我々ピッチサイドのフォトグラファーたちにメンバー表が配られたのは、キックオフ約30分前のことだったと記憶している。念のため目を通すと、事前に発表されていたメンバーとは一部違っていた。日本代表は直前にメンバーを変更したのだ。

11 Lomano Lemeki

23 Kenki Fukuoka

11番、左WTBとして出場を予定していたのはロシア戦でFBを務めたウィリアム・トゥポウだったが、その欄にはレメキ ロマノ ラヴァの名が記されていた。そして、負傷からの復帰を目指した結果アイルランド戦には間に合わなかったと見られていたWTB福岡堅樹の名前もリザーブにあった。

トゥポウの負傷は不運だった。しかし、急遽メンバー入りした福岡のモチベーションは一気に上がったことだろう。過去の実績を考えても、必ずやチームに勢いをもたらす「飛び道具」になる。一枚のメンバー表からそんな思いを巡らしながら、試合を撮影した。

前半終わって9-12。3点ビハインドという展開に息をのんだ。4年前にイングランド、ブライトンの地で南アフリカ戦も僅差のまま試合が進んでいったことを思い出したのだ。SO田村優のキック精度だけが心配だったが、チャンスは作れている。後半トライを取れれば行ける、そう感じさせてくれる頼もしさが日本代表にはあった。

後半はフォトグラファーのポジションを動かせない事情があり、残念ながらアイルランドが攻めてくる側でカメラを構えていた。日本代表がアタックするほど私から遠のいていく形となったが、そのたびに胸を躍らせた。

そして後半18分、スクラムを起点に攻めた日本代表は、ゴール前のラックからSH田中史朗、CTB中村亮土、CTBラファエレ ティモシー、そして左大外に構えていたWTB福岡までパスがつながり、あの値千金のトライが生まれた。

16-12、ついに日本代表が逆転に成功する。後半9分にFB山中亮平に代わって途中出場したWTB福岡が、ピッチに入ってから10分足らずで最大の仕事をやってのけた。

私が抱いていた予感は、きっと試合を見守っていた多くの観客も抱いていたことだろう。それが実現した瞬間、エコパスタジアム、そしてテレビの前の日本代表サポーターは同じ感動を共有し、歓喜したはずだ。

ランメーターは79メートルで両チーム1位。後半37分のインターセプトからの独走(トライにはつながらず)もこの数字に反映されているが、途中出場としては驚異的なスタッツをマークして日本代表の勝利に大きく貢献した。

「本当にうれしい。このために苦しい準備をしてきた。世間は自分たちは勝つと思っていないという話をしていましたし、その中でも自分たちは最高の準備をしてきたから勝てると伝えて、チームとして一丸で戦った」

福岡のシンプルなコメントは実感がこもっていたからこそだろう。試合後、エコパスタジアムのスタンドで自然発生した万歳三唱に、カメラを持ち万歳できない私は心の中で諸手を挙げて、ひとり涙していた。