでコートに立ったことはない。いつだって勝ちたいと思っている」

なお、ディエゴという名前は、身長165cmながら多くの栄光を勝ち取ったアルゼンチンの英雄ディエゴ・マラドーナに由来している。マラドーナ本人と親交があり、当初は「小さなディエゴ」と呼ばれていたが、2017年の「全米オープン」で準々決勝進出を果たした際に「これからはビッグ・ディエゴと呼ぼう」と言われたそうだ。

175cmのマルセロ・リオス(チリ)、178cmのレイトン・ヒューイット(オーストラリア)、178cmのジミー・コナーズ(アメリカ)も、180cmに満たないながらも世界1位に輝いている。“ビッグ”なシュワルツマンがさらなる高みへ上る可能性も十分あるだろう。

(テニスデイリー編集部)

※写真は2019全米オープン8日目のシュワルツマン

(Photo by Clive Brunskill/Getty Images)